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ボストン・グローブのあの記者は、殿堂候補の「ビッグ・パピ」に票を入れず

宇根夏樹ベースボール・ライター
デビッド・オティーズ October 17, 2004(写真:ロイター/アフロ)

 引退から5年を経て、今回、初めて殿堂入り候補となった13人のなかには、アレックス・ロドリゲスデビッド・オティーズがいる。A-RODとビッグ・パピだ。

 どちらも、実績は殿堂入りにふさわしい。通算本塁打は696本と541本。通算の出塁率はともに.380、OPSは.930と.931だ。遊撃と三塁を守ったA-RODと違い、ビッグ・パピはDHとしてプレーしたが、2004年のポストシーズンで打った3本のサヨナラ打――最初の2本はホームラン。写真は2本目の直後――をはじめ、クラッチ・ヒッターとして活躍した。

 2人とも、プロ入りしたのは、シアトル・マリナーズだった。ビッグ・パピは、メジャーデビュー前に移籍したミネソタ・ツインズを経て、ボストン・レッドソックスで開花した。2003~16年の14シーズンに打った483本塁打は、テッド・ウィリアムズの521本に次ぎ、球団2位に位置する。ビッグ・パピを擁したレッドソックスは、2004年と2007年と2013年にワールドシリーズ優勝を飾った。

 だが、ボストン・グローブのダン・ショーネシーは、今回の投票で、ビッグ・パピに票を投じなかった。投票結果の発表は1月25日だが、それに先立ち、誰に投票したのかを明らかにしている記者は少なくない。ショーネシーは、その理由について「PED(パフォーマンス向上薬)の使用が発覚した選手には票を入れない」と書いている。

 投票したボストン・グローブの記者のうち、ビッグ・パピに入れなかったのは、ショーネシーしかいない。今回の投票で、ビッグ・パピが殿堂入りする可能性は高い。ショーネシーも、ビッグ・パピの殿堂入りを否定しているわけではなく、自身が票を投じなかったのは「一貫性を保つため」だという。

 ショーネシーは、1990年に「バンビーノの呪い」と題した著書を発表した。バンビーノは、ベーブ・ルースの愛称だ。1919年を終えた時点で、レッドソックスのワールドシリーズ優勝5度は、どこよりも多かったが、その年のオフにルースをニューヨーク・ヤンキースへ売り、以降は優勝から遠ざかった。6度目の優勝は2004年だ。ルースの放出はレッドソックスの過ちとして知られていたものの、誰もが「バンビーノの呪い」と称するようになったのは、ショーネシーの本が出版されてからだ。

 なお、「バンビーノの呪い」を解いた一人、ビッグ・パピに票を投じなかったショーネシーは、他の候補もほとんどスルーしている。票を投じたのは、ジェフ・ケントだけだ。こちらについては「歴代の二塁手のなかで、ジェフ・ケントのホームランは1位、打点は3位――ライン・サンドバーグジョー・モーガンを凌ぐ」「2000年にナ・リーグMVPを受賞していて、WARはボビー・ドーアを上回る」と書いている。

 ケントは、1992~2008年の17シーズンに、377本のホームランを打ち、1518打点を挙げた。プレーした6チームに、レッドソックスは含まれていない。サンドバーグ、モーガン、ドーアは、いずれも殿堂入りしている。ドーアは、レッドソックス一筋にプレーした。

 ケントが投票にかかるのは、今回が9度目だ。これまでの得票率は、殿堂入りに必要な75%の半分に達したこともなく、前回の32.4%が最も高い。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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