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リーグ・ワーストの防御率を記録した翌年にサイ・ヤング賞!? 昨シーズンは6点台、今シーズンは2点台

宇根夏樹ベースボール・ライター
ルーカス・ジオリト(奥)とジェームズ・マッキャン May 23, 2019(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 5月23日、ルーカス・ジオリト(シカゴ・ホワイトソックス)がキャリア初の完封を記録した(写真)。被安打4本はすべてシングルで、与四球と与死球は1ずつ。ヒューストン・アストロズの打者から9三振を奪い、一度も三塁を踏ませなかった。この完封により、シーズン防御率は2.77まで下がった。

 昨シーズンの防御率は6.13。ア・リーグのみならず、規定投球回をクリアした投手のなかで最も高かった。2009年以降のシーズン防御率6.00以上は、ジオリト以外に皆無。過去10シーズンのワーストだったということだ。昨シーズンのワースト2位でさえ、ジオリトより0.68も低かった。

 メジャーリーグ4年目の好成績は、ブレイクなのか。それとも、単なるまぐれなのか。

 答は前者だろう。もともと、資質は高く評価されていた。2012年のドラフト順位は全体16位。高校生の投手では、3番目に指名された。今シーズン、ジオリトは球種のレパートリーからシンカーを外し、チェンジアップの割合を増やすとともに、プレートの立ち位置を中央から一塁寄りに変えた。その結果、昨シーズンと比べると、奪三振率が急激に上昇し(6.49→10.21)、与四球率は下がっている(4.67→3.29)。

 5月26日の時点で、防御率はリーグ7位、52.0イニングは39位タイだ。防御率とイニングだけがサイ・ヤング賞の選考基準ではないが、このままであれば、ジオリトが選ばれるとは考えにくい。ただ、3月末と4月の計4先発で防御率5.30に対し、故障者リスト入りを挟み、5月の5先発は1.35。5月23日の完封を除いた4先発でも1.85だ。1試合の平均イニングも、5イニング未満(最初の4先発)から6イニング以上(次の4先発)に増えている。後半戦を迎える頃には、サイ・ヤング賞候補に浮上しているかもしれない。

 これまでにサイ・ヤング賞を受賞した延べ116人のなかで、その前年に防御率6.00以上は、クリフ・リー(2008年)しかいない。リーの場合、2007年は97.1イニングで防御率6.29なので、前年に規定投球回をクリアした投手では、パット・ヘンゲン(1996年)がワーストだ。1995年に200.2イニングを投げ、防御率5.11を記録した。また、この年のア・リーグ――当時のヘンゲンはトロント・ブルージェイズにいた――には、さらに防御率の高い投手が2人いた。ナ・リーグも含めると、ヘンゲンの防御率はワースト6位に位置する。

 今シーズン、ジオリトがサイ・ヤング賞を手にすれば、前年に規定投球回をクリアして防御率6.00以上という点でも、前年にリーグ・ワーストの防御率という点でも、史上初の受賞者となる。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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