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トランプ大統領が言っているとおり、あの投手は殿堂入りに値するのか

宇根夏樹ベースボール・ライター
ランディ・ジョンソン(左)とカート・シリング Nov 4, 2001(写真:ロイター/アフロ)

 ドナルド・トランプ大統領が、こうツイートした。「カート・シリングは殿堂入りに値する。素晴らしい記録、特にプレッシャーがかかった場面やここ一番で。球界の誰もが正しいとわかっていることをやれ!」

 シリングが、殿堂入りを選考する記者投票にかかるのは、今回が7度目だ。これまでの得票率は、2016年の52.3%が最も高く、昨年は51.2%だった。

 過去6度の投票で、50%以上の票を得た投手は、シリングを含めて10人いた。彼らの通算成績は、以下のとおりだ。10人のなかから、活躍した時期がシリングと大きく異なるジャック・モリス(1977~94年)と、時期は重なるものの、先発登板ゼロのトレバー・ホフマン(1993~2010年)は除いた。この2人は、昨年揃って殿堂入りしている。モリスは記者投票ではなく、モダン・エラ委員会に選出された。

筆者作成
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 今日においても、300勝は殿堂入りの切符と言っていいだろう。300勝以上を挙げた24人中、殿堂に迎えられていないのはロジャー・クレメンスだけだ。クレメンスの票が伸びない理由は、薬物にある。

 シリングと7人を比べると、ペドロ・マルティネスジョン・スモルツの白星はシリングとほぼ同じだが、ペドロの防御率はシリングより0.50以上も低く、スモルツは白星に加えて154セーブも挙げている。

 また、殿堂入りした5人とクレメンスはサイ・ヤング賞を受賞しているが、マイク・ムシーナとシリングはそうではない。ともに2位が最高だ。1999年のア・リーグはペドロが1位でムシーナは2位、2001年と2002年のナ・リーグはチームメイトのランディとシリングがトップ2、2004年のア・リーグではヨハン・サンタナがシリングを抑えて受賞した。サンタナはキャリアが12年と短く、昨年の初選考で得票率5%未満(2.4%)に終わり、投票にかかる資格を失った。

 ただ、シリングはポストシーズンで19試合に先発し、11勝2敗、防御率2.23と抜群の成績を残している。防御率は、8人のなかでシリングに次ぐスモルツ(2.67)でさえ、0.44も高い。他の6人は3点台だ。シリングは1993年のリーグ・チャンピオンシップ・シリーズMVPに続き、2001年のワールドシリーズでも、ランディとともにMVPを受賞。ボストン・レッドソックスが「バンビーノの呪い」を解いた2004年のポストシーズンでは、「血染めのソックス」で快投を演じ、伝説を作った。その3年後にも、レッドソックスのワールドシリーズ優勝に貢献した。

 こうして見ると――もちろん、判断材料はこれだけではないが――シリングは間違いなく殿堂入りする実績ではないものの、殿堂入りしてもおかしくないように思える。トランプ大統領が「殿堂入りに値する」と主張するのも、あながち的外れではない。もっとも、「球界の誰もが」については賛同しかねるが。

 トランプ大統領のツイートが、今回の結果に影響を与えることはない。投票はすでに締め切られていて、1月22日に発表される。

 なお、シリングはトランプ大統領の支持者だが、レッドソックスのラファエル・デバースは違うようだ。昨年のワールドシリーズで優勝したレッドソックスのメンバーは、2月15日にホワイトハウスを訪れるが、NBCスポーツ・ボストンのエバン・ドレリッチによれば、デバースはホワイトハウスには行かないと言っているという。昨年、ヒューストン・アストロズがホワイトハウスを訪問した際は、カルロス・ベルトランカルロス・コレイアが参加しなかった。デバースはドミニカンで、2人のカルロスはプエルトリカンだ。一方、シリングは引退後の差別発言が影響したのか、ペドロをはじめとする2004年の優勝メンバーが、昨年のワールドシリーズ第2戦で始球式を行った時に、レッドソックスから招かれなかった。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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