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「刑事ドラマ」もいいけど、「警備ドラマ」も侮れない!?

碓井広義メディア文化評論家

林立する「刑事ドラマ」

今期のドラマでやたらと目立つのが「刑事ドラマ」です。

『小さな巨人』(TBS)、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(関西テレビ)、『緊急取調室』(テレビ朝日)、『警視庁・捜査一課長』(同)と乱立、いえ林立といった様相を呈しています。

それぞれに意匠を凝らし、差別化を図っていますが、視聴者側としては「何も同時期に横並びじゃなくても」と言いたくなるかもしれません。

しかし最近の刑事ドラマは、犯人を追う側の人間模様や犯人の人間性にもせまり、物語に厚みを持たせ、メリハリを効かせています

たとえば、天海祐希さんが取調官を演じている『緊急取調室』。通常、刑事ドラマは犯人を捜し出し逮捕するまでを描きます。それに対し、このドラマはいかにして容疑者にその犯行を認めさせるか、もしくは犯人ではないことを明らかにするか、という一種の変化球で勝負しています。

また視聴者側も、単純に追う、追われる、という白黒はっきりとした図式だけでなく、そこに潜む複雑なプロセスをも味わいたいと、“成熟”してきている。それが今どきの刑事ドラマに反映されているわけです。

「刑事ドラマ」ではなく、「警備ドラマ」

さて、今期のドラマの中でちょっと気になるのが「警備ドラマ」です。主人公が刑事ではなく警備員なので、ここでは「警備ドラマ」と呼んでおきます。

具体的には、現在放送中のNHK土曜ドラマ『4号警備』(全7回)がそれです。

民間の警備会社における区分で、1号警備とは施設警備のことを指します。2号は雑踏警備で、3号は輸送警備。そして、いわゆる“身辺警護”を行うのが4号警備です。まあ、わかりやすく言えば“ボディガード”ですね。

登場するのは警備会社「ガードキーパーズ」の警備員で、元警察官の朝比奈準人(窪田正孝)。そして年長者の石丸賢吾(北村一輝)。時に暴走する朝比奈を、石丸が抑えたり追いかけたりする形で物語が展開されていきます。

放送開始からこれまで、遺産相続がらみで盲目の男性を守ったり、ストーカーに狙われている女性を助けたり、ブラック企業といわれる不動産会社の社長(中山秀征、好演)や選挙運動中の市長候補(伊藤蘭、熱演)が対象だったりと大忙しでした。

いずれのケースでも、単なる身辺警護ではなく、警護することが相手がもつ悩みや問題の解決につながっていくところがキモ。さらにそれが、朝比奈自身や石丸自身が抱えている葛藤ともリンクしていきます。つまり“人間ドラマ”になっているのです。

毎回読み切りで30分という短い時間ですが、宇田学さん(「99.9ー刑事専門弁護士ー」など)の脚本は、テンポの良さと中身の濃さの両立を目指して善戦しています。

かつての「警備ドラマ」

警備員を主人公にした「警備ドラマ」として、最初に思い浮かぶのは『ザ・ガードマン』(TBS)。放送は1960年代半ばから70年代はじめにかけてでした。

民間警備会社「東京パトロール」の高倉キャップを演じた宇津井健さんをはじめ、神山繁、中条静夫、稲葉義男、藤巻潤といった顔が懐かしい。警察以上の捜査力、いや調査力と行動力で犯人を追いつめていく様子にドキドキしたものです。

またNHK土曜ドラマ史上というより、ドラマ史上の名作の一つが山田太一脚本『男たちの旅路』(1976~82年)です。

警備会社のガードマンとして働く特攻隊の生き残り、吉岡司令補(鶴田浩二)の印象が今も消えません。部下である杉本(水谷豊)、鮫島(柴俊夫)、柴田(森田健作)、島津(桃井かおり)たちとの世代間ギャップも、世代を超えた人間としてのぶつかり合いも、それまでのドラマにはなかった視点と緊張感に驚かされました。

「守る」ことで前に進む『4号警備』

新たな“警備ドラマ”である『4号警備』には、『ザ・ガードマン』のような悪との派手な戦いも、『男たちの旅路』のような戦争の影もありません。

しかし、どこか受け身的な、また後ろ向きなイメージをもつ「守る」という行為が、人によっては“前に進む”ための原動力になることを教えてくれるのは、このドラマならではだと思います。誰かを守ることで、なにかを失った痛みや悲しみが少しずつ和らいでいく・・・。

一見ハードボイルドな雰囲気の北村さんと、その逆に見える窪田さんが、役柄において入れ替わっているのもエンターテインメントとして新鮮です。

刑事ドラマも悪くないけど、警備ドラマも侮れません。

<追記>

5月7日(日)

午前5時30分~6時

「TBSレビュー」で、

ドラマ「カルテット」について

話をさせていただきます。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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