“インスタ映え”先進国 オーストラリア ー飲食業界に巻き起こる「フォトジェニック消費需要」

メルボルンで人気のカフェは「インスタ映え」する料理のオンパレードだ(筆者撮影)

 連日メディアを賑わせている写真投稿共有アプリ「インスタグラム」。3日、月間利用者数が2000万人の大台を突破したことが発表されるなど、今その勢いは止まらない。「インスタ映え」という言葉が定着するほど、ファッションやピクニック、さらには夜のプール遊びに至るまで―1枚の写真を目的に出掛けたり、休日のプランを決めたりする行動はもはや社会現象と化している。だが、日本での普及は決して早かったとは言えない。

 2010年にアメリカでスタートしたインスタグラムはその間、急速にヨーロッパやオセアニア、東南アジアでも利用者数を大幅に伸ばしてきた。特に、飲食店における「インスタ活用術」は各国でめざましい進歩を遂げている。今回は、既にカフェやレストランがインスタグラムをマーケティング手法として最大限に活用し、大きな成果を上げているオーストラリアの現状を取材した。

「インスタ映え」する料理を頼んでスマホで撮影する若者は後を絶たない(筆者撮影)
「インスタ映え」する料理を頼んでスマホで撮影する若者は後を絶たない(筆者撮影)

まずは、オーストラリアの飲食店における「インスタ映え」事情を動画でご覧頂きたい。海を越え、オージーたちが男女共に、どれほど日常的にインスタグラムを活用してカフェやレストラン選びをしているかが垣間見える。

オーストラリア版・「食べログ」的な飲食店探しツールに

 英・エコノミスト誌が発表する“世界で最も住みやすい都市”ランキングで、7年連続1位を獲得しているオーストラリア・ビクトリア州の州都、メルボルン。そのメルボルンでまず、朝を有意義に過ごそうと素敵なカフェを探すとしよう。街中で、オージーに美味しい店を探す時にはどのように検索するかを尋ねると、多くの場合、Zomato(インド発のレストラン検索アプリ)、もしくはインスタグラムという答えが返ってくる。オーストラリアでは、Zomatoという飲食店検索アプリが日本でいうところの食べログのような機能を持ち、広く利用されているのだが、それと並んでインスタグラムも重要な“検索ツール”として浸透している。

 そのインスタグラムで最も話題を集めていたのが、お洒落な飲食店や高級ブティックが密集するエリアに佇むシックなカフェ、“Top Paddock”。休日のブランチ時には、行列は必至。数十分間待って、ようやく席に着いた客が決まって注文するのは…「インスタ映え」するとして話題沸騰中の“ホットケーキ”だ。皆、運ばれてきたその逸品を食べる前にいそいそとスマホを取り出し、カシャリと撮影。中には、わざわざ立ち上がって、真上のポジションから背伸びをして撮るツワモノもいる。一体、どれほど美しいホットケーキなのか。何層にも高く積まれているのか、はたまた日本でも最近よく見かけるホイップクリームが山のように盛られているのか…。

 すると、出てきたのは山盛りでもホイップクリームでもない、まるで芸術作品のように彩られた鮮やかな逸品。ホットケーキの表面を色とりどりに飾っていたのは、紫や黄色のフレッシュな花々。その周りに散りばめられているのは、かぼちゃやひまわりの種だ。そこに花畑が広がったかのような、アート作品のような仕上がりだ。

「インスタ映え」で話題沸騰のホットケーキ 芸術作品のような逸品だ(筆者撮影)
「インスタ映え」で話題沸騰のホットケーキ 芸術作品のような逸品だ(筆者撮影)
食べる前に”撮る”はもはやお決まりの光景だ(筆者撮影)
食べる前に”撮る”はもはやお決まりの光景だ(筆者撮影)

“食べられる花”でインスタ映えを狙え!

 このホットケーキを考案したオーナーは、こう話す。

「インスタグラムで映えることをまず考慮に入れて、見た目に美しいホットケーキを作りました。ただ、見た目の美しさにこだわったのはもちろんですが、それ以上に美味しさも追求しています。見て楽しむだけでは趣旨がずれてしまう、見て食べて美味しい、それが重要なんです」

毎日20種類以上のフレッシュな”エディブルフラワー”を仕入れるという(筆者撮影)
毎日20種類以上のフレッシュな”エディブルフラワー”を仕入れるという(筆者撮影)
惜しげもなくたっぷりと花を散らす これが「インスタ映え」の秘訣だ(筆者撮影)
惜しげもなくたっぷりと花を散らす これが「インスタ映え」の秘訣だ(筆者撮影)

 確かに、一瞬飾りなのかと戸惑った色鮮やかな花は「エディブルフラワー(食べられる花)」。このホットケーキはその「花畑」を丸ごと美味しく食べられるのが魅力なのだという。オーナーのいとこが経営する畑から、毎日新鮮なエディブルフラワーを仕入れているのだそう。冷蔵庫から取り出してきたボックスには、まさに生花店かと見まごうほど色鮮やかな花々がたっぷりと詰められていた。

 実は今、オーストラリアでは、“エディブルフラワー”が「インスタ映え」に必須のアイテムとして、広く人気を呼んでいる。市内のマーケットにも様々な種類の”エディブルフラワー”が売られているほか、この店でも様々なメニューにエディブルフラワーを散らして、客の「インスタ欲求」をくすぐっている。

オーストラリアの市場で見つけた“エディブルフラワー” 「インスタ映え」に必須のアイテムだ(筆者撮影)
オーストラリアの市場で見つけた“エディブルフラワー” 「インスタ映え」に必須のアイテムだ(筆者撮影)

インスタグラムの更新も仕事の一部

店長自ら“Like”やコメントをするなどインスタグラムの更新を欠かさない(筆者撮影)
店長自ら“Like”やコメントをするなどインスタグラムの更新を欠かさない(筆者撮影)
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 さらに取材中、店長は突然スマホを取り出し、おもむろにインスタグラムを開き始めた。「この写真、今店内で食べてらっしゃるお客さんのどなたかが撮影してアップしてくれたものですね。皆こうして、リアルタイムでアップしてくれる。これは、お客さんが2分前に撮影してアップしてくれた写真ですね、“Like”してコメントしましょう」そう言いながら素早く「来てくれてありがとう!」と書き込んだ。

「インスタグラムの更新はまるで、“フルタイムジョブ”です。最近は多くのカフェが他の会社に外注し始めている中で、我々は自分たちでやり続けたいと思っています。なぜなら、お客さんと直接繋がることがビジネスには重要だと思っているから」

 インスタグラムの効果を強く感じているからこそ、店長自ら更新する手間は惜しまないという。さらに、インスタグラムにまつわる造語を使いながら、熱弁は続く。「最近では、多くの人がinstaworthy(インスタに上げる価値がある)だったり、instagramable(インスタ映えする)な食べ物を求めています。見た目が何より大事でインスタグラムに上げる価値があることが何より大事なんです」もはやインスタグラムは、CMや広告に勝る最強のマーケティングツールだと強調した。

女子高生を魅了するハンバーガーの正体

 次に向かったのは、流行に敏感なオージーたちのインスタグラムを賑わせていた、奇抜な色のハンバーガーで話題の店。その名も「マッチャ・ミルク・バー(Matcha Mylkbar)」。

一眼レフを持参しフラッシュをたくプロカメラマンさながらの本格派も
一眼レフを持参しフラッシュをたくプロカメラマンさながらの本格派も

 まるでカエルのような緑色と、墨のように真っ黒な2色のバンズを取り揃えた、ハンバーガーが売りのよう。緑のバンズは抹茶、黒のバンズは炭や黒豆などで色付けされているという。やはりこちらもインスタ効果なのか、店内は満席だ。なかには、雑誌の撮影でやってきたプロカメラマンさながら、一眼レフ持参でフラッシュをたく本格派もいる。

 タスマニアからわざわざ飛行機に乗ってきたという女子高生2人組は、興奮気味にこう話す。「インスタで有名なこのバーガーが、クラスの子たちの間でも話題になっているの!この写真を撮るために来たのよ」

 さらに、地元に住む男性2人組は入店するとすぐに、メニューも見ずにスマホの画面を店員に見せて注文完了。常連さんかと思いきや、初来店だという。「インスタグラムを見て来たからお目当ては決まってる。メニューを見るまでもなく、インスタの写真をそのまま見せて頼んだんだ。最近は、行きたい店を選ぶ手段はインスタがほとんどだよ。だってメニューの写真を見れば一発でどんな料理か分かるし、一般の人がコメントしてるわけだから何より信頼できるだろう」黒色のバーガーが運ばれるとすぐにスマホで撮影し、インスタグラムに投稿した。

タスマニアから飛行機で来た女子高生 1時間の食事中20枚を超える写真を撮っていた(筆者撮影)
タスマニアから飛行機で来た女子高生 1時間の食事中20枚を超える写真を撮っていた(筆者撮影)
インスタ人気は女性だけではない 食べる前にまず撮影する男性の姿も多く見掛けた(筆者撮影)
インスタ人気は女性だけではない 食べる前にまず撮影する男性の姿も多く見掛けた(筆者撮影)

極めつけの「インスタ映え」メニュー、“ソーシャル・インフルエンサー”

 さらに、極めつけは「ソーシャル・インフルエンサー(social influencer)」というメニュー。直訳すると「社会的な影響力のある人物」。インフルエンサーとは、徐々に日本でも一般的に馴染みのある用語になってきたが、「主にSNSなどインターネット上で消費者の購買意欲に影響を与える人物」などの趣旨で用いられる。この「インフルエンサー」の名称そのものが、店の看板メニューの総称として、堂々と掲げられていたのだ。

「インスタ映え」向けに開発されたメニュー”ソーシャル・インフルエンサー”(筆者撮影)
「インスタ映え」向けに開発されたメニュー”ソーシャル・インフルエンサー”(筆者撮影)

 まさに、「どうぞインスタグラムに上げて広めてね!」というメッセージをあけっぴろげにメニューに載せてしまう大胆さは、あっぱれだ。

店長は、今年4月に店をオープンした時のコンセプトはまさに、“フォトジェニックであること”だったと話す。「お店を開く時に、すべてのメニューをフォトジェニックなものにしようと決めたの。カラフルで魅力的で、食べる時にとても素敵な経験が出来るようにしてあるの。インスタグラムは、客と密に繋がるのに、とても良いツールよ。素晴らしい顧客管理サービスと言えるわ」

今や、テレビやガイドブックで見るよりも、身近な友人や家族などいわゆる一般人がインスタグラムに載せる写真やハッシュタグの方が「リアル」なのだという。

芸術作品のような料理の数々 オープン当初からのコンセプトは“フォトジェニック”だ(筆者撮影)
芸術作品のような料理の数々 オープン当初からのコンセプトは“フォトジェニック”だ(筆者撮影)
青いラテもインスタで話題沸騰「世界中でバイラルになったわ」と店長は得意げに話した(筆者撮影)
青いラテもインスタで話題沸騰「世界中でバイラルになったわ」と店長は得意げに話した(筆者撮影)

NYやロンドンでも進化が止まらない

 カフェ文化が発達しているオーストラリアの事例を紹介してきたが、例えばニューヨークでは、料理の素材に店のロゴを印字するというまさに直球勝負に乗り出す店が出始めている。マグロのカツの表面に店名のロゴを焼き印で入れたり、人気のラーメン店が店名とラーメンのロゴをプリントした海苔を麺の上に載せたり…インスタグラムにアップされた時の話題と宣伝の一助となるよう、その創意工夫ぶりはとどまるところを知らない。

 さらに、ロンドンでは、インスタグラム用の写真を撮るためのキット「フーディー・インスタグラム・パックス(foodie Instagram packs)」なるものを用意するツワモノなレストランまで出現した。このキットには、ポータブルのLEDライトと、マルチデバイスチャージャー、ワイドアングルで撮れるクリップレンズが備えられている。さらに、最も「インスタ映え」する王道の撮影法、真上の高さからでも楽々撮れるように、セルフィースティックまでもがパックになっているというから、驚きだ。インスタグラムでの集客を狙った創意工夫合戦は今、世界中で過熱している。

日本でも本格化するインスタ対応

 2年前に、日本で初めてインスタグラム専業のPRに特化したコンサルティング会社「タグピク株式会社」を創業した泉健太会長は、こう話す。「以前、アメリカを出張で訪れた際、インスタグラムの生活への浸透度合いに驚いたんです。飲食店をはじめ、ファッションブランドなども、軒並みインスタグラムをマーケティング手法として活用している状況でした。その様子を間近に見て、“これは日本でも確実に来る”と確信し、帰国して間もなくインスタグラムに特化した会社で勝負しようと起業を決意しました」

 しかし、当初はまだ日本国内でのインスタグラムへの馴染みは薄く、インスタマーケティングの営業で出向いた先で「インスタグラムとは」「#ハッシュタグとは」など初歩的な説明からしなければいけないことも少なくなかったという。それが、去年暮れ辺りから急速な伸びを実感しているといい、その証拠にタグピクの顧客数は、ファッションやコスメブランドなど大手ブランド企業にまで広がりを見せている。さらに、日本と東南アジアに3000名超ものインフルエンサーを抱え、様々な商品やサービスの魅力拡散を後押ししているという。泉氏は「今、日本ではワカモノを中心に、インスタの写真を撮るために出かけるといったような現象が加速している。インスタが消費を誘発する要因になっており、ライフスタイルさえも変化させつつある」と話す。しかし、まだ海外に比べると、飲食店などにおけるマーケティング手法としての活用は遅れており、今後の需要の伸びしろは充分にあると、さらに期待を寄せている。

 全世界では、月間アクティブ利用者数が8億人を突破したことが発表されている。また、去年は世界で総額5億7000万ドル(約635億円)がインスタグラムでのインフルエンサーマーケティングに費やされたという調査結果もある。

日本国内では3日、15年時点で810万人だった月間アクティブユーザー数が、遂に2000万人を突破。去年末から25%増と大きくその数を伸ばしている。まさに「インスタ沸騰元年」を迎えたとも言える日本。今後は、若い女性だけでなく男性や、より高年齢層へ裾野の広がりが予測されているというが、果たして―。

番外編:オーストラリアで見つけたフォトジェニックたち

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(※取材したレストランのメニューは常に変化しています。最新のメニューはHPなどでご確認下さい)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】