日本発の「育てる」オーディオ規格を~ワンボードコンピュータ・コンソーシアム設立

ワンボードコンピュータが注目される理由

ワンボード(シングルボード)コンピュータは、1枚のプリント基板上にコンピュータとして機能するICを搭載した製品です。キーボードやディスプレイはもちろん電源すら付属しない、いわば「頭脳のみ」のコンピュータですが、1枚数千円、製品によっては数百円という低価格、小型・低消費電力とカスタマイズ性の高さが評価され、急速に普及しました。

その代表格が「Raspberry Pi(ラズベリー・パイ)」です。教育目的で製品化されましたが、豊富な機能とコストパフォーマンスの高さに世界中のエンジニアが注目、Linuxが移植されるなどソフトウェア/開発環境の充実もあり人気に火が付きました。2012年2月の発売からわずか4年半でシリーズ累計1000万台を突破という事実からは、ひとつのプラットフォームとして認知された以上の勢いを読み取れます。いまやWindows 10(IoT Core)も公式対応するほどです。

ワンボードコンピュータの用途は教育、小型カメラを搭載した監視装置、小型サーバとしての運用、ホビーなど多数ありますが、IT/電機産業の分野では「組み込み」が注目されています。前述したRaspberry Piの場合、SO-DIMM(メモリモジュールの一形態)サイズの「Compute Module」を利用すれば、より柔軟なデザインで電子機器の頭脳として活用できます。実際、NEC Display Solutions Europeが開発したデジタルサイネージシステム(リンク)には、最新の「Compute Module 3」が内蔵されています。

ワンボードコンピュータはオーディオと好相性

意外に思われるかもしれませんが、ワンボードコンピュータはデジタルオーディオと好相性です。熱心なオーディオファンは「再生の純度を高める」ことを重視しますから、曲の再生指示さえできればじゅうぶんで、キーボードやディスプレイ、そしてGUIシステムは不要です。音楽再生に特化したOSを動作させればCPUに余計な負荷がかからないため、電磁ノイズなど音楽再生に悪影響を及ぼしかねない要素を抑え高音質を狙える、それにワンボードコンピュータは好適、というわけです。

IC間の通信方式「I2S(Inter-IC Sound)」を使えることも、熱心なオーディオファンから注目を集める理由です。I2Sをオーディオ機器の接続に使うという発想はいまに始まったことではなく、いくつかのオーディオメーカーが試み実用化されてもいますが、自社製品間の接続に利用されることが大半です。しかし、Raspberry Piを例にすると、GPIOという汎用ポートを通じて手軽にI2Sを利用できます。高級オーディオ機でも難しいI2Sによるやり取りを、ワンボードコンピュータであっさり実現できてしまうのです。

当然、そこに注目するオーディオメーカーが現れます。現在のところ、いわゆるガレージメーカーが中心ですが、欧米ではRaspberry Pi向けの拡張ボードが多数販売されていますし、Raspberry Piを筐体内に組み込んだオーディオ機器も続々登場しています。オーディオシステムとしての利用に耐えるLinuxベースのOSも複数登場し、機能充実にしのぎを削っています。すでにオーディオ機器としてのエコシステムが成立している、ということもできるでしょう。

しかし、統一性はありません。Raspberry Pi向けの拡張ボードには「HAT」というRaspberry Pi財団が策定した統一規格があり、縦横の大きさは問題となりませんが、RCAピンやイヤホンジャックなどの端子の数と位置は取り決めがなく、拡張ボードに合うケースを入手しなければなりません。拡張ボードを交換すると、ケースも変えなければならないのです。適したケースがなければ、全体をむき出しの状態で使わなければなりません。

ワンボードコンピュータを筐体内に組み込むタイプのオーディオ機器にも、悩ましい問題があります。Raspberry Piを内部に隠す形で組み込むと、端子の向きを変えることができないため、内部レイアウトは制約を受けます。OSの起動ディスクとして使うmicroSDの交換も難しくなるなど、高い拡張性/カスタマイズ性という長所がスポイルされてしまうのです。

拡張ボードを変えればケースも変えなければなりません
拡張ボードを変えればケースも変えなければなりません

「育てる」要素をオーディオに

これらの問題を乗り越えるべく、ワンボードコンピュータをコアとしたオーディオ機器規格の策定を目指し設立される団体が「ワンボードオーディオ・コンソーシアム」です。一般社団法人として正式発足後は、「ポータブル」や「コンポーネント」などフォームファクタごとに作業部会を設け、規格策定にあたります。そして互換性/動作確認を行った製品に対するロゴマークの付与を行うことで、エンドユーザが安心して楽しめる環境を目指します。

各フォームファクタでは、一部を交換・アップグレード可能な設計とすることで「育てる」要素を実現します。自作パソコン的、と表現すればわかりやすいでしょうか。ポータブル型では、前面/側面のパネルを交換することで、複数の拡張ボードに対応できるようになります。コンポーネント型はオーディオメーカーが独自に決める領域を確保しつつ、共通の拡張ボード仕様を用意してDIY性を打ち出します。2つのフォームファクタはサイズが異なるため、交換できる基板に互換性はありませんが、共通のシステム(Linux)で動作します。

ソフトウェアの整備にも着手します。当面は既存のLinuxディストリビューションを利用しますが、PCやスマートフォンで購入したハイレゾ音源を自動ダウンロードするなど、音楽配信企業の参画なしには実現できない機能の提供が計画されています。追加した機能は基本的にオープンソースソフトウェアとして公開されるため、やがてはオーディオシステムの公共財として活用されることでしょう。

ポータブルタイプ(イメージ)
ポータブルタイプ(イメージ)
コンポーネントタイプ(イメージ、水色部分がオーディオ領域)
コンポーネントタイプ(イメージ、水色部分がオーディオ領域)

Yahoo! ニュース個人にこのような記事を投稿する理由ですが、それは筆者が1人で提案書を作成し、国内オーディオ関連メーカー・音楽配信企業を回り同意を取り付けたからです。ふだんオーディオ機器の評価などで交流のある企業が中心ですが、製品開発につながる内容なだけに、理解を得る作業はそう簡単なものではありませんでした。

落ち着いて考えると無茶な試みですが、挑戦する意義は大いにあったと考えています。ふと気がつけば、デジタルオーディオ機器の内部はコンピュータに近い状態となり、Linuxなどオープンソースも活用されています。半導体へのソフトウェアの組み込みが進む現在、コンピュータ的要素との棲み分け・役割分担を定めなければ、オーディオ機器のコモディティ化が進みかねません。体系的で一貫した基本ソフトが動作するコンピュータを内蔵すれば、PC要素とオーディオ要素の区分が明確化され、オーディオメーカーごとの"音"を残せることでしょう。

まだ形として見えるものがない状態ですが、音という感性に訴える要素を「日本発の"育てる"オーディオプラットフォーム」という形でデジタル時代に残せるよう、加盟社と奮闘努力を続けるつもりです。次のニュースをご期待ください。

2月28日時点で加盟表明は8社、数社が検討中です
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