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サイ・ヤング賞投手の「登板回避」はトレード市場に大きな影響を及ぼす!?

宇根夏樹ベースボール・ライター
マックス・シャーザー(ワシントン・ナショナルズ)Jul 18, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 7月24日、マックス・シャーザー(ワシントン・ナショナルズ)は、予定されていた登板を回避した。試合前に右上腕の違和感を訴え、代わりにジョン・レスターがマウンドに上がった。

 この夏のトレード市場で、ナショナルズは「売り手」に回る可能性が高い。ナ・リーグ東地区の首位に立つニューヨーク・メッツまでは、7ゲーム差の4位。ワイルドカード・レースにおいては、2番手のサンディエゴ・パドレスと11ゲーム離れている。しかも、6月上旬から離脱しているスティーブン・ストラスバーグの復帰は、さらに遅れそうだ。もしかすると、今シーズンは戻ってこられないかもしれない。

 一方、ナショナルズがシャーザーと交わしている7年2億1000万ドルの契約は、今シーズンで終わる。サイ・ヤング賞3度の実績もさることながら、数日後に37歳となる今シーズンも、シャーザーはエースであり続けている。18登板で計105.0イニングを投げ、奪三振率12.17と与四球率2.14、防御率2.83を記録している。シャーザーを獲得すれば、その球団にとっては、ポストシーズン進出やその先に向けて大きなプラスとなる。

 思い起こされるのは、4年前のジャスティン・バーランダーだ。この年、バーランダーは8月末にデトロイト・タイガースからヒューストン・アストロズへ移り、そこからの5登板で防御率1.06を記録した。続いて、ポストシーズンでも、6登板(5先発と1救援)で防御率2.21。アストロズのワールドシリーズ優勝は、サインを盗むだけで成し遂げられたものではない。

 もっと遡れば、2008年のCC・サバシア(クリーブランド・インディアンズ→ミルウォーキー・ブルワーズ)や1998年のランディ・ジョンソン(シアトル・マリナーズ→アストロズ)も、移籍後に防御率1点台を記録し、ポストシーズン進出の牽引車となった。バーランダーは複数年契約の途中だったが、サバシアとランディはそのオフにFAとなり、違う球団へ去っていった。

 ただ、サバシアとランディのような、数ヵ月のレンタルとして、シャーザーを手に入れるわけにはいかないようだ。シャーザーはメジャーリーグ10年以上(14年目)のキャリアがあり、ここ5年以上(7年目)をナショナルズで過ごしているので、「10&5」のトレード拒否権を持つ。NBCスポーツのゴードン・ウィッテンマイヤーによると、シャーザーの代理人を務めるスコット・ボラスは、トレード&契約延長でなければ、拒否権を行使するつもりでいるという。

 シャーザーとボラスが求めているのは、来シーズンからの2年契約、あるいは3年契約だと思われる。年齢を考えると、球団にはリスクのある契約だ。今回の登板回避により、年齢による衰えのみならず、故障の不安も増したと考える球団があってもおかしくない。7月30日のデッドラインまでにシャーザーが登板し、少なくとも現時点における不安を払拭しない限り、獲得に動く球団が出てこない事態も起こり得る。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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