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復旧作業続く東北新幹線 福島沖地震で起きた破損と漏水被害とは

梅原淳鉄道ジャーナリスト
「2021年2月13日福島県沖地震における被災状況」(JR東日本公式サイトより)

地震から1週間、那須塩原~一ノ関間の不通続く

 2021(令和3)年2月13日23時07分に発生した福島県沖を震源とする地震(以下福島県沖地震)は宮城県蔵王町、福島県相馬市・国見町・新地町で震度6強を、宮城・福島の両県の広範囲にわたって震度6弱をそれぞれ観測する大地震であった。両県を通るJR東日本の東北新幹線も被害を受け、地震直後から群馬県の那須塩原駅と岩手県の盛岡駅との間が運転見合わせとなる。

 岩手県の一ノ関駅と盛岡駅との間は2月16日の始発から運転を再開したものの、那須塩原駅と一ノ関駅との間は不通が続く。JR東日本は19日、仙台駅と一ノ関駅との間は22日始発から、そして残る那須塩原駅と仙台駅との間は24日始発から運転を再開すると発表した。

東北新幹線に生じた被害は5種類

 JR東日本が2月14日に発表した「福島県沖を震源とする地震による東北新幹線の被災状況と今後の見通しについて」によると、福島県沖地震で生じた東北新幹線への被害は大まかに言うと5種類に分けられる。発表では明らかにされていないが、5種類それぞれの被害件数は18日付けの福島民友新聞の記事で報じられていた。まとめると次のとおりだ。なお、被害件数は今後も増える可能性が高い。

(1)架線を支える電柱の折損:20本

(2)まくらぎと道床とを一体化した多数のコンクリート盤でレールを固定するスラブ軌道の突起部の損傷:1カ所

(3)高架橋の柱と橋桁との間に設けられたサイドブロックの損傷:3カ所

(4)高架橋の柱の損傷:10カ所

(5)駅構内の漏水:2カ所

 いま挙げた5種類のうち、(5)駅構内の漏水については具体的な状況がよくわからない。恐らくは駅舎内部に張りめぐらされた水道管が壊れて水が噴き出したのであろう。復旧方法としては当然のことながら水道管の補修または取り替えとなる。

 残る4種類は皆コンクリート製の部材に生じた被害だ。先ほど取り上げた順に説明しよう。

(1)架線を支える電柱の折損

 電柱は側壁や防音壁で覆われた場所との境目付近で折れ、線路側に傾いた。傾斜した方向が線路と反対側ではなかった理由は、架線を構成する3本の電線の総張力が59.3キロニュートン(約5.5重量トン)と非常に強い力で張られており、電柱が壊れて架線を支える力を失うと架線の方向へと引っ張られてしまうからだ。

 となると架線自体も無事では済まず、断線が生じている可能性がある。JR東日本に問い合わせたところ、いまのところは架線は切れていないという。復旧作業を進めていくうちに架線にも損傷が発見され、張り替えとなるかもしれない。

(2)スラブ軌道の突起部の損傷

 スラブ軌道の突起とは、コンクリート盤どうしの境界に築かれ、レール方向に動くのを止める役割を果たす円柱を指す。地震の揺れによってコンクリート盤が動き、その結果、突起部が強い力で押されて根本の部分が折れて盛り上がってしまっている。

破損したスラブ軌道の突起部(写真中央の円柱)。福島~白石蔵王間にて 「2021年2月13日福島県沖地震における被災状況」(JR東日本公式サイトより)
破損したスラブ軌道の突起部(写真中央の円柱)。福島~白石蔵王間にて 「2021年2月13日福島県沖地震における被災状況」(JR東日本公式サイトより)

(3)サイドブロックの損傷

 高架橋の柱と一体となって橋桁を側面から押さえるサイドブロックには、橋桁がずれたことで亀裂が入った。となると、高架橋の柱と橋桁とを結合し、橋桁にかかる荷重を橋脚へと伝える支承(ししょう)という恐らくは鋼鉄製の部材も損傷していると思われる。支承については復旧作業に取りかかって初めて被害状況が判明するのであろう。

サイドブロックが損傷した福島~白石蔵王間の高架橋。「2021年2月13日福島県沖地震における被災状況」(JR東日本公式サイトより)
サイドブロックが損傷した福島~白石蔵王間の高架橋。「2021年2月13日福島県沖地震における被災状況」(JR東日本公式サイトより)

(4)高架橋の柱の損傷

 高架橋の柱は地震の揺れそのものの力でコンクリートの一部がはがれたり、亀裂が生じた。コンクリートの剥落(はくらく)が発生した個所では内部の鉄筋が見えているものの、こちらの被害の状況はわからない。

コンクリート製の部材の復旧方法は

 JR東日本に確認したところ、被害の状況にもよるが、いま挙げたコンクリート製の部材の復旧方法は基本的には東日本大震災での経験に基づいて行われるという。具体的には、同社の関係者が記した文献資料が参考になり、なかでも同社設備部の松尾伸二氏と下山貴史氏とによる「東北新幹線の被災状況と復旧」、「建設マネジメント技術」2011年10月号、経済調査会、P32-P36(以下参考文献資料1)、それから同社東北工事事務所の金子顕氏による「JR東日本における電車線路設備の被災と復旧」、「JREA」2012年6月号、日本鉄道技術協会、P21-P24(以下参考文献資料2)には大変有益な情報が掲載されていた。必要に応じて以上の文献資料を引用しながら、予想される復旧方法を紹介しよう。

(1)架線を支える電柱の折損

 参考文献資料2の22ページに「主たる材料である電化柱(筆者注、架線を支える電柱)については、鋼管柱を用いることとした」とあるように、折損した電柱は鋼管のものへと交換されることが確実だ。JR東日本が発表した「東北新幹線の復旧状況について」に掲載されている左上の写真でもまさに鋼管の電柱に建て替えている様子が撮影されている。なぜコンクリート製でないかというと、鋼管の電柱のほうが剛性が高く、大地震の揺れにも耐えるからだ。

 ならば東北新幹線の電柱も最初から鋼管にしておけばとよかったのにと言いたくなるが、鋼管の電柱の有効性が確認されたのは1995(平成7)年に発生した阪神淡路大震災である。以降に建設された新幹線ではほぼ全数が鋼管の電柱となったものの、今回被害に遭った東北新幹線の区間は阪神淡路大震災よりも前の考え方でつくられていて、重い架線を支えるのに適したコンクリート製の電柱が採用された。

東北新幹線盛岡~新青森間ではほぼ全面的に鋼管の電柱が採用された。建設中の七戸十和田~新青森間にて 鉄道建設・運輸施設整備支援機構の関係者立ち会いのもと筆者撮影(2008年11月)
東北新幹線盛岡~新青森間ではほぼ全面的に鋼管の電柱が採用された。建設中の七戸十和田~新青森間にて 鉄道建設・運輸施設整備支援機構の関係者立ち会いのもと筆者撮影(2008年11月)

 ところで、折れないまでも傾いた程度の被害が生じた電柱も、今回の福島県沖地震で発生していると思われる。だが、JR東日本によると傾斜した電柱の本数については答えられないという。これは被害状況を把握していないのではなく、実際に復旧作業を終えてみないと被害に遭ったと言えるかどうかがわからないからだと考えられる。参考文献資料2の24ページには「なお、傾斜量が少ない(1D未満)箇所については、架線高さ(5m)にて偏位が200mm程度の傾斜であり、架線の偏位調整で修復が可能であることから、基礎の損傷状態に応じて電化柱内部へのモルタル注入(1,400mm程度)のみの補修、または補修不要と判断した」とあった。

 どういうことかというと、復旧作業を早めるため、傾きが「1D」(電柱上辺の直径でたいていは40cm)未満の電柱はそのままにして、架線を張る位置で調節したことを指す。ちなみに偏位とは、車両のパンタグラフの局部摩耗を避けるため、架線を線路中心に対して水平方向にジグザグ状に張ることであり、新幹線では線路中心から左右に最大で15cmずつ、計30cmの偏位が設けられた。そして、「補修不要と判断」、つまり基礎部分の損傷は認められなかったのであるから、電柱は傾いたかもしれないものの、被害は生じなかったとも言えるのだ。

(2)スラブ軌道の突起部の損傷

 スラブ軌道の突起はひとたび破損すると修理は難しい。恐らくは取り除いて新たな突起を設置するものと考えられる。

(3)サイドブロックの損傷

 破損したサイドブロックの復旧作業については、橋桁が高架橋の柱からずれてしまったものと仮定して説明しよう。参考文献資料1の35ページに2011年4月7日の東日本大震災の余震で発生した高架橋のサイドブロックの損傷状況と復旧後の状況とが記されていた。引用すると、「RC(筆者注、鉄筋コンクリート)桁が線路直角方向に動いてRCサイドブロックを破損したと考えられる。復旧は、ジャッキにより桁を元の位置に戻し、応急復旧として桁中央部に新たに鋼製ストッパーを構築した。本復旧については、破損したRCサイドブロックを撤去し、桁中央部に設置した鋼製ストッパーを抱き込むようにRCによるストッパーを構築した」とある。

 補足すると、まずは橋桁をジャッキで元の位置に戻し、次に鋼鉄製の部材を橋桁と柱との真ん中に置いて橋桁を動かないように止めて仮復旧とし、列車の運転を再開させるという内容だ。その後、仮復旧で設けた鋼鉄製の部材の上をコンクリートで固め、引用元には記されてはいないが参考文献資料1の35ページの写真-6に掲載の復旧後の高架橋の様子から、破損したサイドブロックも新たにコンクリートで固められると考えられる。仮復旧の間は時速320kmでの列車の運転に耐えられるかどうかはわからないので、しばらくの間は速度制限が設けられるかもしれない。実際にJR東日本によると、2月24日の全線運転再開後も当面の間、一部の区間で速度を落として運転する必要があるとのことだ。

(4)高架橋の柱の損傷

 参考文献資料1の33ページから34ページにかけて「これら(筆者注、被災した高架橋や橋りょう)の高架橋柱や橋脚は、応急復旧として、ひび割れにエポキシまたはアクリル樹脂を注入して、鉄筋を再配置した後、無収縮モルタルにて断面修復を行い、被災前と同程度以上の性能に回復した」とある。つまり、高架橋の柱の破損については内部の鉄筋の損傷の度合いを確認した後にコンクリートで固めておくという意味となる。

 運転が再開された後も高架橋の柱に対する復旧作業は続く。文献資料1の34ページには「高架橋柱や橋脚の被災箇所は、引き続き鋼板巻き等の耐震補強を行うとともに、高架橋については、被災した高架橋柱と同じブロックの柱も鋼板巻きなどの耐震補強を行うことで本復旧としている」のだという。要は後日、その外側に鋼板を巻いて耐震補強を施して完成となる。

 列車の運転を優先させた応急復旧時に「被災前と同程度以上の性能に回復」とあるので、速度制限は必要ないであろう。

耐震補強工事を施工中の高架橋の柱。写真はJR北海道海峡線の柱で、北海道新幹線の列車を運転するために実施された。鉄道建設・運輸施設整備支援機構の関係者立ち会いのもと筆者撮影(2014年7月)
耐震補強工事を施工中の高架橋の柱。写真はJR北海道海峡線の柱で、北海道新幹線の列車を運転するために実施された。鉄道建設・運輸施設整備支援機構の関係者立ち会いのもと筆者撮影(2014年7月)

耐震補強工事を施工中の高架橋の柱(内部)。コンクリートの外側に鋼板を装着して強度を高めている。鉄道建設・運輸施設整備支援機構の関係者立ち会いのもと筆者撮影(2014年7月)
耐震補強工事を施工中の高架橋の柱(内部)。コンクリートの外側に鋼板を装着して強度を高めている。鉄道建設・運輸施設整備支援機構の関係者立ち会いのもと筆者撮影(2014年7月)

 JR東日本に対しては、東日本大震災で大きな被害を受けたという教訓を得られたにもかかわらず、今回の福島県沖地震でも再び運転を見合わせる区間が発生し、「この10年間何をしていたのか」というお叱りの声も聞かれる。地震の規模は異なるものの、東日本大震災では合わせて約1200カ所が被害に遭ったのに対し、福島県沖地震では確実に少なくなった。被害は皆無とはならなかったものの、大幅に減少させることができた点については評価してもよいのではないだろうか。復旧後に今回の地震による被害の全貌、そして復旧方法が明らかにされるので、改めて取材、調査のうえ取り上げたい。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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