たった一人の嫌な存在、なぜ気になる?「サクランボとゴキブリ」論からひもとくストレス対策

写真はイメージです。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

<相談ケース>

A さん(28歳)は、入社7年目の中堅社員。職場は総務部門で、後輩社員2名、同世代の1名、それに先輩の30代女性と上司の40代男性という構成。仕事は入社試験などの時期は忙しいものの時間外の勤務はほとんどなく、仕事内容も慣れてきたので問題なし。人間関係もまずまずだという。ただ気になるのは、総務の隣り、人事部門の40代女性Bさんと何となく気まずい雰囲気になっていることで、Bさんにときどき冷たい視線で見られている気がする。

独身で母親と2人暮らしのBさんとは共通の話題もなく話す機会も少ない。ただ業務連絡で1日1回ほど顔を合わせる際、ニコリともしないBさんの態度がとても気になりゆううつになる。気になりだすとBさんの動向の一つ一つの裏を考えたりしてしまう。「たった一人嫌な人がいるとそれだけで会社に行くのが嫌になる」という。

<解決へのヒント>

「たった一人嫌な人がいるとそれですべてが台無し」という気持ち、わかるな、という方が多いと思います。子どもの頃から「みんなと仲良くすることが良いこと」「みんなとうまくやるように」と言われて育つから、すべての人とうまくいかなければという思いがあるためかもしれません。

Aさんも親や教師から「協調性があることが大事。女性はまわりとの人間関係が良いことが一番」と言われて育ったといいます。

こうした中で私たちは人間関係に関しては、「すべての人とうまくいかなければ」という思いに陥りやすく、心理的にいう「全か無か」という思考回路にはまりやすいのです。この思考回路は完璧主義とも通じるもので、すべてが完全にうまくいかないと意味がないという考え方。そしてこの思考回路にはまると、うまくいかない一人のことが気になりだしてうつ気分に陥りやすいと言えます。

Aさんの場合、仕事に慣れてきた、部内の人とはうまくいっている、仕事内容には特にストレスがなくまず順調―という条件が整ったところで、たまたまうまくいかないBさんのことが気になり注意が集中してしまったのだとわかりました。

ただ詳しく話を聞くと、Bさんと具体的に何かトラブルがあったわけではなく「なんとなく嫌われている感じ」「避けられている感じ」なのだそうで、Aさんの不安には根拠がないこともわかりました。またBさんの態度はAさんに限ったものでなく誰に対してもわりに愛想がないということも判明し、Aさんは少し気分がすっきりした感じでした。

「全か無か」思考回路の傾向と対策

それではここでAさんのように「一人の人とうまくいかない」ことでうつ気分に陥る人間関係の悩みをどう乗り切るか、「全か無か」思考回路の傾向と対策を考えてみましょう。

傾向1:生活全体が順調なときに悩みが生じやすい

一人の人とうまくいかないという悩みは、仕事内容や仕事時間その他の問題がひとまず落ち着いてきたころに生じやすいものです。ほかはうまくいっているのに「この人だけ問題なのよね」という場合、その一つが強烈に気になるという心の罠(わな)にはまっている可能性があります。

傾向2:良いことより悪いことのほうに注意が向きやすい

心理学者ダニエル・カーネマン博士によると、一つのうまくいかない事や一人の嫌な人が気になるのは理由があります。例えば会議でプレゼンをしているときなど自分に対し批判的な態度を感じる人が一人いると、その一人が気になって仕方なくなるものです。

カーネマン博士はその状況をこんなふうにたとえています。

「例えばゴキブリが100匹いる中にサクランボが1粒あっても目立たない。ところがサクランボ100粒のなかにゴキブリが1匹いたらとても目立つ」

人は良いことより悪いことのほうに注意を向ける傾向をこう表現したのです。

嫌な人がゴキブリということではありません。ただ自分にとって安全なことより危険を感じることに注意を向ける傾向があることをたとえているのです。そしてこの危機管理能力ともいうべき傾向は、人が生き延びるためには必要な感覚であるとも言っています。なぜなら安全なことや安全な人に対しては対策をとらなくても問題は起こりません。ところが自分に対して敵意を向ける人やそのような不安を感じさせる相手に対しては対処しないといけないから気になるというわけです。

良い人や良いことは捨て置いても大丈夫だから注意を払わなくなります。一方でちょっと問題がありそうな人や悪いことには注意が集中します。職場の一人が気になる「全か無か」という思考は悪いわけではなく、「私はいま危機管理能力ゆえに、不安を感じさせる相手が気になって仕方がないのだ」ととらえることが大切でしょう。そして気になる相手に対し何らかの対策をしないといけない、という心のサインだととらえるとよいのです。

対策1:不安を感じることは事実か想像か、を確認する

さてうまくいかない相手やよくないこと、気になることは根拠があるのでしょうか? この確認が次のステップになります。Aさんの場合は特に根拠がなく「なんとなくそう思う」という想像でした。Bさんの態度は自分だけではなく周囲の多くの人に対しても同じだという事実を確認し、だから特に不安を感じることはない、と受け止めることで気持ちが落ち着きました。

対策2:相手のペースに巻き込まれず、自分の態度を貫く

しかしAさんの場合とは異なり、自分に対してだけ不愛想な場合はどうすればいいのでしょう。自分に対して不愛想な態度をとり嫌悪感を表す人もいます。職場でこういう人がいると本当に嫌になってしまうものですが、大事な態度として4点があげられます。

【1】「自分も全員が好きというわけではないから自分を嫌いな人がいてもまあ仕方ないか」ととらえる。

【2】相手の態度がどう失礼でも自分は相手に対しては普通に接するよう心がける。

【3】自分とコミュニケーションがうまくいく人とのかかわりを職場で大事にしておく。

【4】自分を嫌う人の悪口をほかの人に話したりしない。

こうした態度を続けていると、相手の態度はどうあれあなた自身が心のゆとりを保つことができ、相手のペースに巻き込まれて不愉快になることはないはずです。