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異色の刑事ドラマ『刑事ゆがみ』は、見てソンのない1本か!?

碓井広義メディア文化評論家

小説やドラマには様々なタイプの刑事が登場します。特に近年のドラマでは、差別化を図るためでしょうか、「特殊能力」を持った刑事も多いですよね。たとえば死者と対話できるとか、他者の意識にシンクロするとか・・・。

新たなヒーロー像としての『刑事ゆがみ』

その点、『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)で、浅野忠信さんが演じている主人公・弓神適当(ゆがみ ゆきまさ)は、超人的かつ摩訶不思議な能力を身につけているわけではありません。

見た目は、ややむさ苦しい(笑)。名前の通り、何事にも適当というか怠惰だし、日常生活ではグータラと言っていい。何より、超が付くような「ひねくれ者」です。

しかし、そんな弓神の「観察眼」は侮れません。また適当でグータラな印象と威圧感のない話術は、弓神の本性を知らない容疑者を油断させます。そして、ひねくれ者だからこそ、他の刑事たちとは違う「ものの見方」と「行動」が可能になり、そこから事件解決の糸口が見つかっていくのです。

しかも推理の根底にあるのは、本人も説明不能な「カン」だったりします。弓神が、そのカンを実証していくプロセスを楽しむのが、このドラマの醍醐味でしょう。

『ロング・グッドバイ』以来のハマリ役!?

これまでに、女子大生が帰宅途中に舗道橋の階段下で亡くなっていた事件、中学校の女性教諭が強姦未遂事件の被害者となった事件、また建築士が自ら設計したビルで転落死した事件などを解決してきた弓神。浅野さんは、3年前の『ロング・グッドバイ』(NHK)における私立探偵と並ぶハマリ役となっています。

そんな弓神の相棒が、若手刑事の羽生虎夫(神木隆之介)です。弓神から日常業務を押しつけられたり、勝手な行動に振り回されたりして、いつも憤ってはいますが、この異色刑事に一目置いているのも事実です。

神木さんは、根は優等生でありながら、出世のために上手く立ち回ろうとするズルさも見せる羽生を好演。弓神と羽生が、ラーメン屋のカウンターなどで披露する、ユル目の“掛け合い”が愉快です。

因縁の猟奇的殺人事件と女性ハッカーの謎

9日に放送された第5話では、この2人が、別の署が扱う誘拐事件の捜査に加わりました。市議会議員の娘が誘拐され、身代金を要求されたのです。ここでも弓神は、疑われるはずのない被害者の母親、つまり議員の妻(板谷由夏)に注目し、最終的には真相を暴いていきました。

この回で特筆すべきは、7年前に弓神がかかわった、猟奇的な殺人事件(「ロイコ事件」と呼ばれるもの)に触れたことです。当時、犯人とされた小説家は焼身自殺しましたが、多くの謎が残ったままです。

それに、「ロイコ事件」は、陰で弓神のサポートをしている謎のハッカー、ヒズミ(山本美月)とも関係があるらしい。このヒズミという女性は、井浦秀夫さんの原作漫画には登場しない、ドラマオリジナルのキャラクターです。今後、彼女の正体が明かされていくことと並行して、過去の事件にも新たな展開がありそうで、目が離せません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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