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季節性うつに注意 「コロナの冬」に備え知っておきたい対応策

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:アフロ)

この数日、急に気温が下がり不安定な天気が続いています。産業医として働く皆さんと面談していると最近、「やる気が出ない」「疲労感が強い」という訴えを聞くことが増えました。仕事が増えたわけではないのに疲れがたまって眠いという声が目立ちます。

次第に日が短くなる中、激しい寒暖差や台風による気圧の変化などの影響も加わって、自律神経の調整がうまくいかずに体調不良をきたし、気分が不安定になりやすいと言えます。特にこれからの時期に気をつけてほしいのは、季節性のうつと呼ばれている症状です。

眠気、疲労感、甘物の過食……

企業の総務部で働くAさん(30代)は最近、朝の目覚めが悪くやる気が出ないことで悩んでいます。社員の健康診断の調整にあたる時期なのですが、てきぱきと進められず仕事がはかどらない状態です。気分はすっきりせず、何となくゆううつ感があるそうです。以前は仕事の後にヒップホップダンスを踊りストレス解消していたのですが、コロナ禍の影響でそれができず、運動不足が続いています。加えて仕事帰りについチョコレートやスナック菓子を買って食べるので、体重が増えていることも気になるそうです。

日照時間が短くなる季節に多いこうした症状は「季節性情動障害」の可能性があります。いわゆる「冬季うつ」で、日照時間が短くなると症状が発現しますがその原因ははっきりとはしていません。ただ「幸せホルモン」と呼ばれる神経伝達物質セロトニンが減少することや、体内時計をつかさどるメラトニンの分泌状態が変化することが影響するのではないかといわれています。通常のうつは朝早く目が覚めたりする睡眠障害が起こりやすいのですが、冬季うつの場合は逆に抑うつ感やだるさ、過眠、甘い物や炭水化物の過食といった症状が見られ、男性より女性のほうが罹患率が高いとされています。Aさんもその症状から季節性のうつの可能性が高いと言えます。

心がけたい4つの習慣

こうした症状が出た場合は、次のことを心がけてください。

1.朝、日に当たる時間を作る

朝、日に当たることで睡眠を誘導するホルモンであるメラトニンが脳内で分泌されます。このホルモン分泌により14~16時間後に自然に眠くなるのです。生活リズムをキープすることはうつ予防に大事なことです。曇りや雨の日で陽が照らない日は、なるべく窓辺で長く過ごすように心掛けたりカーテンを開けておくなど工夫をしてください。

2.昼休みに晴れ間を活用

日に当たる時間が短いと、脳内のセロトニン分泌が減少し、うつの要因になるとされています。昼間の晴れた時間を見つけて屋外を歩くなど、昼休みを活用してください。

3.朝食をきちんととる

朝食はきちんととってください。ヨーグルト、ミルク、納豆、チーズ、卵などたんぱく質を中心に果物を組み合わせてとっておくと、昼前に低血糖によるだるさや集中力低下を防ぐことができます。

4.軽い運動やストレッチの習慣を作る

デスクワークが続いたりリモートが増えたりして体を動かす時間が少ないことも気分を停滞させ、疲労感を生む要因です。時間を決めて定期的に身体を伸ばす、仕事が終ったら散歩する、など運動を日常のスケジュールに組み込み習慣化することも必要です。

リフレームをしてみよう

コロナ禍の冬は、私たちがこれまで経験したことのない冬と言えます。新型コロナウイルスやインフルエンザの感染が心配で家に閉じこもりがちになったり、リモート勤務が続き歩く機会が減るなどして運動不足になると、冬季うつのリスクが高まります。こうした場合は「リフレーム」という方法で思考回路を変換し、考え方を柔軟にすることが大事です。

例えば、これまで通っていたスポーツジムやダンスレッスンに行けないとき「行けないから運動しない」ではなく、「運動できる別の方法はないか」を考えます。するとYouTube動画に合わせて身体を動かしてみることも可能でしょう。もちろんジムやレッスンと同じようにはいきませんが、「全か無か」ではなく、できることを少しでも試してみることで、身体を動かす機会は増え、柔軟に対応して目的を果たした自分に対し肯定感が生まれます。

同様に、友達と直接会えなくても、オンラインを活用したりすれば交流することはできます。対面とオンラインでは同じようにはいきませんが、別の方法や手段がないかさまざま模索してみることで、これまで気がつかなかった発見もできるかもしれません。

ウイズコロナ生活で冬季うつを防ぐキーワードは、日光、朝食、軽い運動、リフレームと言えるでしょう。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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