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「コロナ観」の違いで断絶の危機も 関係の変化にどう対応?

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:maruco/イメージマート)

新型コロナ感染拡大が始まってから半年以上が経過しました。今、それぞれの環境や「コロナ観(コロナ禍における行動や価値観)」の違いから、これまで気がつかなかった新たな一面が露呈し、友人や仲間との断絶の危機を迎えているという若い世代の声を聞くことがあり、専門家として気にかけています。そうしたストレスや関係の変化にどう対応すればいいのか? 具体的な例をあげながら、解決策を考えてみたいと思います。キーワードは断捨離とアサーティブコミュニケーションです。

働き方の違いからくる意識の差―怒りストレス

まずは、コロナ禍で大きく変わった働き方。その働き方の違いから人間関係に亀裂が生じているケースがあるようです。

写真:アフロ
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私には同じアイドルグループのファンという共通の趣味をもつ高校時代の友人がいて、一緒にライブに出掛ける仲でした。自粛期間中は、SNSで連絡を取り合ったり、オンラインで飲み会をしたりしていましたが、緊急事態宣言が解除されて以降、連絡を取るのがつらくなってしまいました。

私は勤務先から飲み会を控えるよう通達が出ており、所属部署ではプライベートも把握され、自由に行動出来ない状況です。そんな中、「再開されたライブに行こう」「Go Toキャンペーンで温泉に行こう」などと連絡してくる友人の配慮のなさが許せません。また、リモート勤務の友人がうらやましくもあり、話を聞いているだけでつらくなるので、もう連絡するのはやめようかと思っています。

付き合っている相手のコロナ観―失望ストレス

次はコロナに対する考え方が、恋愛関係に及ぼす影響を見ていきたいと思います。

写真:アフロ
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私は大学3年生で、同じ部活で同期の彼氏がいます。私は実家暮らしで、地方出身の彼氏は一人暮らしをしています。私の母は教師なので、新型コロナの感染には神経をとがらせています。私も自分の良識で行動するようにと言われているので、自分自身の行動については慎重に努めています。

先日、彼氏からたまには外食しようと誘われました。自粛で会えない期間も長く、そろそろ二人で外食してもいいかと思い、行先は彼氏に任せました。当日、レストランに着くと、席同士の距離は確保されておらず、密な空間で、マスクをしないで話をしている人もいて愕然としました。彼氏はこの状況を特に問題だと思っていない様子で、そのことにも衝撃を覚えました。

せっかく予約しているから仕方ないと思い、早く帰ろうと考えながら食事をしました。もちろん楽しくないし、母にも悪い、という思いがよぎりました。結婚も視野に入れていた彼氏だっただけに、センスのなさに失望し、今はもうこの人とは付き合えないという気持ちです。

コロナで広がる、若者の「格差」

ここまで見てきたような、特に若い世代の人間関係の断絶に関する相談は、診療の場で緊急事態宣言解除後に多くなっています。その背景として挙げられるのは主に2点です。

一つは環境の格差、そしてもう一つはコロナ観・知識の格差で、こうした格差感から、これまでの人間関係を継続できない状況に追い込まれ、悩んでいることが多いと思われます。

環境の格差としては、

・勤務状況の違い:リモート勤務・出社・エッセンシャルワーカ―(社会で必要不可欠な労働者)か否か

・勤務先の意識:会食禁止などの制限の有無

・家族構成:家族と同居・一人暮らし・既婚・未婚

・家族状況:高齢者や病気の家族の有無

・経済状況:コロナで受けた打撃の差

・住んでいる地域:感染拡大が深刻な地域か否か

コロナ観・知識の格差として、

・医学的知識:感染対策に対する知識や意識の差

緊急事態宣言中はみな共通したコロナ観があり、外出も買い物も不自由ながら機会は平等でした。しかし解除後、さらにGo To キャンペーンが始まってから、環境格差はますます大きくなっています。つまり、外食や旅行を自由にしている人がいる一方、感染リスクを避けることを余儀なくされる職場で働く人がいるなど、環境の差が人間関係の破たんにつながる背景になっています。

そして、このことは特に若い世代に特徴的と言えます。年齢が上がると、それぞれの家族や仕事に与える影響を自分なりに把握し、感染リスクを考えたうえで自分の行動を決定できる人が多くなるのに対し、若い世代では、まだそうしたゆとりが十分ではなく、自分の職業に対する意識・アイデンティティーや家族への責任感などが育っていない為、他人の環境をうらやましく思ったり、自分は楽しんでいない、と感じ人間関係を破たんさせてしまったりすることがあります。

不自由でも皆が同じような環境で、機会の平等が保たれていた状況から一変したことが若い世代の人間関係の変化に影響していると思われます。

若い世代のコロナ断絶、どう防ぐ

では、このコロナによる人間関係の断絶を避けるためには、どのような方策が考えられるでしょうか? 具体的には下に記すような手段が考えられます。

自分の立場を相手に伝える

仕事の状況・家族の状況など環境は、人によって異なります。それまでは相手に伝えなくても特に支障がなかったことが、コロナ禍の中では必要不可欠です。仕事で高齢者とかかわりがある・教職や医療関係の仕事などのように複数の人とかかわる仕事をしている、家族に感染して重症化リスクが高くなる人がいる……といったことを相手に伝えておくことが大事です。これからも関係を継続したいと思う相手には自分の環境を伝え、同時に相手の環境や考え方も聞いておく必要があります。

アサーティブな関係作りを視野に入れる

アサーティブとは自分もOK、相手もOKという状況を作るコミュニケーションです。耳慣れない言葉かもしれませんが、相手の意向を一方的に受け入れることでも自分の意見を押し付けて従わせるのでもなくお互いの意見を話し合いながら納得のいく着地点を見つけていくというもので、アメリカでは1980年代頃から注目されているコミュニケーションです。簡単に言うと、お互いの気持ちや意見を忖度なく話し合い両者が納得できる接点を探すと考えてください。

コロナに関しては、自分のコロナ観を明確にして、外出や会食などの方針を伝え相手のコロナ観も聞いて双方に納得できる状態を作るのがベストでしょう。相手のコロナ観を聞いてすぐに「あ、この人はダメ。この人とは接点がない」と決めつけずに、話し合いながら接点を見つけるプロセスを踏んでみることも大事です。どんな店にいつ行くか、店はどのように選ぶかなどこれまでよりさらにお互いの気持ちを明確にして、妥協や譲歩や諦めではなく、双方に納得できる状態を作る話し合いをしてはいかがでしょう。以前よりもっと相手のことを知りお互いを尊重できる関係を築くことが出来るはずです。それだけ話し合っても全く接点がない場合初めて「ダメ」とすればいいのですから。

人間関係の断捨離も必要

マスクを着用するか否かは、周囲への感染リスクを軽減する相手への配慮です。手洗いをする、食事以外の時は会話の際マスクをする、混んだ店には行かない、誘わない、など基本的なコロナ感染リスクを守れない人とは今後付き合えない、と思う場合は人間関係を断ち切ることも悪いことではありません。周囲への配慮が出来ない人との関係を無理して続けなければ、と思い込み、ストレスを感じる必要はないのです。

まとめ

写真:アフロ
写真:アフロ

新型コロナウイルス感染拡大は私たちの生活環境を大きく変えました。その中でこれまで知らなかった、あるいは気がつかなかった相手の考え方や医療情報の基礎的知識の程度、生活環境などがわかり、驚く場合もあると思います。

ただ、それは必ずしも悪いことではないはずです。残念な人間関係を終わらせることがある一方、新しくいい人間関係を築ける可能性があることを念頭に置いて、コロナ禍を乗り切ってほしいものです。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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