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『家売るオンナの逆襲』三軒家万智 驚異的売上げの「秘密」とは!?

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

帰ってきた「家売るオンナ」の逆襲

女優・北川景子さんといえば、2015年の『探偵の探偵』(フジテレビ系)が、今も印象に残っています。このドラマで、北川さんは全身から怒りのオーラを発するヒロインを、キレのいいアクションも披露しながら演じていました。

その後、実生活ではDAIGOさんの妻(!)になったりしましたが、16年の『家売るオンナ』(日本テレビ系)で、ドラマに本格復帰しました。

その『家売るオンナ』が好評だったことから、日テレは17年に『帰ってきた家売るオンナ』を、スペシャルドラマとしてオンエアします。このとき、三軒家万智(北川)は上司だった屋代(仲村トオル)と、「サンチー不動産」という会社をやっていました。社長は、もちろん万智です。

そして19年1月。連ドラとしてスタートしたのが、『家売るオンナの逆襲』です。前回のタイトルが『帰ってきたウルトラマン』へのオマージュなら、今回は『ゴジラの逆襲』でしょうか(笑)。脚本家・大石静さんのユーモア精神に拍手です。

『家売るオンナの逆襲』では、万智が屋代と共に、懐かしい「テーコー不動産」新宿営業所に帰ってきました。しかも屋代と結婚したので、屋代は「上司」にして「夫」ということになり、これまた小ネタの材料になっています。

三軒家万智 驚異的実績の「秘密」

当然ですが、不動産は高額商品です。そう簡単に売れるもんじゃありません。しかし、万智は違います。何しろ、「私に売れない家はありません!」の人ですから。北川さんがケレン味いっぱいに、このキメ台詞を言い放つたび、その堂々のコメディエンヌぶりに感心してしまいます。

今期もまた、「それが私の仕事ですから!」とばかりに難しい物件を、売って売って売りまくっている万智。その驚異的な成約実績の秘密はどこにあるのでしょう。

たとえば第1話。夫の定年退職を機に、住み替えを計画している熟年夫婦が相手でした。しかし、長年の専業主婦暮らしにうんざりし、離婚したいとさえ思っている妻(岡江久美子)が、どんな物件にも難癖をつけるため、なかなか決まりません。

万智は、この夫婦の自宅を訪問した際に、妻が発揮している「生活の知恵」と「合理的精神」に着目します。その上で、妻自身の「働くこと」に対する甘い認識を指摘し、夫に対して抱いている不満の解決策を提示しました。それによって、墓地に隣接する一軒家を購入し、夫婦2人で暮らすことに着地します。

また第2話では、一人暮らしの女性客(泉ピン子)が胸の内に隠していた、「孤独死」への不安を解消する形で、彼女が愛用していたネットカフェと、それぞれの事情を抱えた利用客の両方を救いました。

さらに第3話に登場したのは、トランスジェンダーの夫を持つキャリアウーマン(佐藤仁美)です。彼女は夫の気持ちを頭で理解しながらも、感情的には、かなり複雑な思いをしています。万智は、娘を含む家族3人が、それぞれ自分を押し殺すことなく住める家を勧めていきました。

「課題発見・問題解決」型営業というスゴ技

こうして万智の仕事ぶりを眺めていると、単に「家」を売っているのではないことが分かります。

顧客たちが、どんなことで悩んでいるのか。もしくは何に困っているのか。万智は、彼らが個々に抱えている「課題」を発見し、住む「家」を活用して、その問題を「解決」していきます。つまり、やっていることは、「課題発見」そして「問題解決」だと言えるでしょう。

もちろん、そのためには陰で綿密なリサーチを行います。時には、探偵かと思うような行動にも出ます。徹底的に観察し、課題を見つけ、情報を集め、顧客に合った解決法を探すのです。やはり、タダ者ではありません。

もう一度言うなら、万智はその家族が抱えている、しかも本人たちさえ気づいていない問題点や課題を見抜いていきます。家はその解決に寄与するツールに過ぎません。つまり万智は家を売っているのではない。家を通じて“生き方”を提案している。このドラマのキモはそこにあります。

留守堂謙治の「参戦」と、レジェンドの「天の声」

それから、今期新たに参戦してきた、留守堂謙治(松田翔太)がいいですねえ。フリーランスの不動産屋という設定が面白いだけでなく、万智と互角に張り合うヤリ手でありながら、私生活ではドジというか、結構オチャメで、かわいいところがある。こういう人物の造形、大石さんは実にお上手です。

あと、毎回楽しんでいるのが、「天の声」です。ナレーションでも、語りでもなく、「天の声」。あの『スッキリ』を思い出しますが、こちらは中村啓子さんという大ベテラン、伝説のナレーターが担当しています。

物語の流れや人物について、“正しい日本語”で淡々と説明しているかと思うと、ふとした瞬間に、「お忘れかもしれませんが・・」などと、くすっと笑えるフレーズをはさみ込んでくる。まるで『チコちゃんに叱られる!』(NHK)における森田美由紀アナウンサーみたいな存在です。今度見るときに、注意して聞いてみてください。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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