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どこまで続く「ダニエル・マーフィー祭り」。ポストシーズン新記録の6試合連続ホームランだけじゃない!!

宇根夏樹ベースボール・ライター
メッツ・リーグ優勝(左端がダニエル・マーフィー)OCTOBER 21, 2015(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

10月21日、ニューヨーク・メッツがリーグ・チャンピオンシップ・シリーズ(リーグ優勝決定シリーズ)でシカゴ・カブスを下し、2000年以来15年ぶりのワールドシリーズ進出を決めた。シリーズMVPにはダニエル・マーフィーが選ばれた。

メッツを取材しているウォール・ストリート・ジャーナル紙のジャレッド・ダイヤモンドは、10月17日にこうツイートしている。

「ふむふむふむ…

まとめてみると:

カブスを呪うビリー・ゴートの名前:マーフィー

1908年カブスのオーナー:チャールズ・マーフィー

1969年メッツのGM:ジョニー・マーフィー

1969年メッツのアナウンサー:ボブ・マーフィー

1984年のNLCS開催地:ジャック・マーフィー・スタジアム

2015年メッツのNLDSヒーロー:ダニエル・マーフィー」

1945年のワールドシリーズで入場を拒否されてカブスに「呪い」をもたらした山羊も、カブスが最後にワールドチャンピオンとなった時のオーナーも、「ミラクル・メッツ」が優勝した時のGMとアナウンサーも、カブスが2連勝後に3連敗を喫したリーグ・チャンピオンシップ・シリーズの球場も、今年のメッツのディビジョン・シリーズ(地区シリーズ)のヒーローも「マーフィー」だという。ここにもう1行、「2015年メッツのNLCSヒーロー:ダニエル・マーフィー(再び)」と付け加わったことになる。

過去との関連性はともかく――マーフィー(Murphy)というラストネームはそう珍しくなく、今シーズンのメジャーリーグには4選手がいた――今年のポストシーズンにおけるマーフィーは、とにかくすごい。ダイヤモンドのツイートではないが、ここまでの9試合についてまとめてみた。なお、マーフィーがポストシーズンでプレーするのは、これが初めてだ。また、レギュラーシーズンの本塁打は、どの年も15本に達したことがない。

●6試合連続ホームラン

マーフィーはディビジョン・シリーズ第4戦からリーグ・チャンピオンシップ・シリーズ第4戦まで、6試合続けてホームランを放ち、ポストシーズン記録を塗り替えた。それまでは、2004年にカルロス・ベルトランが記録した5試合連続が最長だった。マーフィーはストリークを継続したまま、ワールドシリーズ第1戦を迎える。ちなみに、レギュラーシーズンの最長は8試合連続。デール・ロング(1956年)、ドン・マッティングリー(1987年)、ケン・グリフィーJr.(1993年)の3人が記録している。

●ポストシーズン7本塁打

マーフィーはディビジョン・シリーズ第1戦でもホームランを打っている。同一年のポストシーズンで7本塁打は、すでに歴代4位タイにランクイン。あと1本打てば、最多のバリー・ボンズ(2002年)、ベルトラン(2004年)、ネルソン・クルーズ(2011年)に並ぶ。これから始まるワールドシリーズは、少なくとも4試合が行われる。

●防御率トップ3に対して打率5割、4本塁打

マーフィーは2シリーズとも、相手チームが擁する左右の二枚看板から本塁打を放った。ロサンゼルス・ドジャースとのディビジョン・シリーズで記録した3本塁打は、クレイトン・カーショウ(2本)とザック・グレインキーから。カブスとのリーグ・チャンピオンシップ・シリーズで打った4本塁打のうち最初の2本は、ジョン・レスタージェイク・アリエタからだった。ポストシーズンの7本塁打中3本が対左という点も、レギュラーシーズンは14本中1本だったことからすれば驚きだが、特筆すべきはそれだけではない。グレインキー、アリエタ、カーショウは今シーズンのナ・リーグ防御率トップ3だ。レギュラーシーズンで3人全員と対戦した打者は、マーフィーを含めて60人以上いたが、3投手全員から本塁打を打った選手はいなかった。唯一、3人中2人から本塁打を放ったコール・カルフーン(ロサンゼルス・エンジェルス)は、アリエタとの対戦がなかった。マーフィーは3投手との計16打席で15打数3安打、0本塁打、0打点。それが、ポストシーズンでは計15打席で14打数7安打、4本塁打、6打点だ。

●7試合連続の安打&打点&得点

マーフィーはここまでの全9試合ともヒットを放ち、ディビジョン・シリーズ第2戦を除く8試合で打点と得点を挙げている。ESPNスタッツ&インフォによれば、ポストシーズンで安打、打点、得点のすべてを7試合続けて記録したのは、マーフィーの他にはルー・ゲーリッグ(1928年&32年)しかいない。マーフィーはこちらも、継続したままワールドシリーズを迎える。

●スラッシュラインは2位

ここまでのスラッシュライン(打率/出塁率/長打率)は.421/.436/1.026。これは3部門とも、今年のポストシーズンではカブスのホルヘ・ソレーア(.474/.600/1.105)に次ぐ(10月22日現在/25打席以上)。7本塁打、9長打、11得点は最多。16安打と11打点は最多タイだ。安打はアルシデス・エスコバー(カンザスシティ・ロイヤルズ)、打点はトロイ・トゥロウィツキ(トロント・ブルージェイズ)が、それぞれマーフィーと並んでいる。

●試合終了のファインプレー

リーグ・チャンピオンシップ・シリーズ第1戦の9回表。メッツはカブスを2点リードしていたが、2死からヒットを打たれ、続く打者にも一、二塁間に鋭い打球を飛ばされた。だが、マーフィーが左へ走りながらダイビングしてこの打球を捕り、素早く立ち上がって一塁へ送球。長打が出れば逆転という場面が生じるのを防ぎ、試合を終わらせた。

●マーフィーを避けてセスペデスと勝負

リーグ・チャンピオンシップ・シリーズ第2戦の3回裏。1死二塁の場面で打席に入ったマーフィーを、カブスは敬遠四球で歩かせた。マーフィーは初回に2ラン本塁打を放っていたとはいえ、オンデック・サークルにはヨエニス・セスペデスが控えていた。レギュラーシーズンで14本塁打のマーフィーに対し、セスペデスは倍以上の35本を打っており、7月末のメッツ移籍後に限っても、17本でマーフィーを上回っていた。カブスはセスペデスに三遊間へのゴロを打たせたが、その前に三盗を決めていたカーティス・グランダーソンがホームイン(セスペデスは内野安打)。メッツは4対0とリードを広げた。なお、ドジャースはディビジョン・シリーズ第3戦でデビッド・ライトを敬遠してマーフィーと勝負したが、タイムリーヒットを打たれた。

●四球で一塁から三塁へ

ディビジョン・シリーズ第5戦の4回表。この回の先頭打者だったマーフィーはヒットで出塁し、1死からルーカス・ドゥーダが四球を選ぶと、二塁ベース直前まではゆっくり走っていき、そこからスピードアップ。ドゥーダに対して右寄りのシフトを敷き、どの野手もカバーしていなかった三塁を陥れた。マーフィーはこの後、トラビス・ダーノウのライトフライで同点のホームを踏んだ。ホームラン連発もさることながら、個人的には、マーフィーのポストシーズン最高のプレーとしてこの三盗を――少なくとも現時点では――挙げたい。

マーフィーは現在30歳。2006年のドラフトでメッツから13巡目・全体394位指名を受けて入団し、そこから球団一筋に過ごしてきて、今オフに初めてFAとなる。レギュラーシーズンでは4年続けて37本以上の二塁打を放っているが、本塁打は今シーズンの14本が最も多く、ここ4年のシーズン出塁率も.315~.335と平凡な値を推移している。守備も平均以下。メッツは再契約には動かないようだ。契約を提示するにしても、1年1580万ドルのクオリファイング・オファーだろう。これを申し出ておけば、マーフィーが退団して他球団と契約した場合、メッツは来年のドラフトで補完指名権を得る。今までに、クオリファイング・オファーを受け入れて残留した選手は一人もいない。

このまま活躍を続け、メッツを1986年以来29年ぶりのワールドチャンピオンに牽引しても、2009年の松井秀喜のように、マーフィーもワールドシリーズMVPを置き土産にチームを去ることになるのかもしれない。ワールドシリーズは10月27日、ロイヤルズかブルージェイズの本拠地で幕を開ける。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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