令和2年7月豪雨による人的被害の調査速報 発生場所とハザードマップ情報

 筆者は,日本の風水害で,亡くなったり,行方不明になった方が,どのような状況で遭難しているのかについて,15年ほど前から調査研究を続けています.そのあらましについては,7月7日の記事でも紹介しました.

 7月4日から,本日7月13日時点でも進行中の「令和2(2020)年7月豪雨」では九州を中心に多くの人的被害が生じています.この災害についても筆者は同様な調査を進めているところです.今回は,7月12日までに得られた情報をもとに,緊急に検討,集計した結果を,速報として紹介します.なお,コロナ禍の中での災害であることから,当方ではこの災害に関する現地調査を当分見合わせています.ネット等で収集可能な情報の範囲での検討結果であることをご理解下さい.

 以下の図で示す数値は筆者が独自に解析,集計したもので,行政機関等による集計結果とは異なるものになると思います.ごく断片的な情報をもとにした検討結果であり,挙げている数値等は今後大きく修正される場合もあることをあらかじめご理解下さい.以下のグラフでは,筆者がこれまでに調査した1999年~2019年の集計結果については「1999-2019」と,令和2年7月豪雨の集計結果については「202007豪雨」と略記します.また,「死者」及び「行方不明者」の総称として「犠牲者」と記述する場合があります.

原因外力別の犠牲者数

 7月12日発表の消防庁資料によれば,令和2年7月豪雨による全国の死者・行方不明者は,死者68人,心肺停止1人,行方不明12人の,計81人となっています.これら81人について,報道の内容や地図情報などをもとに検討を進めています.まず,原因となった外力(自然の現象)について分類した結果を,1999-2019と比較して示したのが図1となります.「土砂」に関係するケースが11人,「洪水」(川からあふれた水で流されたケース)が35人,情報不足により分類できないケースが35人でした.河川(何らかの形で増水した川に近づいて川などに転落したケース)と分類されたケースはありませんが,その可能性が高いと思われるケースは見られ,今後分類される可能性が高いと思います.「高波」や「強風」に分類されるケースは今のところ確認できません.

図1 原因外力別犠牲者数(筆者の調査による)
図1 原因外力別犠牲者数(筆者の調査による)

 まだ情報を得られていないケースが多くありますのでなんとも言えない部分が多いですが,これまでの調査結果と比較すると,「洪水」の犠牲者の比率が非常に多くなっている可能性があると思います.その点では,昨年の「令和元年東日本台風」(台風2019年20号)と特徴が共通しています.ただ,「令和元年東日本台風」時とは異なり,車などでの移動中の遭難は比較的少なく,自宅での遭難が中心となる可能性があります.これは,今回は未明から朝にかけての大雨であったことなどの影響が考えられます.

 ちなみに,平成30年7月豪雨では,数としては水関連犠牲者は多かったですが,比率で言うと土砂の犠牲者が54%,水関連(洪水,河川)は43%と土砂の方が多くなっています.それぞれの災害ごとに様相は異なる事に注意が必要です.直近の特定災害事例「だけ」をみて「近年の傾向」といった読み取り方をすることは適当でないでしょう.

死者・行方不明者が発生したと推定される位置

 死者・行方不明者のうち,その発生位置を概ね番地程度まで推定した40人について,発生位置を図上に示したものが図2となります.この図の範囲内での発生場所は,(1)人吉盆地,(2)球磨川の狭窄部沿い,(3)芦北町・津奈木町の山間部付近,の3箇所に大別しても良さそうです.(1)と(2)は現時点ではいずれも洪水による犠牲者で,(3)は主に土砂災害の犠牲者と分類されています.

図2 死者・行方不明者が発生したと推定される位置(筆者の調査による,背景図は地理院地図)
図2 死者・行方不明者が発生したと推定される位置(筆者の調査による,背景図は地理院地図)

「土砂」犠牲者の発生位置と土砂災害危険箇所等

 「土砂」犠牲者の発生位置と,土砂災害危険箇所等との関係を示したのが図3です.ここでいう「土砂災害危険箇所等」とは,土石流危険渓流,土石流危険区域,急傾斜地崩壊危険箇所などを指し,「土砂災害警戒区域」ではありません.推定発生位置がこれらの危険箇所の範囲に含まれている場合を「範囲内」とし,危険箇所から約30m以内(地図上の誤差の範囲程度)であれば「範囲近傍」としています.また,発生位置がいずれかの危険箇所等の範囲内に含まれていれば,実際に崩壊した斜面が,危険箇所等を決める際に想定した斜面でなかったとしても「範囲内」としています.これは,ハザードマップの情報を利用する側で考えれば,どこが崩壊するかというよりは,その場所が危険箇所となっているかどうかという情報が重要ではないかと考えるためです.このあたりの「範囲内」の定義に確定した考え方はありませんので,筆者はこのように定義している,ということです.

 いまのところ「土砂」犠牲者については,全員が土砂災害危険箇所等の「範囲内」または「範囲近傍」でした.「土砂」犠牲者数が相対的には多くないため,一概には言えませんが,1999-2019の集計結果とほぼ整合的な結果かと思います.なお,令和2年7月豪雨については土砂災害警戒区域についても同様な検討をしていますが,結果は同じでした.

図3 土砂災害犠牲者と土砂災害危険箇所との関係(筆者の調査による)
図3 土砂災害犠牲者と土砂災害危険箇所との関係(筆者の調査による)

「洪水」犠牲者の発生位置と浸水想定区域

 「洪水」および「河川」犠牲者の発生位置と,浸水想定区域との関係を示したのが図4です.ここで浸水想定区域とは,浸水想定区域(計画規模),浸水想定区域(想定最大)で,いずれかの範囲内であれば「範囲内」としています.現時点では,「洪水」犠牲者の全員が「範囲内」と分類されました.まだ発生位置を推定できていないケースが多いので断定的なことは言えませんが,1999-2019の集計結果と比べると,「範囲内」の比率が非常に高かった可能性があります.これは,今回被害が多かった場所が,球磨川という大きな河川の周辺で,こうした場所では浸水想定区域の情報の整備が進んでいるためであった可能性があります.

図4 水関連犠牲者と浸水想定区域との関係(筆者の調査による)
図4 水関連犠牲者と浸水想定区域との関係(筆者の調査による)

 繰り返しになりますが,まだ情報不足な点が多いのでなんとも言えない点が少なくありませんが,現在得られている情報の範囲内では,令和2年7月豪雨に伴う死者・行方不明者は,主にハザードマップ等で示されている危険箇所付近で発生しており,予想もつかないところで多数の被害が生じているわけではない可能性があるのではないかと思います.すなわち,主に「起こりうるところ」で発生している,ともいえます.これは,近年の他の災害とも同様な傾向です.ハザードマップ等の情報の重要性が,あらためて示唆された可能性があるように思います.

 なお,被害が「起こりうるところ」で発生しているのならば,行政機関が防止対策を取っておくべきであった,といったご意見もあるかもしれませんが,筆者はそうした主張をするものではありません.今回のような,個々の地域にとって低頻度,大規模な現象に対して,堤防などのハード対策ですべてを防ぎきることは困難ですし,ハザードマップや気象情報などのソフト対策を含めても,あらゆる状況に完全に対応することは,自然の複雑さを考えると,難しい面が多いと思います.誰が悪いということではなく,社会全体で取り組んでいくしかないのかもしれません.このあたりはいろいろと意見が分かれるところかと思います.あくまでもこれは私の考え方であり,これが絶対に正しいと申し上げるものではありません.