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それでもA-RODを嫌いになれない理由

宇根夏樹ベースボール・ライター
アレックス・ロドリゲス(ニューヨーク・ヤンキース)Apr 13, 2015(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

アレックス・ロドリゲス(ニューヨーク・ヤンキース)はステロイドの使用歴を持つ。走塁中、ポップフライを捕ろうとしていた三塁手の後ろから声をかけ、遊撃手が捕球の合図をしたと勘違いさせ、落球を誘ったこともあるし、ポストシーズンの試合中にナンパしていたと報じられたこともあった。ボールボーイに命じ、ダグアウト付近の客席にいた女性に届けさせたボールには「電話番号を書いて戻してほしい」と記してあったという。

これらは一例に過ぎず、リスペクトすべき選手とは言い難い。それでも、私はA-ROD(エー・ロッド)のことを嫌いではない。

7月1日の試合では、こんな場面があった。5点ビハインドで迎えた9回表のことだ。無死一、二塁で代打出場したA-RODは、タイムリーヒットを放ち、2点差に迫るホームも踏んだ。その直後、ダグアウトでスタッフと談笑していたA-RODに、ジョー・ジラルディ監督が声をかけた。すると、A-RODはいったん姿を消し、グラブを手にしてダグアウトに戻ってきた。

A-RODが守備についていたのは、過去の話だ。昨年の5月23日を最後に、DHと代打以外では出場していない。だが、この試合では、チェイス・ヘッドリーロブ・レフスナイダーロナルド・トレイエズがすでに出場を終えており、同点に追いつくか逆転した場合、9回裏に三塁を守るのはA-RODしかいなかった。

ヤンキースは1点差に詰め寄り、2死ながら三塁に走者を置いていた。A-RODは左手にグラブをはめ、じっと立ったまま、フィールドを見つめていた。結局、ヤンキースは追いつけず、試合は9回表で終わったが、あの時の表情は、A-RODを嫌いになれない理由として挙げるのに(少なくとも私にとっては)十分だった。

今や、A-RODはレギュラーではなく、対左用のDHとなっている。再びグラブを手にしてフィールドに立つ機会が巡ってくるかどうかはわからない。ただ、カンザスシティ・ロイヤルズのケンドリス・モラレスのような例もある。

6月29日の試合で、モラレスはライトを守った。今シーズンもDHと代打の他に、一塁手としても出場しているが、外野の守備につくのは8年ぶりのことだった。モラレスは1回裏の平凡なフライに続き、3回裏には右中間のフェンスを直撃しそうな打球を追っていって好捕した。この日から、5試合続けてナ・リーグの球場でライトを守ったモラレスは、エラーを犯すことなく、外野手としての役割を無事に務めた。

ニューヨーク・デイリー・ニューズのマーク・フェインサンドの記事によると、A-RODはオールスター・ブレイクの間に、一塁の守備練習をする予定だという。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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