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「A LIFE~愛しき人~」は、キムタクドラマの延長か、それとも新・木村拓哉ドラマか

碓井広義メディア文化評論家

TBS日曜劇場「A LIFE~愛しき人~」の第1回が放送され、雑誌の取材を受けました。感想を、とのことでしたので、ざっと以下のような話をしました。

「スーパードクター」ではなく、「職人外科医」?

TBSのフレコミでは、いわゆる「スーパードクター」ではなく、「職人外科医」だそうですが、まあ、これは、「ドクターXとは違うので、比べたりしないでね」という予防線みたいなものだと思います。

「心臓血管と小児外科が専門の職人外科医」といわれても、あまりピンときませんが、第1回では、明らかに「海外仕込みの凄腕外科医」として登場してきました。

で、外科医として活躍するドラマなのだろうと、いわば、お手並み拝見ということで、“その時”を待ちました。

栄えある最初の患者さんは、かつての上司であり、かつての恋人(竹内結子)の父親でもある病院長(柄本明)。「ナンだ、ずいぶん内向きの話だなあ」という、肩すかし感もなんのその、同じ回の中で、柄本サンに2回も手術しちゃいます。

これもTBSのフレコミですが、「リアルな手術シーン」に力を入れたそうで、確かに、その形跡は見えました。

「見せ場」感に欠ける手術シーン

ただ、残念ながら、そのリアルが、あまり効果を発揮していません。沖田を演じる木村拓哉が、練習を重ねて臨んだとのことですが、手術シーン全体に、緊張感とか、緊迫感とかが希薄でした。3~4分のシーンなのに、どこか間延びしたというか、いたずらに長く感じられました。

また手術を終えても、「やったね!」という達成感とか、勝利感とか、爽快感とかが、ほとんどない。ドラマにおける「見せ場」が与えてくれる高揚感もありませんでした。

これはなぜだろうと考えてみたら、沖田が行った「手術のスゴさ」、もっと言えば「沖田のスゴさ」が、視聴者にはよく分からなかった。「どこかの国の王様の親戚の命を救った」とか言われても(笑)。

もちろん、沖田医師から、ひとしきり説明はありました。しかし、医学用語をただ並べるだけでは、聞いていても頭に描けないし、手術法みたいなものをテロップで文字表示されても、多くの視聴者にはピンときません。

そういう意味では、「ドクターX」は上手いですね。ストーリー展開でハードルの高さに目を向けさせるだけでなく、図解やCGなんかも挿入して、「なんだかスゴい」感を、ちゃんと伝えています。決して米倉涼子のお手柄だけではないのです。

ドラマは、シナリオと演出と役者の相乗効果です。視聴者は、医療ドラマに、まんまの医療的リアルとか、医学的正確さばかりを求めているわけではありません。「ドラマ的それらしさ」「ドラマ的リアル」があればいいのです。その上でエンターテインメントに仕立ててくれたら、十分楽しめる。

「A LIFE~愛しき人~」の手術シーンは、リアルチックなのかもしれませんが、ドラマチックではなかったのです。今後は、撮り方や構図といった映像面、そしてテンポのいい編集なども工夫してみるといいかと思います。

中年ラブストーリーなのか?

それから、今度はドラマ全体、もしくは物語全体についてですが、「木村拓哉―竹内結子―浅野忠信」による、10年越しの三角関係(笑)みたいなものを、どこまで描こうとするのか、気になります。

あまり、そちらの方向に流れると、「A LIFE(命)」を救う男の話というより、サブタイトルの「愛しき人」が強調された、半端な中年ラブストーリーになりそうで。

何しろ、“顔見世興行”としての第1回を見る限り、人間関係が結構ドロドロしている印象(笑)。まあ、そういうものを見たい人もいるでしょうが、これって、そうなんだっけ?

竹内結子、浅野忠信、松山ケンイチ、及川光博、木村文乃など、脇を固める役者は、いずれも主役級です。いい俳優たちです。だからこそ、単に主演の木村拓哉を引き立てるためにのみ、使われていかないことを願います。

この「A LIFE~愛しき人~」が、旧来の「キムタクドラマ」の延長にあるのか、それとも「新・木村拓哉ドラマ」の構築を目指すのか。第1回だけでは判断しかねますが、「やや微妙な内容と出来」であることは確かなのではないでしょうか。

もちろん、「裏を返す」という意味で、第2回も見る予定です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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