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エンジェルスが「エース級の投手」を手に入れられない理由は「大谷翔平」にあり!?

宇根夏樹ベースボール・ライター
大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)Sep 19, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 マーカス・ストローマンが、シカゴ・カブスと3年7100万ドルの契約を交わした。ロサンゼルス・エンジェルスが手に入れようとしている――あるいは興味を示している、もしくは「オン」している――と報じられたFAの先発投手が、他球団と契約するのは、これが何人目だろう。

 ロビー・レイ(シアトル・マリナーズ/5年1億1500万ドル)、マックス・シャーザー(ニューヨーク・メッツ/3年1億3000万ドル)、ケビン・ゴーズマン(トロント・ブルージェイズ/5年1億1000万ドル)、エデュアルド・ロドリゲス(デトロイト・タイガース/5年7700万ドル)、ジャスティン・バーランダー(ヒューストン・アストロズ/1年2500万ドル)に、ストローマン。確認できできただけでも、少なくとも6人を数える。バーランダーの場合は、エンジェルスが1年2100万ドルで手に入れたノア・シンダーガードと同じく、ここ2シーズンはほとんど投げていないので別としても、ストローマンは5人目だ。

 もしかすると、エンジェルスは、彼らに避けられているのかもしれず、その理由の一つには、大谷翔平の存在があるのかもしれない。

 エース級の投手たちが、こぞって大谷と対戦したいと考えている、からではないはずだ。二刀流の大谷を擁するエンジェルスは、ローテーションを、通常の5人ではなく6人で構成している。

 2018年3月にMLB.comが掲載したデーブ・セッションズの記事によると、当時、テキサス・レンジャーズにいたコール・ハメルズは、6人のローテーションについて、マイナーリーグ時代から5人のローテーションで投げてきた、自分は6人のローテーションでは投げたくない、と語ったという。誰もがハメルズのように思うとは限らないが、5人のローテーションと6人のローテーションで投げた場合は、以下のような違いが生じる可能性がある。

 5人のローテーションであれば、先発機会はシーズン30試合を超える。162÷5=32.4だ。6人のローテーションだと、30試合に満たない。こちらは、162÷6=27.0だ。例えば、サイ・ヤング賞を受賞しそうな、ほぼ同じ投球内容の投手がリーグに2人いて、一方は5人のローテーション、もう一方は6人のローテーションで投げていたとすると、後者の登板数は前者よりも少なくなる。1登板の平均イニングが変わらなければ、シーズン全体のイニングも同様だ。平均6.0イニングで32試合なら192.0イニング、27試合だと162.0イニングだ。そうなると、サイ・ヤング賞に選ばれるのは、192.0イニングを投げたほうだろう。規定投球回に届かなければ、防御率のタイトルを獲得することもできない。

 また、再びFA市場に出た場合も、似たことが起こり得る。年齢が同じで投球内容も変わらない2人が揃ってFAとなり、それが、5人のローテーションで投げてきた投手と6人のローテーションで投げてきた投手だとすると、FA市場で人気を博すのは――より大きな契約を得られるのは――前者に違いない。6人のローテーションで投げてきた投手には、これから5人のローテーションで投げられるのかという疑問符が付く。

 もちろん、6人のローテーションには、登板間隔を空けることで故障のリスクを減らす、などのメリットもある。だが、それは、ここで論じているのとは別の話だ。

 個人としてもチームとしても、すでに栄誉を手に入れている大ベテラン、シャーザーのような投手なら、どちらも気にしないかもしれない。シャーザーは、サイ・ヤング賞を3度受賞していて、今オフに引退しても、殿堂入りしそうな実績を残している。2019年には、ワシントン・ナショナルズでワールドシリーズ優勝のメンバーとなった。年齢は37歳。来シーズンからの3年契約が満了した後、そこからさらに、複数年の大型契約を得るとは考えにくい。

 ただ、シャーザーには、メッツが高額の契約を申し出た。史上初の年平均4000万ドル以上だ。エンジェルスがメッツに太刀打ちできなかったとしても、不思議ではない。

 契約交渉も凍結するロックアウトの期間中に、エンジェルスは、来シーズンのローテーションに誰を加えるのか、FA市場に残っている投手だけでなく、トレードによる獲得も含め、プランを練り直す必要がありそうだ。

 シャーザーの契約については、こちらで書いた。

「37歳の投手が3年1億3000万ドルの契約を得る。「年4000万ドル以上」は史上初」

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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