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「助演」で光る役者たちが「主演」を務める注目CM

碓井広義メディア文化評論家

朝ドラ『とと姉ちゃん』の三女・よっちゃんこと、杉咲花さん。『カルテット』で家森を演じた高橋一生さん。いずれも「助演」でキラリと光る役者さんですが、CMでは個性を生かした見事な「主演」ぶりを見せています。

●森永乳業 カップアイスMOW(モウ)「高橋店長の品出し」篇

旬の役者を起用することは、CMの成功パターンの一つです。その意味で、いまだドラマ『カルテット』(TBS系)の印象が鮮烈で、NHK大河ドラマ『おんな城主直虎』にも出演中の高橋一生さんを登場させた効果は大きいと思います。

『カルテット』で高橋さんが演じていた家森諭高は、クールでちょっと得体が知れず、しかも色っぽい男でした。また大河の小野政次は、直虎をめぐる“三角関係”の中で、相手の幸せのためなら悪にもなれる男。どちらも危うさがあるからこそ、女性が魅かれてしまいそうなタイプです。

カップアイスMOW(モウ)のCM「高橋店長の品出し」篇では、メガネにエプロン姿でスーパーの売り場に立つ高橋さんが、買い物に来た母子を見守っています。お客さんに、より良い品を選択して欲しいと願う高橋店長は、「バニラアイスならMOWだ」と心の中で語りかけます。

実はこの「心の中で」が効いていて、シャイで誠実な店長さんから目が離せません。家森とも政次とも違う、高橋さんの新たな魅力を発見したような気になるからです。うーん、ズルいぞ、一生。

●リクルート SUUMO(スーモ)「最後の上映会『夢』」篇

学生時代に暮らしたアパートは、渋谷のNHK放送センターのすぐ近くにありました。ガス・水道・トイレ共同の四畳半で家賃は1万3千円。いま思えば、1970年代半ばとはいえ、格安の部屋でした。

近所にあった、同じような古いアパートには、あの寺山修司さんが住んでいました。ぽっくりみたいな厚底のサンダルで散歩をする寺山さんと、よくすれ違ったものです。また渋谷駅に行く途中の本屋さんで、じっと立ち読みをしていた大きな背中も懐かしい。

リクルートSUUMO(スーモ)のCM「最後の上映会『夢』」篇で、杉咲花さんが演じる女性が4年間を過ごした部屋は、明るくて住み心地も良さそうです。保育士を目指して頑張る姿を見守ってくれた部屋。大切な夢を応援してくれた部屋。杉咲さんの心のスクリーンに映し出される回想を眺めていると、いつの間にか青春から遥か遠くまで来た自分を思って、少しだけ感傷的になります。

しかし、最後のシーンで元気が出ました。杉咲さんが、荷物を送り出して空っぽになった部屋に向かって、感謝の思いを込めたお辞儀をするのです。渋谷の四畳半を出る時、やはり同じように頭を下げたことを思い出しました。その部屋を選んだのは偶然かもしれませんが、住む人の気持ちでそれは必然へと変わるのです。

<追記>

5月7日(日)午前5時30分~6時

「TBSレビュー」に出演して、

ドラマ「カルテット」について話をさせていただきます。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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