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「第3波、入院患者は一変した」コロナ治療最前線の医師が語る現場のいま

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(提供:preart/イメージマート)

新型コロナウイルス感染症が急激に増加し続け、政府や自治体が外出自粛を呼び掛けているにもかかわらず人出は一向に減る気配がありません。政治家による大人数の忘年会や会食が相次いで報じられるなど危機感が低い状態の中で、医療現場は緊張感が継続し抱えきれないほどの負担感を感じています。ただ医療現場の危機感がなぜか十分に政治家や一般の方に伝わっていない状態です。新型コロナウイルス感染症患者の治療の最前線で戦う埼玉医科大学総合医療センター・総合診療内科教授の岡秀昭教授にお話を伺いました。(以下敬称略)

第3波の光景は一変

―岡先生は12月26日のFacebookで第2波と第3波は全然違うと投稿されていましたね。私は12月初めくらいから急激に感染者が増えてきたなと思ったら、その後の増え方はなにかあっという間という感じでした。

岡:第2波の時は、実は自分もコロナは風邪みたいなもので、指定感染症であることがかえって負担かもと感じていた時もありました。元気な若者中心に感染者が増え病院というより収容所のイメージ。極端に言えば、ただ隔離されているだけ。病室で足を組んで寝転んでテレビやスマホを見てる。

うちの患者さんは素行もよかったのでいなかったけれど、よそでは脱走してスーパー銭湯に行ったり、腹が減ってウーバーイーツを呼んだりといったこともあったそうです。そして10日たったら元気に退院していく。そんなイメージでした。それまでうちは死亡ゼロで、万一に重くなってもステロイドを入れると改善する印象だったし、何より集中治療例も少なくて、資源をそこに集中できて救命できていた。

でも第3波の光景は一変しました。入院する患者はみんな病人、みんな肺炎。当初の軽症者も3~4日で呼吸が悪化して重症化していく。そういうイメージに変わりました。人工呼吸器の患者を収容するコロナ専用のICUを開設したらすぐいっぱいに。そして一定数は治療の甲斐なく、亡くなっていく。実は亡くなるのは重症にカウントされていない人で、残念ながら増えてきています。

カウントされない重症者も

―重症としてカウントされていない患者さんが亡くなるケースが増えているということですね。これまで日本人は「ファクターX」があり重症化しないというようなことが言われていましたが。

岡:現場の感覚としては、日本人は大丈夫なのではなく、死亡者が抑えられていたのは、単に重症化しやすい人たちへの感染が比較的抑えられていたからではないか、重症例も適切な集中治療の提供によって救命されていたからではないか。欧米同様に感染が広がれば、同じように死者が増える。特に集中治療キャパシティをオーバーすれば救える人も救えなくなる。そう肌で感じざるをえません。

―入院する時点でかなり症状が重いのでしょうか?

岡:第2波の頃と違って、軽症者や重症化リスクのない患者は自宅静養やホテル療養が進んでいるのでしょう。入院患者、入院要請患者はほとんどが50歳以上や何らかの持病がある患者で、軽い人は滅多にいないです。最初は軽症でも、次第に呼吸不全が進行して、「来院時は中等症でも現在は重症」という患者が複数います。最近の入院する患者は、ほとんど全て酸素吸入が必要になってくる印象です。

その中には、医師の丁寧な病状説明を繰り返し聞いた上で、自身や家族の意思で延命治療を受けず、看取りのため人工呼吸器をつけずに鎮静鎮痛薬を入れて最後の時間を待っている人もいる。この患者は恐らく、行政から報告される「重症」にはカウントされていないのです。

対応1年、心身の疲労蓄積

―それは対応する医療関係者も緊張感の連続ですね。先生も2週間休みがなくクリスマスは当直だったと伺いました。教授が当直というのは非常事態だと思います。医師や看護師さんたちの疲労度はどのような状態なのでしょうか。体調を崩す方などはいらっしゃいませんか? 過剰適応しながらの勤務だと思いますから非常に心配ですが。これから年末年始はどのような勤務になる予想ですか?

研修医とクリスマス当直する岡教授(右)(提供:岡教授)
研修医とクリスマス当直する岡教授(右)(提供:岡教授)

岡:軽症や中等症の患者でも、認知症を持つ高齢者や、基礎疾患のある患者が多いため、看護師のケアに負担がかかります。また、1週間くらいの経過で悪化してくる患者も多いので気が抜けません。人工呼吸器を要する重症患者に関しては当然に医師も看護師も多数の人手がかかります。もう1年近くこの病気と対峙しているため、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積しています。

幸いに私どものスタッフで院内感染を起こした事例は今のところありませんが、

無症状者からでも伝染しうる感染症であり、いつか院内感染が起きてしまうかもしれないという不安で常にいっぱいですね。

年末年始は、例年よりスタッフを増員し、発熱患者の対応、県からのコロナ患者の受け入れに備えています。私は元日を除き出勤予定です。休みの日もいろいろな相談の電話が来るため、最近は1日じっくりと休んだ日はしばらくないですね。

上に立つ人がやって見せねば

―本当にお疲れさまです。そのような状態で医療関係者が勤務を続ける一方で政治家が会食や忘年会を繰り返しています。こうした行動が国民に対し非言語的メッセージとして「コロナは風邪と同じで大したことはない」という無意識のメッセージを送っているように見えます。このことに対してどのようにお思いですか。

岡:私はコロナ病棟の診療にあたり、まず自分がPPE(個人防護具)を着て診察に入りました。ICUが開設されて、集中治療医ではない私たちが当直をする必要がありましたが、まずは私自らが当直をクリスマスイブにすることで理解を得ようと考えました。

まずは上に立つ人がやって見せなければ、人の心は動かないのではないかと思います。政治家の先生にも、国の一大事と考えるならば、率先してご協力いただけると嬉しいですね。とはいえ、私も第3波の前までは、家族と外食することもありましたが、この年末はおそらく家と職場の往復です。

―マスク着用と手洗いが推奨されていますが、何のためにマスクを着けるか目的がわからずただ形だけ着けている人が多いです。食べる時にマスクを外し、外したまましゃべる、そして帰る時マスクを着ける。つまり話をするというリスクがあるときにマスクを着けていないわけで、何のためになぜマスクかという知識が不十分で、それは政府などの予防対策の伝え方の方法に問題があるように思えます。

岡:そうですね。ただマスクをする。ただ検査を受ける。そうではなく、そこに科学的な根拠を理解して、実践してほしいと思います。アリバイ作りや儀式のようなものではなく、もう少し感情ではなく、科学が重視される必要があると思います。

コロナに注力か、重大な局面

―先生のセンターでは本来、白血病の治療を行っていると伺っています。そうした従来行っている医療は今どのような状態でしょうか?

岡:幸いに私たち感染症科の医師が多いため、専門診療は今のところ滞っていません。しかしこれ以上にコロナ診療にシフトするならば、私たちでは持ち堪えられません。他の診療を止めていただいても、コロナ医療に注力するのか、それともコロナ医療をここまでと決めて、専門医療を守るのか、大きな局面を迎えていると思います。どちらを選ぶにしても、専門医療かコロナ医療かのどちらかを崩していかないと立ち行けません。医療を支えるマンパワーは同じなのですから。

―先生は積極的にメディアで発信をなさっていますが、こうした発信について多くのバッシングがあると伺っています。そんな時間があったら治療しろという意見もあるようですが、現場の実情をきちんと発信してくださる方がいないと危機感が伝わりません。大変な状況を理解してくれる人が多ければ勤務は乗り切れますが、逆にバッシングでストレスになりませんか?

岡:私は現場での診療を続けています。メディアへの発信は原則として時間外に、また大学広報部の依頼があるものに限り対応させていただいています。確かにいくつかの厳しいお言葉も見聞きしましたが、応援してくださる声の方が圧倒的に多く聞こえています。大変にありがたいです。現場の医療を守る。ひいては地域の医療を守る。そのために引き続き頑張っていきたいと考えております。

岡秀昭:埼玉医科大学教授・総合診療内科診療部長

略歴:横浜市立大学大学院2009年卒 医学博士 神戸大学病院感染症内科を経て、関東労災病院や東京高輪病院などで 感染症診療部門を歴任。2017年より埼玉医大総合医療センター 総合診療内科・感染症科の立ち上げに診療部長(准教授)として赴任。 2020年7月より現職。日本感染症学会専門医、指導医、評議員 日本呼吸器学会専門医 日本内科学会総合内科専門医。さらに近年は感染症診療には総合内科能力が前提であるという信念のもと 総合診療内科・感染症科を運営し、学生、研修医、フェロー教育を行っている。 主な著書に感染症プラチナマニュアルがあり、多くの臨床医がポケットに入れる医学書ベストセラーとなっている。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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