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今期もまた、女優「松岡茉優」の進化は止まらない!?

碓井広義メディア文化評論家

『鈴木先生』から『あまちゃん』へ

女優・松岡茉優さんに初めて注目したのは、2011年に放送された、長谷川博己さん主演のドラマ『鈴木先生』(テレビ東京系)でした。それ以前、「おはガール」として出演していた『おはスタ』(同)は、さすがに見ていませんでしたから。

鈴木先生(長谷川さん)が担任だった2年A組の生徒たちの中では、謎の美少女「小川蘇美」を演じた土屋太鳳さんが目立っていましたが、「堀の内七海」役で、当時16歳だった松岡さんも出ていたのです。しかも「その他の生徒」ではなく、きっちり存在感を示していました。

それから2年後の2013年、NHK朝ドラ『あまちゃん』に、地元アイドル「GMT47」のメンバーとして登場します。「埼玉県出身の入間しおり」役ですね。このドラマで、かなり顔と名前が知られるようになったはずです。

『銀二貫』から『限界集落株式会社』へ

次はNHK木曜時代劇『銀二貫』(14年)。戦国でも幕末でもなく、有名な歴史上の人物も登場しない。仇討ちで父を失った武家の子・鶴乃輔(林遣都さん)が、縁あって大阪で商人として生きていく物語です。

鶴乃輔を慕いながらも、孤児になった自分を育ててくれた養母のために、その思いを封印して生きる真帆(松岡さん)。その健気さが、抑えた演技によって強く印象に残りました。

翌2015年に、今度はバリバリの現代劇、NHK土曜ドラマ『限界集落株式会社』に出演します。

舞台である「止村(とどめむら)」は、まさに限界ギリギリの状態。農家の老人たちの、ある者は病に倒れ、またある者は村を去っていきます。

そんな村に帰ってきたのが大内正登(反町隆史さん)。かつて有機農業の夢に破れ東京へと逃げた正登ですが、母親(長山藍子さん)や娘の美穂(松岡さん)と共に、再び農業にトライするのです。

田舎と都会の間で揺れる“屈折女子”が、これほど似合う若手女優はいないと思いました。

『she』から『水族館ガール』へ

『限界集落株式会社』と同じ2015年、松岡さんは異色の深夜ドラマ『she』(フジテレビ系)で、「主演」を果たします。

「she」の舞台は高校で、突然、学年一の美少女、あずさ(中条あやみさん)が姿を消してしまいます。学校側は生徒から事情を聞きますが、原因や行き先を知る者はいません。

しかし、ジャーナリスト志望の涼子(松岡さん)が真相を探るうち、あずさだけでなく、クラスメイトたちの秘密も明らかになっていくのです。

高校生同士のリアルな距離感と関係性を見せた、松岡さんたちの好演。ドキュメンタリーのような手持ちカメラの映像。また、問題の当事者が不在のままの推理劇という点も異色でした。

2016年、今度はNHKの連ドラ(しかもプライムタイム)で初主演。NHKドラマ10『水族館ガール』です。

ヒロインの由香(松岡さん)は商社3年目のOL。上司(木下ほうかさん)から「使えないヤツ」の烙印を押され、水族館へと出向となります。

水族館といえば、「生きもの好きにはたまらない職場なんだろうなあ」くらいに思っていた由香。しかしどっこい、24時間全力で命を守る、大変な仕事だとわかってくるのです。

担当することになったイルカとのコミュニケーションも難しい。厳しいチーフ(桐谷健太さん)や先輩(西田尚美さん)などから叱られ続ける毎日でした。

商社を追われ、水族館にも簡単に溶け込めないヒロイン。このドラマは、いわば自分の「居場所」探しの物語です。それは単に生活の糧を得る職場という意味ではなく、自分が自分であることを実感できる「場」のことです。

松岡さん自身にとっても、どんなドラマでも存在感を放つ貴重な若手女優から、ドラマ全体を引っ張る演技派女優への本格的トライでした。

そして、『ウチの夫は仕事ができない』

現在、松岡さんが出演しているのは『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)と、土曜夜の『ウチの夫は仕事ができない』(日本テレビ系)です。

『やすらぎの郷』では、女性バーテンダーの「ハッピーちゃん」こと財前ゆかり。入所者はもちろん、見ている私たちも和みます(笑)。

そして『ウチの夫は―』では、イベント会社勤務の夫・小林司(錦戸亮さん)と暮らす、妊娠中の妻・沙也加(松岡さん)を演じています。

司は真面目で人柄もいいのですが、バリバリ仕事! というタイプではありません。むしろ上司や同僚から「お荷物」扱いされる崖っぷち社員です。

そんな司のことを「仕事もできる理想の夫」だと思っていた沙也加は、夫の会社での評価知ってしまいます。何とか夫の役に立とうと、仕事のハウツーを即席で学び、アドバイスしていきます。

錦戸さんが演じる司は、いわば“無垢なる魂”の持ち主ともいえる人物。手柄を後輩に横取りされても黙ってほほえんでいます。そんな男が厳しい競争社会をどう生き抜いていくのか。また、沙也加がひねり出す“仕事のヒント”が見どころとなっています。

第2のポイントは驚きのミュージカル場面でしょう。錦戸さんや松岡さんが、「♪ない、未来がない」などと歌って踊るシーンがいきなり挿入される、プチ「ラ・ラ・ランド」仕様(笑)に、拒否反応を示す視聴者もいるはず。しかし、ここは制作側のチャレンジ精神を支持したいと思います。

振り幅は大きく、コメディからシリアスまで。今期もまた、女優「松岡茉優」の進化は止まらない!?

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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