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外出自粛要請が出たのになぜ? 新型コロナ感染拡大で気になる3つの心理

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
小池都知事 緊急会見(写真:つのだよしお/アフロ)

東京都などで週末の外出自粛要請が出されましたが、それに絡み気になる3つの心理があります。新型コロナ感染拡大をストップさせるには心理的な対策も必要ではないでしょうか? 気になる心理的について考えてみたいと思います。

1. 自粛要請が出た夜になぜ?―楽観バイアスの背景にある若者の不安

「自分の周りにコロナ感染者はいない」「自分はかからない」という根拠のない理由で行動の自粛をしない人がかなり多くみられました。小池知事による東京都の週末自粛要請が出た3月26日夜、高田馬場駅周辺で多くの若者が集まり歌ったり飲酒したりして、深夜には泥酔者が路上に倒れるなどの騒ぎがあり、渋谷でも多くの若者が深夜まで過ごす姿がみられたといいます。

自分は症状がないから大丈夫という思い込みは楽観バイアスであることは確かですが、自粛要請が出たこの時点でなぜ、と疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。またこの行動を無自覚と批判する方も多いでしょう。しかしこうした行動が要請の出たその夜に行われたということに注目したいと思います。

楽観バイアスの背景に存在するのは「不安」だと思われます。不安を抑圧し現実を直視せず心を守るために楽観バイアスがとられているのだと思われます。若者たちが就職や今後の生活に不安を感じていることは疑いがありません。先が見えない中で自分の将来に感じる不安を紛らわす手段として、現実逃避し深夜の外出や仲間との連帯が行われている可能性が高いのです。また若者の中には不安な現在の状況に対しての行政に対する不満や閉塞感があり、自粛の呼びかけに反発してしまう傾向もあるのではないかと思います。

若者の行動自粛を呼びかける場合、単に自粛という呼びかけにとどまらず、その背後にある将来に対する不安を理解してそれを軽減する具体的な対策、政策を行政が示す必要があるでしょう。

若い世代には、自分たちが知らず知らずに感染を拡げてしまうと感染拡大の収束が遅れ、結局は自分たちの将来がさらに不透明になることを知ってほしいと思います。この週末土曜は都心の大型店や映画館が営業をしていない影響か人出は減少しているようです。ただ週明けに営業が開始した時点でどうなるかが懸念されます。

2. シニア世代の蛮勇心理―危険を顧みず「愛社精神」にこだわり

シニア世代の一部には「自分は熱がなければ会食もするし外出もする」といって出掛ける人がいます。危険があってもあえて危ないところに出掛ける行動を良しとする傾向です。

こうした人が企業の決定権を持つ立場にいると、在宅ワークに否定的な傾向があります。家にいることイコールさぼるという意識があり、コロナ感染の危険があるときに危険を顧みず出社することを愛社精神と考えてコロナ対策の働き方がなかなか進まないことになります。

私も現実に産業医をしていてこうした蛮勇心理が強い幹部に困惑することがあります。テレワークを提案してもなかなか受け入れてくれなかったり、新入社員研修の季節ですが多数の新入社員を一同に集めて研修を行う計画を変更してもらうことに苦労することがあるのです。

こうした上司がいると部下は在宅ワークを申請したくても遠慮してできないままリスクを押して出社することになり、こうしたことで感染拡大のリスクが大きくなります。シニア世代でこうした意識を持つ方の意識改革が必要です。

3. 危機意識を伝えるには危機意識をもつこと―首脳の説得力欠如

小池都知事から「感染爆発の重大局面」という発表があり、その後政府が対策本部を設置しました。対策本部設置の記者会見では政府要人と記者、カメラマンが多数集まっていましたが、近距離で座りマスクをしている閣僚は映像で見る限り河野防衛相ただ一人でした。海外の記者発表などは閣僚がマスク姿で臨んでいましたから、危機感に大きな差があることを感じました。対策本部を設置したという危機感はこの映像からは伝わってきません。

近距離で会話というコロナウイルス感染リスクが高いはずの条件の中での政府の閣僚がこうした状態なら「まあ、大したことはないのか」という印象になるのは否めません。危機感を伝えるには危機感を閣僚自らが感じていないと伝わらないものです。もっとも、あえてこうした「自分たちはコロナにかからない、コロナを恐れていない」というようにふるまうことも一種の蛮勇といえるかもしれません。

2020年度予算が成立した27日、自民党と公明党の党首がにこやかに握手し多くの議員がその周りを取り囲んでいる報道がありましたが、ここでも「近距離」「マスク無し」「握手」というコロナ感染拡大で危機状態にある国の出来事とは思えないのどかさでした。危機意識を伝えるには自ら危機意識を持たないと説得力がありません。要職にある人の家族が、少なくない人数で会食して桜の前で写真を撮る写真を見たら「このくらいはしても問題がない」と思う人は多いでしょう。若者や国民に危機意識を伝えるモデル行動をとるのが大人や指導的役職にある人の仕事であることを認識しないと説得力がありません。

新型コロナ感染拡大を食い止めるには日本の持つ文化的な背景と心理の特徴に気がつく必要があります。楽観バイアスと蛮勇でこれ以上経過すると取り返しがつかないことになるかもしれません。きちんと恐れて必要な対策をとる、正確な知識を普及することが望まれます。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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