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「道産子」俳優たちが盛り上げる日曜劇場『下町ロケット』後半戦

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

日曜劇場『下町ロケット』(TBS系)は3年ぶりの続編となります。主人公の佃航平(阿部寛)をはじめ、農家の後継ぎへと転身した元経理部長の殿村(立川談春)、技術開発部長の山崎(安田顕)、そしてエンジニアの立花(竹内涼真)など、おなじみの顔がそろっています。

それを眺めていると、ちょっと和みますよね。まさにシリーズ物のありがたさであり、それは帝国重工の財前(吉川晃司)や社長の藤間(杉良太郎)も同様です。

後半戦のキーマン!?

前作でのロケットに搭載するバルブから一転して、今回はトラクターのトランスミッションの開発ということで、物語はスタートしました。舞台は「宇宙から大地へ」というわけです。

しかし、いきなり展開されたのが「特許侵害」をめぐる法律的な攻防戦だったり、相手をだましたり、裏切ったりといった、やや暗めで陰湿なエピソードが続きました。そこには、かつてのような熱い技術開発合戦とその逆転劇がもたらした爽快感があまりありません。これには視聴者側も、少々戸惑っているのではないでしょうか。

そんな『下町ロケット』が後半戦に突入して、より精彩を放ちはじめたような気がします。そのキーマンとなるのは、北海道農業大学教授の野木博文(森崎博之)です。佃(阿部)とは大学時代からの友人で、現在は「無人農業ロボット」の研究をしています。

野木は北海道の出身で、元々は人工衛星の情報を活かして北海道の農業を自然災害から守りたいと思っていた男です。農業に対する危機感も、それを救いたいという気持ちも人一倍強い。無人農業ロボット(トラクターなど)が人手不足を補うことで、たとえば米農家がその技術や伝統を継承しながら利益も上げていくことを可能にしようというのです。

「道産子」俳優たちの奮闘

この野木に、森崎博之さんがピタリとはまっているんですね。森崎さんは、大泉洋さんや安田顕さんが参加している北海道の演劇ユニット「TEAM NACS(チーム・ナックス)」のリーダーです。

そうそう、昨年の日曜劇場『陸王』で、ランナーの茂木(竹内涼真)が所属していたダイワ食品陸上部。その監督である城戸を演じていた、音尾琢真さんもまたナックスのメンバーです。

私は6年間、単身赴任で北海道に住み、現在も道内の番組でコメンテーターをさせていただいていますが、北海道で「リーダー」といえば森崎さんのことであり(オーバー)、あの顔を知らない人はいません。

森崎さんの番組『あぐり王国北海道NEXT』(HBC北海道放送)は、『森崎博之のあぐり王国北海道』として始まって、もう10年も続いている長寿番組です。

道内各地の農業の現場に足を運んできた体験は、ドラマの中で農業の未来を語る森崎さんの言葉に、フィクションを超えたリアリティーを与えています。こんな役者、そうそういるものじゃありません。

しかも、そんな野木を同じ技術者として敬愛し、また共感する佃製作所の山崎を演じているのは、森崎さんと同じく道産子の安田顕さんなのです。

山崎が野木に向かって、「無人農業ロボットは米作りだけじゃなく、(北海道の特産品である)ジャガイモやトウモロコシなど、いろんな作物の収穫に役立てるかもしれない!」と言う場面など、見ていて胸が熱くなりました。

無人農業ロボットの開発は、ダイダロスの重田(古舘伊知郎)がリーダーの「ダーウイン」や、帝国重工の「アルファ1」の登場で、今後、ますます混戦模様となっていきます。年末のゴールに向かって目が離せません。

どうせなら、大泉さん、音尾さん、そして戸次重幸さんといったナックスのメンバーも、みんな登場したらいいのに(笑)、なんて乱暴なことを思うこの頃です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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