東北地方をまたしても大地震が襲った。2022(令和4)年3月16日23時36分に福島県沖を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生し、宮城県登米市・同蔵王町、福島県国見町・同相馬市・同南相馬市で震度6強の揺れを、宮城・福島両県の広い範囲で震度6弱の揺れをそれぞれ観測したのである。2021(令和3)年2月13日23時07分に発生した福島県沖を震源とする地震と今回の地震とを比べると、震源、地震の規模や揺れ、発生した季節や時間帯まで似通っていて空恐ろしい。

 今回の地震で東北新幹線では福島県福島市の福島駅と宮城県白石(しろいし)市の白石蔵王駅との間を走行中であった「やまびこ223号」が脱線した(タイトル写真参照)。幸いなことに乗客、乗務員合わせて78人にけがをした人はいなかったという。現地からの映像・画像や筆者手持ちの資料から脱線のあらましを速報したい。

どこで脱線したのか

 最も気になる点の一つは「やまびこ223号」が脱線して停止した場所であろう。報道各社は白石蔵王駅から約2km福島駅寄りの場所と報じている。日テレNEWS『【ヘリ映像】脱線した東北新幹線「やまびこ223号」上空からの様子』を見ると、同列車は在来線の東北線と斜めに交差する場所から画面左の位置に停車していた。この映像を手がかりに地図で探すと、宮城県白石市大平中目(おおだいらなかのめ)付近と思われる。

 同列車が停止した場所の線路のつくりは高架橋で、日テレNEWSの映像を見ると心なしか画面左側が高く、画面右側が低い。実際に13パーミルといって水平に1000m進むごとに13mの高低差が生じる勾配で、列車は下り坂の途中で止まったのである。

どんな車両が使われていたのか

 「やまびこ223号」は17両編成で運転されていた。仙台駅方の7両は「こまち」にも用いられるJR東日本のE6系新幹線電車、そして東京駅寄りの10両は「はやぶさ」にも用いられるJR北海道のH5系新幹線電車だ。E6系7両の長さは148.65m、H5系10両の長さは253mで合わせると17両分の長さは401.65mとなる。

 E6系、H5系とも時速320kmで走行可能だ。ただし、「やまびこ」で運転される場合は時速275kmに抑えられる。

 今回の地震では「やまびこ223号」の17両中16両が脱線したという。脱線を免れた車両はE6系の13号車で仙台駅方から5両目に連結されていた。ただし、地震発生から停止までの間に一度も脱線しなかったかどうかはわからない。左右の車輪のどちらかがレールから外れ、再びレールに戻った可能性もあるからだ。今後の調査を待ちたい。 

「やまびこ223号」の行程は

 重要な点として「やまびこ223号」の行程を示しておこう。同列車は始発駅の東京駅を21時44分に出発し、終着駅の仙台駅に23時46分着の列車で、途中上野、大宮、宇都宮、新白河、郡山、福島、白石蔵王の各駅に停車する。

 なお、「やまびこ223号」は定刻では福島駅を23時21分に出発して白石蔵王駅には23時31分に到着することになっていた。ところが、地震の発生時刻は23時36分である。今回の地震の直前にも大きな揺れを伴う地震があって非常ブレーキを作動させていたとも言われるが、気象庁の地震情報一覧には3月17日23時36分の直前に起きた地震の記録は存在しない。しかし、同庁の震度データベース検索で探すと23時34分に福島県沖を震源とするマグニチュード6.1、最大震度5弱の地震が発生している。いずれにせよ、23時31分着を阻害する地震ではないので、同列車は別の事情で定刻よりも遅れて運転されていたのであろうか。拙記事掲載後にJR東日本より返答があり、「やまびこ223号」に接続する在来線の列車が遅れた関係で、同列車は地震が発生した当時約4分遅れて運転されていたとのことだ。

大地震で新幹線の列車を止める仕組みは

 東北新幹線を含むフル規格の新幹線の場合、おおむね震度4以上の揺れに伴う第1波のP波を検知すると、沿線に設置された鉄道会社の変電所が1秒程度で架線への送電を止める。そして、走行中の列車が停電を検知すると3秒以内に非常ブレーキを自動的に作動させ、停止させる仕組みが導入された。

 脱線当時、「やまびこ223号」の走行に必要な電力を架線に供給していたJR東日本新福島変電所が即座に送電を中止していた点は間違いない。非常ブレーキを作動させていた同列車の車内の映像を見ると、車内の照明が消えて非常灯が点灯していたからだ。しかしながら、現時点で判明している事実は以上だけである。同列車が大地震の揺れに遭遇した地点や時間、そのときの速度、また脱線が非常ブレーキを作動させる前に起きたのか、それとも後に起きたのかは今後の調査を待たなくてはならない。

新潟県中越地震で脱線した「とき325号」の記録をひもとく

 今回の「やまびこ223号」のように新幹線の営業列車が脱線した例は過去に一度だけ存在する。やはり大地震の揺れによるもので、2004(平成16)年10月23日17時56分に発生した新潟県中越地震(マグニチュード6.8、最大震度7)で上越新幹線の「とき325号」が脱線したのだ。同列車がどのようにして脱線し、その後どのような対策が採られたかはJR東日本が2008(平成20)年1月に公表した『上越新幹線脱線調査報告書』に記されている。以下、今回の脱線事故に参考となる個所を同書から参照させていただこう。

 脱線したのは上野駅発、新潟駅行き上越新幹線の「とき325号」だ。同列車は浦佐駅から長岡駅へと向かって時速204kmで走行していたところ、2004(平成16)年10月23日17時56分に発生した新潟県中越地震(マグニチュード6.8、最大震度7)によって10両中8両が脱線したのである。

 「とき325号」は始発駅の東京駅16時20分発、終着駅の新潟駅18時19分着の列車であった。同列車は越後湯沢駅を17時36分に出発して途中の浦佐駅を通過した後、17時58分着の長岡駅を目指して時速204kmで走行していたところ、新潟県中越地震に遭遇する。同列車は非常ブレーキを作動させたものの、停止したときには10両中8両が脱線した。しかも、最後尾の1両は進行方向右側に大きく傾き、2本の線路の中間に設けられた水路に落下してしまう。

 脱線事故が起きた区間の架線に電力を供給していたJR東日本の新川口変電所は17時56分02秒0に地震のP波を検知し、1.2秒後の17時56分03秒2に送電を打ち切った。一方で「とき325号」が非常ブレーキを作動させたのはその1.5秒後の17時56分04秒7である。同列車が停止したのはこの時点から53.7秒後の17時56分58秒4で、さらに1.677km進んだ。

 最初に脱線が起きたのは非常ブレーキが作動してから1.3秒後の17時56分06秒ごろと見られる。つまり、同列車は脱線して車輪がレールでない場所を走行しながら停止したのだと言えるであろう。

「とき325号」はどのようにして脱線したのか

 具体的な脱線のメカニズムは次のとおりだ。大地震による上下左右の振動で線路も同様に動き、車輪は何とか追随しようとする。脱線の直接の要因となるのは左右方向への大きな揺れだ。地震の揺れに伴って線路が左に動いたとき、その反対側の右側の車輪はレールから離れて浮き上がる。「とき325号」の車輪は最大でレール上面から約4.2cm上昇したという。その後、線路が右に動くと浮き上がった右の車輪はレールに戻ろうとするが、車輪のつばとなるフランジがレールの上に載ってしまって戻りきれずに脱線したのである。

 大地震によって線路が左右に揺れた周期は解析の結果、1秒に約1回、つまり1Hz程度と推測された。周期が短ければ短いほど車輪はレールから飛び出しやすくなるが、かといって長くても危ない。0.5Hz以下では車両は転覆してしまうという。

前回の脱線事故を受けて採られた対策

 新幹線の歴史上初めて営業列車が脱線するという事態を重く見たJR東日本は脱線事故防止対策を施す。まず、変電所が送電を停止してから列車の非常ブレーキが作動するまでの時間を従来の約4秒から1秒ほど早めた。対策は車両側で採られ、停電の検知や非常ブレーキの作動を信号保安装置のATC(自動列車制御装置)から新たに搭載された停電検知装置が担って実現している。

 残念ながら脱線を防ぐことは困難だ。しかし、脱線した車両を何とか安全な状態に保持することは可能といくつかの対策が導入された。車両側では車輪のすぐ外側に逆L字型の逸脱防止ガイドを取り付け、脱線してもこの装置がレールに引っかかることで線路から車両が大きく逸れていくのを防ぐ。

JR東日本E5系の台車に取り付けられた逸脱防止ガイド。JR東日本の社員立ち会いのもと、新幹線総合車両センターで2010年12月27日に筆者撮影
JR東日本E5系の台車に取り付けられた逸脱防止ガイド。JR東日本の社員立ち会いのもと、新幹線総合車両センターで2010年12月27日に筆者撮影

 今回の「やまびこ223号」では車両が水路に落下するなどの事態は起きていない。逸脱防止ガイドの効果が発揮されたと考えられる。

 線路側の対策としては、脱線した車両の車輪がレールに衝突してもレールが折れたり、動いたりしないようにするレール転倒防止装置が取り付けられた。この装置はレールとコンクリート盤との間に取り付ける補強だと言ってよい。

コンクリート盤にレール転倒防止装置を置いたところ。鉄道・運輸機構の職員立ち会いのもと、建設中の東北新幹線新青森駅にて2008年11月17日に筆者撮影
コンクリート盤にレール転倒防止装置を置いたところ。鉄道・運輸機構の職員立ち会いのもと、建設中の東北新幹線新青森駅にて2008年11月17日に筆者撮影

 レールどうしを電気的に絶縁するための継目は従来締め付け用のナットが露出していたため、脱線した「とき325号」の車輪が衝突して継目を壊してしまう。この結果、つながれていたレールが外れて脱線の規模を増したとの反省から、継目は車輪がスムーズに通り抜けていくように滑らかな形状となり、ナットは継目板の内部に隠された。

滑らかな形状となった絶縁継目。鉄道・運輸機構の職員立ち会いのもと、建設中の東北新幹線新青森駅にて2008年11月17日に筆者撮影
滑らかな形状となった絶縁継目。鉄道・運輸機構の職員立ち会いのもと、建設中の東北新幹線新青森駅にて2008年11月17日に筆者撮影

 「やまびこ223号」は脱線したものの、いま挙げた対策が功を奏し、車両が線路から大きく逸脱したり、転覆するといった事態に陥らなかったと思われる。不幸中の幸いであると同時に、今回の脱線事故から今後もさらなる改良点が浮き彫りとなるはずだ。