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猛暑の中、「ドラマ」と「動画配信」の関係も熱くなってきた!?

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

猛暑、お見舞い申しあげます。言うまいと思えど、ほんと暑いですね。日本列島全体が亜熱帯地域になってしまったかのようです。

池田エライザさんと「動画配信オリジナルドラマ」

先日のことですが、いきなり池田エライザさんについて、週刊誌の取材を受けました。なぜ?と思ったのですが、これまで年に1、2本の映画に出演していただけだった池田さんが、今年は8本もの作品に登場するというのです。

取材に対しては、「(池田さんは)フィリピンとのハーフで、多面的な表情を持つ女優だな、と注目していました。13歳の頃からモデルをやっていて、ビジュアルは◎。お色気シーンもアクションも、思い切り演じる。インタビューでは、自分の言葉で想いを語れる賢さが垣間見えます。ポテンシャルの高さが、今年になって花開いたということですね」とお答えました。(週刊新潮 2018.08.02号)

実は池田さんに関しては、映画以外でも気になっていたところだったのです。それは今秋に公開が予定されている、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」のオリジナルドラマ、『tourist』に出演することです。

『tourist』は3話で構成されており、3人の女性がそれぞれ海外を旅しながら、一人の男性(三浦春馬)と出会い、やがて自分が変わっていくというドラマです。しかも第1話がTBS、第2話がテレビ東京、第3話がWOWOWで放送され、その後Paraviでオリジナル版を配信するという“仕掛け”になっている点が面白い。

このドラマに、尾野真千子さん、水川あさみさんと並んで出演するのが、池田エライザさんなのです。女優としてのキャリアから見れば、大抜擢と言っていい。まさに「ポテンシャルの高さ」への期待からでしょう。

動画配信サービスによるオリジナルドラマではアメリカが先進国ですが、ようやく日本でも散見するようになりました。最近でいえば、竹内結子さんが主演の「Hulu(フールー)」オリジナルドラマ『ミス・シャーロック』など、とてもいい出来でした。今後、動画のオリジナルドラマが話題になる機会は増えていくはずです。

そして『tourist』がその一例ですが、ようやくテレビ局もネットと本気で向き合いはじめたようです。まあ、これまでは動きが緩慢すぎたとも言えるのですが。

「誰がテレビを殺すのか」と問われたら

夏野剛さんの新著『誰がテレビを殺すのか』(角川新書)を興味深く読みました。物騒なタイトルではありますが、中身のリアリティは十分です。

著者は元NTTドコモ執行役員で、現在は複数のネット系企業で取締役を務めています。テレビ業界を客観的に分析できる立場と見識を持つと言っていいでしょう。

論旨は極めて明快です。テレビは視聴者をネットに奪われて大苦戦している。対抗策はネットの積極的活用のはずだが、テレビ局はコンテンツ発表の場を「テレビ」に限定したままだ。それはネットに潜む威力や破壊力を理解できていないからではないか。危機感がないことが最大の危機だと。

著者は、テレビにとっての大きな脅威として「ネットフリックス」を挙げます。6000億円という巨費を投入してオリジナルコンテンツを生み出す配信会社です。日本のテレビドラマは1話が約3000万円で作られており、1話6億円の制作費は想像を超えますよね。しかも日本のテレビや多くのネットメディアと違い、コマーシャルを収入のベースにしていない点が強い。

確かに、いいコンテンツであれば、発表する場はテレビでもネット配信でも構わないはずです。テレビ局はコンテンツ制作集団への脱皮を図れという著者の主張は、多分正しいと思います。

ならば、その転換を阻むものは何か。新しいことに挑戦しようとしない体質。そしてテレビの中にいる人たち、特に経営陣の認識の甘さを著者は指摘します。厳しい現実を突きつける本書は、テレビ業界への痛烈な警鐘であり、最後のアドバイスかもしれません。

NHKが「民放運営」配信サイトに参加!?

夏野さんに厳しく批判された民放の経営陣ですが、さすがに「このままでいい」とは思っていないようです。今日(4日)、NHKが「TVer(ティーバー)」に参加することが報じられました。

TVerは、在京民放キー局5社が共同で運営している動画配信サイトです。放送された直後の番組を1週間無料で見られる、広告付きの「見逃し配信」サービスを展開しています。

「NHKは今秋にもTVer参加を決めるとみられるが、実際のサービス開始時期は検討中。NHKのTVer参加は、日本民間放送連盟が呼びかけた。井上弘前会長(現TBSテレビ相談役)は3月の講演で語っていた」(毎日新聞 8月4日付)

この「民放側からNHKに呼びかけた」というところがポイントですね。NHKを引き入れることでユーザーの数を大きく伸ばそうという狙いでしょう。またNHK側にも、自身のネット同時配信への動きを加速化させるに際して、その地ならしとシミュレーションの意味合いがあります。

TVerにNHKが参加すれば、NHKと民放、両方の番組を見られる「国内初の本格的な番組配信サイト」となるわけで、かなりインパクトがあるはずです。

ドラマに関してだけでも、NHK、民放、そしてオリジナルと、さまざまな作品を、いつでも好きなときに、好きなツールで視聴可能になる。見る側の自由度が高まる分、そのとき問われるのは、これまで以上に作品の中身であり、質であり、レベルであることは確かです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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