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21世紀2人目の「20敗投手」を辛うじて免れた右腕が、ストーブリーグでは大人気

宇根夏樹ベースボール・ライター
クリス・アーチャー(タンパベイ・レイズ)Apr 30, 2016(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

2001年以降にシーズン20勝以上を記録した投手は、38人(延べ49人)を数える。2016年はリック・ポーセロ(ボストン・レッドソックス)が22勝を挙げ、マックス・シャーザー(ワシントン・ナショナルズ)とJ.A.ハップ(トロント・ブルージェイズ)も20勝に到達した。

一方、シーズン20敗以上は、2003年にデトロイト・タイガースで21敗を喫したマイク・マロースしかいない。2016年のジェームズ・シールズ(サンディエゴ・パドレス/シカゴ・ホワイトソックス)とクリス・アーチャー(タンパベイ・レイズ)を含め、19敗は6人いるものの、21世紀2人目の「20敗投手」は誕生していない。

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シールズの19敗目はシーズン最終登板だったため、20敗のチャンス(?)はなかった。2001年のボビー・ジョーンズ(パドレス)と2004年のダレル・メイ(カンザスシティ・ロイヤルズ)も同じだ。2003年のジェレミー・ボンダーマン(タイガース)も20敗の可能性は低かった。ボンダーマンは先発登板して19敗目を喫した後、マロースが先発した2試合にリリーフとして投げた。いずれの登板時も7点のリードがあった。

だが、2001年のアルビー・ロペス(タンパベイ・デビルレイズ/アリゾナ・ダイヤモンドバックス)と2016年のアーチャーは、20敗にリーチをかけてからも先発マウンドに上がった。ロペスは2先発し、8回1失点と完封で19敗のままシーズンを終えた。アーチャーは9月29日に先発して3点を失い、7回途中に走者1人を残して降板したものの、その時点で味方は5点を挙げていた。

そして、今オフ、アーチャーは他球団から熱い視線を浴びている。

21世紀にシーズン19敗以上を記録した7人のうち、アーチャーの防御率4.02は飛び抜けて低い。2016年にア・リーグで規定投球回以上を投げた39人のなかでは、19位に位置する。防御率3.99で18位のデビッド・プライス(レッドソックス)は17勝9敗、防御率4.12で22位の岩隈久志(シアトル・マリナーズ)は16勝12敗を記録した。登板した試合(降板後も含む)に味方が挙げた得点は、プライスの1試合平均5.66点(リーグ3位)と岩隈の5.06点(7位)に対し、アーチャーは3.48点(38位=ワースト2位)だった。

それだけではない。アーチャーは3年続けて190イニング以上を投げ、ここ2年は奪三振率10.40以上を記録しながら、与四球率は3.00以下にとどめている。リーグを問わず、190イニング以上、奪三振率9.00以上、与四球率3.00以下の3項目をここ2年ともクリアしているのは、マディソン・バムガーナー(サンフランシスコ・ジャイアンツ)、コリー・クルーバー(クリーブランド・インディアンズ)、クリス・セール(ホワイトソックス)、シャーザー、アーチャーの5人だけだ。

この5人のうち、再建モードに入るであろうレイズとホワイトソックスのエース、アーチャーとセールにはトレードの噂が浮上している。今オフのFA市場には彼らに匹敵する先発投手が見当たらないことも、その人気を高めている(他の3人がトレードに出される可能性は皆無に等しい)。

アーチャーもセールも、来シーズンの開幕時は28歳だ。現時点の完成度はセールの方が上だが、トレード・バリューはアーチャーが勝るのではないだろうか。2人の契約にはそれぞれ2年分の球団オプションがついていて、それを含めるとセールは残り3年3800万ドル(年平均1267万ドル)、アーチャーは5年3850万ドル(年平均770万ドル)となる。

タンパベイ・タイムズのマーク・トプキンによれば、アーチャーは来春のWBC出場に意欲を示しているという。その頃までには、アーチャーがどのユニフォームを着て来シーズンを迎えるのかも、決まっているかもしれない。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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