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まだ間に合う!?「オトナの男」が見ないのはモッタイナイ秋ドラマ

碓井広義メディア文化評論家

気がつけば、もう折り返し点を過ぎた秋ドラマ。

いずれも物語は佳境へと差し掛かっています。

連続ドラマを途中から見るのはシンドイと思う人が多いかもしれませんが、このまま見ないでいるのはそれ以上にモッタイナイ。

まだ間に合う!?「オトナの男」のための、秋ドラマ最終案内です。

深夜の贅沢な“しめの一本” 「深夜食堂3」(TBS系)

買ったばかりの漫画誌「ビッグコミックオリジナル」。最初に読むのは長年の習慣で「釣りバカ日誌」だ。そして最後に開くのが安倍夜郎の「深夜食堂」である。“しめの一杯”という感じがするからだ。

ドラマ「深夜食堂3」(TBS系)の、一見コワモテだが、どこか優しいマスター(小林薫)の佇まいは、シリーズを重ねても変わらない。

また相変わらず、「豚バラトマト巻き」や「紅しょうがの天ぷら」など出てくる料理もうまそうだ。しかも料理とストーリーのマッチングが押しつけがましくないことも嬉しい。

そして、このドラマの魅力の一つがキャスティングだ。たとえば第3話の石橋けい。「有言実行三姉妹シュシュトリアン」や平成のウルトラシリーズ以来の根強いファンを持つ。今回の「婚約者の浮気を知って別れ、興信所の調査員をしている30代独身女性」なんて、まさにハマリ役だった。

第4話で「男前な大阪女」を演じた谷村美月もいいキャスティングだ。強がりと健気さが同居したキャラクターを、NHK「さよなら私」の愛人役とは違ったタッチで見せていた。

演出陣には松岡錠司、山下敦弘、熊切和喜など、映画好きには嬉しい手練れの監督たちが並ぶ。30分の1話完結形式が、そのまま熱い競作の場となっているのだ。いわば、深夜の贅沢な“しめの一本”である。

石原さとみの演技が光る 「ディア・シスター」(フジテレビ系)

焼酎「ふんわり鏡月」のCMに出ている石原さとみがいい。

夏に流れた「間接キッスしてみ?」も目が離せなかったが、現在放映中の「冬・こたつ編」がまた憎たらしいほど可愛いのだ。

あの独特のユルさ、無防備感が幅広い世代のオトコたちを刺激する。もはや石原の“代表作”と言えるのではないか。

そんな彼女の新作ドラマが「ディア・シスター」(フジテレビ系)だ。

一応、姉役の松下奈緒とダブル主演ということになっている。しかし石原演じる妹が物語の主軸であることは明らかだろう。

真面目で大人しい姉に比べ、勝手気ままで自由奔放な妹だが、実は家族や友達のことを人一倍心配する優しい娘であることも分かってきた。

また石原は妊娠しており、その相手は松下も憧れていた元高校教師(田辺誠一)だ。さらに石原は難病まで抱えている。

普通はこのあたりで「話を盛り過ぎだろう」と言われそうだが、意外や破綻していない。支えているのは、昨年の「ラスト・シンデレラ」(フジテレビ系)で篠原涼子を見事な“おやじ女子”に仕立てた中谷まゆみの脚本であり、かつて演出家のつかこうへいに鍛えられた石原の演技力だ。

美人姉妹の恋愛模様というだけでなく、実は「結婚とは? 家族とは? 命とは?」といったテーマを織り込んだ、なかなか骨太なドラマになっている。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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