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映画公開! 池井戸潤原作『七つの会議』にはドラマバージョンがあった!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

野村萬斎さん主演の映画『七つの会議』が、2月1日に封切られました。監督は、ドラマ『半沢直樹』などで知られるTBSの福澤克雄さん。劇場での観客の出足は良いそうで、東宝も喜んでいることでしょう。

ところで、この『七つの会議』にテレビドラマ版があったこと、ご存知ですか?

2013年の夏に、NHKが土曜ドラマ『七つの会議』全4話を放送したのです。舞台はある中堅電機メーカー。東山紀之さん演じる営業課長が、企業ぐるみの不祥事隠蔽に巻き込まれていく物語です。

問題となったのは「強度不足の製品用ネジ」でした。乗り物の座席を固定するのに使われており、場合によっては大事故を引き起こす危険性があるのです。

しかし、まともにリコールすれば、親会社や孫請けの零細企業も含めて大打撃となります。会社は、なんと一人の社員に不祥事の罪を着せようと画策し・・・。

ドラマ『七つの会議』が描いていたのは、いわば「組織のダイナミクス(力学)」の怖さでした。個人の正義感や批判精神が抑え込まれ、やがて判断が停止し、ついには組織の目的に合わせて自己を超越してしまうのです。

隠蔽工作について、この会社の社長(長塚京三)が、こう言い放ちます。

「過ちではない。決断だ!」

当時、このドラマを見ていて、いくつもの現実の事件を思い出しました。日本ハム牛肉偽装、三菱自動車リコール隠し、ミートホープ食肉偽装などです。

これらの会社では、ドラマ同様、不正行為の指揮をとった幹部や不正と知りつつ従っていた社員たちは、会社と自分のことは考えても、社会に目を向けてはいませんでした。そういう意味で、実にリアルなドラマだったのです。

原作は、ドラマ『半沢直樹』や『陸王』と同じく池井戸潤さんの小説です。

とはいえ、企業が抱える危うさを、「これでもか!」とあぶり出したこのドラマ、おそらくスポンサーを必要とする民放では作れない作品だったかもしれません。

主人公・原島万二の東山さんや係長役の吉田鋼太郎さんなどの好演と、『ハゲタカ』の堀切園健太郎ディレクターの手堅い演出にも拍手でした。

映画『七つの会議』と見比べてみると面白いと思うのですが、NHKオンデマンドでも配信していないようだし、ここは太っ腹に再放送!なんてこと、ありませんかね?

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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