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ウクライナ報道を見ていてつらい人へ 「共感疲労」を防ぐための対策は

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:アフロ)

連日のニュースで、ロシアのウクライナへの侵攻を見て気持ちが落ち込むという声を聞きます。人のことは関係ない、自分がよければそれでいい、という人は別として、敏感な人や共感性が高い人は、この2週間余り、落ち着かず不安になったり気分が不安定になったりしているのではないでしょうか。

報道を見聞きして疲労困憊

つい先日、ふだんは穏やかなAさんが珍しく怒っていて驚きました。親しくしているヨーロッパ在住の知人が地中海のリゾートに遊びに行っている楽し気な様子をSNSで投稿していたのを見て、ウクライナなど関係ない、自分がよければそれでいい、という様子を許せない気持ちになったそうです。毎日ウクライナの状況を見て自分は何も手助けできない、と無力感を感じているAさんだからこそ許せない気分になったのだと思います。

ウクライナに関する報道で何を考え、どんな行動をするかは個人の自由です。人は関係ない、自分だけ楽しく過ごせればいいという人もいる一方、つらい思いをしている人を見て自分もつらくなる人もいます。共感能力が高い人と言えるでしょう。共感は困難な状況にいる人にとり大きな支援で力になるものです。共感してもらえるとほっとします。しかし共感する側にとりそれがストレスとなり心身をすり減らすこともあるのです。あなたはいかがでしょう。共感で疲れてしまわないように対策を考えます。

共感疲労で無力感

心理学の分野では、相手の立場に立って考えたり、相手が感じているつらさを「共感」したりすることは、共感する人に不安や苦痛、さらに情緒的混乱を起こすことがあると報告されてきました。特に1990年代からは、看護職などの対人援助職を行う人の共感疲労や共感ストレスが研究されています。

相手のつらさを想像して共感することは、対人援助を職業とする看護師や保育士、介護職などを行う人にとり不可欠な資質であり、職業的な訓練としてこうした能力を培うように学習が行われます。しかし、職業的に自分の感情を抑え、相手に合わせて対応することが続くと、過剰な同一化により自分の本来の感情を抑えて相手に共感することで疲労してしまいます。

対人援助の職業訓練を受けていなくても、共感能力が高い方はたくさんいます。テレビのドキュメンタリー番組を見て感動したり、自然災害で悲しんでいる人の報道を見て涙が出たり、ウクライナへの侵攻の報道でいたたまれない思いをするような方です。共感は素晴らしい資質ですし、それが疲労になるだけではなく共感満足ということもあります。例えば、つらい境遇の中で前向きに生きた方が、幸せになったような話をきいて幸せな気持ちになったり、よかったと思うと満足になります。しかし、つらい状況にある人に共感し、しかも自分が何も手助けできない場合に無力感を感じることで共感疲労となります。さらにつらい状況にいる人に共感を全く示さない人に対して怒りを感じるとこれもストレスとなります。

共感ストレスどう乗り切る

では今、ロシアのウクライナへの侵攻を見て、共感がストレスになり、疲労している方はどうすればいいのでしょうか?ここは、看護師などの対人援助職の共感疲労支援のプログラムを参考に考えたいと思います。

1.気持ちを分け合うピアサポート

対人援助職の場合、経験年数が異なる人たちがペアを組んで思いを話し合い共有することが行われます。自分の思いを話すことは自分の心の負担を回復するうえでとても大事なポイントです。カウンセラー同士でも同じように気持ちを話し合うピアサポートが行われたりします。これと同じように、今、ご自分の身近で共感疲労を感じている人と話し合い気持ちを分け合ってはいかがでしょう。

2.感情の伝播

ウクライナに対して何かしたい、でも現地には行けないし一個人ができることがないと無力感を感じている方に、東日本大震災の時に提案した方法をご紹介したいと思います。東日本大震災の時も津波の被害を受けた沿岸部に単独で入り支援を行うことは難しい状況でした。悲惨な状況を報道で見て心を痛め、募金への寄付はできても他には何もできないと無力感を感じていた方に、「近くにいる人を被災者だと思い親切にしてみる」ということを提案したことがあります。道を歩いても買い物をしても、隣にいる人が被災者だと思うと知らず知らず親切に温かい気持ちで接することができるものです。これは自分の心の回復に役立つとともに穏やかな気持ちを相手に伝えることにつながります。

感情は伝播するという多くの研究報告があります。温かい気持ちを受け取った人がまた別の人にその感情を伝えることが拡がれば、閉そく感が漂う雰囲気を変化させる手助けになることもできるでしょう。日本在住のウクライナの方は約1900人と言われています。温かい気持ちで接したりちょっとした親切な行動をとったりすることは相手だけでなく自分の心の幸福感を高めるとされています。隣にいる人がウクライナと何かつながりがある人、と想像して温かい気持ちで接するなど試してみてはどうでしょう。共感をストレスにしてしまわないようにあなたの心を守りつつ優しい気持ちを伝えていただければと思います。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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