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「OPS.900以上のDH」を獲得直後に「防御率3点台の先発投手」を放出。この動きが意味するのは…

宇根夏樹ベースボール・ライター
リッチ・ヒル Jul 5, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 7月22日、タンパベイ・レイズは、ミネソタ・ツインズからネルソン・クルーズを獲得した。その翌日、レイズは、ニューヨーク・メッツへリッチ・ヒルを放出した。

 クルーズとヒルは、ともに41歳だ。今シーズンのメジャーリーグでプレーしている選手を年齢の高い順に3人並べると、アルバート・プーホルス(ロサンゼルス・ドジャース)、ヒル、クルーズとなる。だが、レギュラーではなくなっている41歳のプーホルスと違い、クルーズはDHとして、移籍までに、19本塁打、出塁率.370、OPS.907。ヒルはローテーションの一角を担い、19先発で防御率3.87を記録している。

 7月22日を終え、レイズは58勝39敗(勝率.598)。ワイルドカード・レースのトップを走り、ア・リーグ東地区の首位にいるボストン・レッドソックスとも、1ゲームしか離れていない。

 クルーズを獲得した理由は、わかりやすい。レイズで100打席以上の14人は、いずれもOPS.820未満だ。マイク・ズニーノ以外は、OPS.800にも届いていない。先発投手のマイナーリーガー2人と交換に、レイズはクルーズ(とリリーフ投手のマイナーリーガー1人)を手に入れた。

 一方、ヒルの放出は、クルーズの獲得と相反する動きのようにも見える。ただ、ヒルの防御率は3点台ながら、直近の7登板に限ると5.40に跳ね上がる。不正投球の取り締まりが影響しているのか、カーブの回転量が落ち、それまで投げていなかったチェンジアップを織り交ぜ始めているが、結果は芳しくない。

 このままいけば、ヒルはローテーションから外されていたに違いない。レイズは、7月22日にルイス・パティーニョを昇格させた。離脱中のクリス・アーチャーも、まもなく戻ってくる。また、シーズン終盤には、エースのタイラー・グラスナウが復帰するかもしれない。そこで、先発投手の補強が急務だったメッツの求めに応じ、レイズはヒルを手放したのではないだろうか。

 ア・リーグからナ・リーグへ移ることで、ヒルは復活するかもしれない。メッツはそう願っているはずだ。

 なお、ヒルと交換にメッツからレイズへ移ったのは、トミー・ハンターとユーティリティ(捕手を含む)のマイナーリーガーだ。ハンターはメジャーリーグ14年目のリリーフ投手だが、腰を痛めて故障者リストに入っていて、今シーズンは復帰できそうにない。レイズでは登板することなく、FAになるだろう。トレードの釣り合いをとるために、ハンターは交換要員に含まれた。ハンターとヒルの年俸は、あまり変わらない。

 7月23日、レイズの「3番・DH」として出場したクルーズは、2打席目にホームランを打った。ヒルは、7月26日に先発登板の予定だ。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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