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レギュラー化を希望したくなった、春のドラマスペシャルとは!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

1月クールの連続ドラマが先月末に終わり、4月クールのそれがまだ始まらないこの時期。何本ものドラマスペシャルが放送されています。中には「これってレギュラー化してもいいのでは?」という作品もありました。

『ミッドナイト・ジャーナル~消えた誘拐犯を追え! 七年目の真実』

今年開局50周年を迎えるテレビ東京が、3月30日に春の記念ドラマ『ミッドナイト・ジャーナル~消えた誘拐犯を追え! 七年目の真実』を放送しました。原作は、本城雅人さんによる社会派サスペンス小説『ミッドナイト・ジャーナル』(16年、講談社)。若干のアレンジはあるものの、基本的な設定はそのままに映像化されていました。

主人公は中央新聞さいたま支局の県警キャップ・関口豪太郎(竹野内豊)です。7年前に起きた悲惨な事件の際、生存していた被害者の女児を、死亡と伝える大誤報で左遷された経験をもっています。実際には整理部の勇み足だったのですが、関口は潔く責任を負いました。

管内で女児連続誘拐事件が発生し、関口は7年前の事件との類似性に気づきます。同一犯ではないか、という疑念を持ったのです。本社に応援を依頼すると、やってきたのは女性記者の藤瀬祐里(上戸彩)でした。彼女は例の誤報騒動の際、一緒に糾弾された仲です。そこに新人記者の岡田昇太(寛一郎)を加えた3人の<チーム関口>が、社内外で軋轢を生みながらも、粘り強い取材で真相へと迫っていきます。

関口の信条は「真実を早く正しく伝えること、それがジャーナル」というもの。周囲、特に東京本社の連中からは、スクープにこだわると揶揄されていますが、関口が本当にこだわっているのは人の命です。また堅物の県警管理官(松重豊)の自宅に夜討ちをかけて、飲めない酒を一緒に飲む姿や、妻を亡くした後、別れて暮らしている娘への思いも微笑ましい。

竹野内豊&上戸彩のコンビが光った

竹野内さんは、このストイックともいえる姿勢で取材に没入する記者の内面まで、実に丁寧に演じていました。上戸さんもまた、竹野内さんの集中力に背中を押されるかのように、凛とした大人の女性記者になりきっていました。

竹野内さんで思い出すのが、かつて2夜連続で放送されたドラマスペシャル『オリンピックの身代金』(13年、テレビ朝日系)です。1964年の東京五輪をめぐって繰り広げられる緊迫のサスペンスでした。

東大院生・島崎(松山ケンイチ)の兄が五輪施設の工事現場で急死します。季節労働者として無理を重ねた結果でした。日本の経済成長を支えながらその犠牲となる人々と、置き去りにされる地方の現実に憤った島崎は、国家を相手に犯行計画を練ります。

事件を追うのは、竹野内さんが演じた捜査一課の刑事・落合。彼自身もまた戦争体験を持ち、妹(黒木メイサ)と島崎の関わりなど、その心中は複雑でした。今回の関口も、新聞社という組織に対する憤りや、死に目にも会えなかった妻に対する自責の念など、その思いはやはり複雑で、どこか落合に通じるものがありました。

記者たちはどのようにネタをつかみ、いかなる方法で裏どりを行い、どんな記事にしていくのか。新聞というメディアの本当の役割とは何なのか。この作品は良質のサスペンス&人間ドラマですが、一種の企業(職業)ドラマとしても十分見応えがありました。

本当は連続ドラマで見たいのですが、毎週というのが大変であれば、季節ごとのレギュラースペシャルでも構いません。チーム関口の地に足のついた取材ぶりと記者魂を、また見てみたいものです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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