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復活ドラマ『まだ結婚できない男』の明日はどっちだ!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

長い年月を経て、かつてのヒット作の続編を世に送り出す。それが「復活ドラマ」です。

阿部寛主演『結婚できない男』(関西テレビの制作、フジテレビ系)が放送されたのは 2006年。もう13年も前になります。

ライブドアの堀江貴文社長が逮捕され、トリノ冬季オリンピックが開催され、オウム真理教事件の麻原彰晃の死刑が確定し、安倍晋三内閣が発足し、さらに年末には地上デジタル全国放送が始まりました。

応援していた日本ハムファイターズが日本一になったことを除けば、あまりパッとしない年でしたね(笑)。

2006年、主人公である建築家の桑野信介(阿部)は40歳の独身男でした。「高身長、高学歴、高収入」ではありましたが、かなり独善的かつ偏屈な性格の持ち主です。言わなくてもいいことを、すぐその場で口にする皮肉屋でもありました。

13年後の復活となった『まだ結婚できない男』ですが、53歳の桑野はちっとも変わっていません。というか、「変わってもらっては困る」のが、このドラマなのではないでしょうか。

自分の事務所を持ち、マンションで一人暮らし。クラシック音楽をフルボリュームで流して指揮者の真似事をするのが趣味です。独善・偏屈・皮肉も相変わらずで、外では「一人しゃぶしゃぶ」を味わい、家では指揮棒を振って一人悦に入る。

本人は変わっていませんが、周囲には変化がありました。かつて関わりのあった内科医の早坂夏美(夏川結衣)は弁護士の吉山まどか(吉田羊)に。

隣人の女性も、田村みちる(国仲涼子)から戸波早紀(深川麻衣)になりました。そこにカフェの雇われ店長、田中有希江(稲森いずみ)も絡んできています。

この女性陣との関係なのですが、うーん、ドラマは中盤まできているのに、見ていて、どうもイマイチしっくりきません。いや、それぞれ魅力的な女性なのですが、ややもすると夏美(夏川)やみちる(国仲)を懐かしく思ったりして・・・。

その原因をシンプルに言えば、当時は桑野が夏美と結婚してもおかしくなかったからではないでしょうか。最終的にはダメでしたが、少なくとも可能性は十分にありました。また桑野の価値観や女性たちとの距離感のズレから生まれる笑いを楽しむことも出来ました。

ところが、かつての『結婚できない男』全編を見てきた視聴者は、すでに知ってしまったのです。桑野が「結婚できない男」なのではなく、潜在的に「結婚したくない男」だということを。

そして13年たった桑野を見ても、「まだ結婚できない男」ではなく、「まだ結婚したくない男」であることが明白です。

さらに国勢調査によれば、2010年に20・1%だった、男性の50歳時の「未婚率」は、2015年には23・4%。それから4年たった現在は、もっと上昇しているはずです。つまり、13年前と比べて、桑野はどんどん「普通の人」になっているのです。

そうなると、まどか(吉田)も、早紀(深川)も、有希江(稲森)も、一種の背景へと後退し、今回の続編で楽しむべきは、桑野の「変わらなさぶり」一本勝負ということになります。

「もう少し早く続編を見たかった」というのは、無い物ねだりになってしまうでしょう。あの13年前のような「盛り上がり」を求めるのは難しいかもしれませんが、阿部さんの怪演、いえ快演のおかげで、十分楽しめる作品であることに変わりはありません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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