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エンジェルスが「大谷翔平と交わした1年契約」と「監督代行の監督就任」は今オフの動きを示唆している!?

宇根夏樹ベースボール・ライター
大谷翔平(左)とフィル・ネビン Aug 4, 2022(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 レギュラーシーズンが終わる直前に、ロサンゼルス・エンジェルスは、大谷翔平と1年3000万ドルの契約を交わし、シーズン途中から指揮を執っていたフィル・ネビン監督代行の監督就任を発表した。こちらも、同じく1年契約だ。

 現在、オーナーのアルトゥーロ・モレノは、球団を売ろうとしている。新たなオーナーは、これまでとは違う方向性を打ち出すかもしれない。オーナーが交代する前に、大谷がエンジェルスとの長期契約に応じるとは考えにくい。

 モレノとしては、まず、来シーズンの大谷の年俸を確定させ、球団の売却に関する不透明な部分を一つ減らしたのだろう。今オフ、大谷は年俸調停の申請権を持っていた。調停や調停直前まで進んだ場合、大谷の年俸が未定のまま、モレノは売却の交渉を行うことになりかねなかった。大谷の年俸がエンジェルスの年俸総額に占める割合は、低くない。むしろ、高い。例えば、来シーズンの年俸総額を、今シーズンよりも少し多い2億ドルと見積もると、3000万ドルは総額の15%だ。調停を経れば、年俸はさらに高額となってもおかしくなかった。

 新オーナーは、どんな人物をGMや監督にするのかについても、意見を持っているはずだ。現時点で新たな監督を招聘しても、新オーナーが人事を一新する可能性はある。ネビンの監督就任は、手腕を評価したというよりも、無駄になるかもしれない監督探しの手間を省いたように見える。また、新オーナーが監督を解雇して別の人物を据えた場合、解雇しても契約は残るので、監督2人分の年俸を支払う必要が生じる。そうなっても、ネビンは実績のある監督ではないので――メジャーリーグで采配を振ったのは、今シーズンが初めてだ――年俸は安い(に違いない)。

 大谷との契約とネビン監督代行の監督就任から窺えるのは、今オフの動きだ。エンジェルスは、オーナーが交代するまで、大きな補強は行わないと思われる。大物のFAと大型契約を交わし、その選手が、球団を買おうとしている人物あるいはグループのめざしている方向性にそぐわなければ、モレノが進めようとしている売却にはマイナス要素となる。それ以上に、球団を手放そうとしているモレノに、さらなる大枚を投じる気はないはずだ。年俸総額を増やさない限り、補強に使える金額は多くない。来シーズンの年俸は、マイク・トラウトアンソニー・レンドーン、大谷の3人だけで1億ドルを超える。

 新オーナーがいつ決まるのかは、まだわからない。候補としては、ゴールデンステイト・ウォリアーズ(NBA)のオーナーであるジョー・レイコブや、抗癌剤のアブラキサンを発明したパトリック・スン-シオンらの名前が報じられているが、今のところ、具体的な交渉が行われているという報道は見当たらない。

 モレノがオーナーのまま、大きな補強もなく来シーズンを迎えても、エンジェルスがポストシーズンに進出する可能性はある。トラウト、大谷、レンドーンが揃って実力を発揮した上で、テイラー・ウォードが今シーズンの水準を維持し、ジャレッド・ウォルシュが昨シーズン並みに打てば、打線は悪くない。ローテーションも、後半戦に限れば、先発10登板以上の4人、大谷、パトリック・サンドバルリード・デトマーズホゼ・スアレスが、いずれも防御率3.40未満とFIP3.15未満を記録した。サンドバルら3人は大谷よりも若く、成長が望める。ブルペンでは、ジミー・ハーゲットがブレイクし、期待外れの感もあるエアロン・ループライアン・タペーラの2人にしても、後半戦は持ち直した。

 ただ、ポストシーズンへたどり着くには、十分な陣容とは言い難い。エンジェルスと同じア・リーグ西地区には、6年続けてポストシーズンへ進んでいるヒューストン・アストロズと、21年ぶりにポストシーズン進出を果たしたシアトル・マリナーズがいる。昨オフ、アストロズからはカルロス・コレイア(現ミネソタ・ツインズ)が抜けたが、強さはまったく変わらなかった。マリナーズは、フリオ・ロドリゲスの登場とともに、新時代を迎えた感がある。この夏に獲得したルイス・カスティーヨとは、すでに5年1億800万ドルの延長契約を交わした。今シーズンはエンジェルスより下の地区4位に終わったテキサス・レンジャーズも、侮れない。昨オフに計5億ドルの契約でコリー・シーガーマーカス・シミエンを迎え入れているだけに、ポストシーズン進出をめざし、今オフも手を打ってくるはずだ。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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