京アニ事件 報道を見るとつらい、苦しい人の心のケア

献花(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

京都アニメーションの事件後1週間余りが経過する中で気がかりなことがある。それはSNSの投稿で、この事件の報道を見るとつらくなるので見ないようにしている、苦しくてとても見ていられない、というものだ。事件の報道を見てから焼き肉が食べられなくなってしまったという20代の女性もいた。調理しようとすると火災現場を想像してしまう、ということであった。

報道を見てストレス障害か

気になるのは、実際に事件に遭遇していなくても報道で見た人たちが急性ストレス障害(ASD)を起こしているのではないかということだ。

ASDは、命にかかわるような出来事に遭遇したり、あるいはそれを目撃するだけでなく、報道でその出来事を見た場合にも起こることがある。出来事から4週間以内に起こるとされていて、症状はさまざまだ。

夢を見る、眠りが浅い、フラッシュバックが起こる、ゆううつな気分になる、突然怒りがこみ上げる、ぼーっとする、あるいは逆に興奮状態になる、びくびくする、不安感に襲われる、集中力が低下する、といった症状が現れる。

1か月以上続く場合は

ASDは予後は良好で1か月以内に回復するのだが、中には1か月以上続いて心的外傷後ストレス障害(PTSD)に移行することがある。

かつて9・11のニューヨークの世界貿易センターテロ事件の後の調査で、3万3千900名のPTSD患者のうち1万人以上が、直接の被害者や家族ではなくメディアを見たことで精神的打撃を受けた人だったという報告がある。(Taylor .C, Viswanath .Kら)

今回の事件の報道をとても見ていられない、とするのはアニメファンの比較的若い世代が多いと見られるが、そうした人たちが受けた影響が気になるのである。

安心できる環境が回復への道

ASDは誰でも起こす可能性があり、自然に回復することが多いのだが、回復に役立つのは環境の調整と親しい人や信頼できる人とのネットワークである。

まずは心の外傷の要因となった状況を避けることが必要だ。「見ていられなくてテレビを切る」という人たちは、自己治癒の手段としてそうしているような気がする。ただ睡眠障害や不安が気になるときは我慢せずに医療機関で相談してほしい。

自然環境の豊かな場所でひと時を過すことも回復に役立つ。そうした場所に行けない方は、気持ちがリラックスできる音楽などを聴いて交感神経の緊張状態を緩めることを心がけてほしいと思う。仲の良い友達と一緒に過すのも回復の助けになる。

取材される人たちの心のケア

さてもう一つ気になるのはメディアの持つこうした潜在的な力と関連して、関係者に報道の暴力性についても改めて認識してほしいと思う。

真実を伝えるのが報道だという点に異論はない。ただ毎回事件が起きるたび被害者や被害者の家族、親しい方に向けるマイクがどのような影響を与えるかについて配慮しつつ取材をしていただきたい。

事件直後はまだ当事者はことを受け入れられず現実感のないままに取材に応じている可能性がある。また今回、取材を受けてインタビューに応じている方が、涙をのみこみ感情をおさえながらお話しなさっているのが気になった。

語りたいときに語れるように

一時期、事件直後に気持ちを語るのがよいとした報告があったが、最近ではこうした方法は逆に心の回復を悪化させるという報告がある。当事者が自らの意思で語りたいときに語る場を提供することが本来であり、当事者が混乱し心の整理がつかない状況の中でマイクを向ける行為は時には精神的な「暴力」になる。事件が報道されることで支援が広がることは事実だろう。それゆえにメディアには、報道を見る人たちや取材を受ける人たちの心を想像し、共感と支援につながるように報道する姿勢を望みたいと思う。

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。2013年より日本医科大学医学教育センター特任教授。2018年昭和女子大学特命教授。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを近年再開。

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