Yahoo!ニュース

ルール5ドラフトの「現実」。サクセス・ストーリーは稀。昨オフの14人中11人は元の球団へ返却された

宇根夏樹ベースボール・ライター
ジョーダン・ロマーノ(トロント・ブルージェイズ)Jun 19, 2019(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 1年前のルール5ドラフトでは、14人が指名を受けて移籍した(メジャーリーグ・フェイズのみ)。このドラフトは、すでにメジャーデビューしている選手が対象になることもあるが、昨オフに指名された14人はいずれもデビュー前だった。そのうちの10人は、今シーズン、メジャーデビューを果たした。この点からすると、多くの選手がチャンスをつかんだと見ることもできよう。

 ただ、14人中11人は、元の球団へ返却された。彼らについては、シーズンを通して25人ロースターに入れておかなければならない、というルールがある。獲得した球団(ドラフト後のトレードなどで獲得した場合も含む)は、他の選手をロースターに入れるため、彼らをドラフト前の球団へ送り返した。

 なかには、開幕前に返却された選手も4人いた。ジョーダン・ロマーノ(トロント・ブルージェイズ)もその一人。彼のメジャーデビューは、返却後のことだ。昨オフ、ブルージェイズにいたロマーノは、ルール5ドラフトでシカゴ・ホワイトソックスから指名され、直後に金銭トレードでテキサス・レンジャーズへ移籍した。これは、ホワイトソックスとレンジャーズがあらかじめ取り決めていた動きだ。だが、レンジャーズは3月下旬にロマーノをブルージェイズへ返却。AAAで開幕を迎えたロマーノは、6月にメジャーリーグへ昇格した。

 この4人を含め、4月中旬までに元の球団へ戻された選手は7人に上る。指名された選手の半数だ。

 最後まで返却されず、現在も移籍先の球団にいる3人も、来シーズンの開幕ロースター入りが確約されるほどの成績は残せなかった。リリーフとして投げたブランドン・ブレナン(シアトル・マリナーズ)とエルビス・ルチアーノ(トロント・ブルージェイズ)の防御率は、それぞれ4.56(44登板)と5.35(25登板)。遊撃手のリッチー・マーティン(ボルティモア・オリオールズ)は120試合に出場したが、OPS.581は300打席以上の273人のなかで3番目に低かった。

 先日、「ルール5ドラフトの「サクセス・ストーリー」。2年前に指名され、今シーズンは開幕投手&防御率チーム1位」で紹介した、ブラッド・ケラー(カンザスシティ・ロイヤルズ)のような選手は、そうそう現れるわけではない。

 なお、ブレナンがデビューしたのは、3月21日の東京ドームだ(菊池雄星も、この試合でデビューした)。8回裏にイチローが試合から退いた直後、ブレナンはメジャーリーグで最初の球を投げた。また、9月26日には本拠地のT-モバイル・パークで、6回表の途中にフェリックス・ヘルナンデスからマウンドを引き継いだ。これは、マリナーズにおけるフェリックスの最終登板になるだろう。イチローと同じく、キャリア最後の試合となる可能性もある。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

宇根夏樹の最近の記事