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都内の電車、乗客3人に1人は隣接の県境をまたいでいた~コロナ禍前の鉄道データを振り返る

梅原淳鉄道ジャーナリスト
JR東日本東海道線の電車は蒲田駅と川崎駅との間で東京都と神奈川県との境を通過する(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

コロナ禍で意識、東京と隣接県とをまたぐ移動

 新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、政府や都道府県知事らに都道府県をまたぐ移動の自粛が一時呼びかけられた。そのとき気づかされた人も多いかもしれない。望むと望まざるにかかわらず、人々は他の都道府県へと向かう機会が案外多いのだということを。

 このような傾向は大都市圏で顕著だ。日本の首都であり、首都圏の中心となる東京都には、通勤や通学をはじめ、商用や私用などさまざまな用件で膨大な数の人たちが隣接する神奈川、埼玉、千葉、山梨の各県から流入している。同様に東京都からもこれら各県へ多くの人々が向かう。

都県境の駅間別に見た移動人数ランキング

 運輸総合研究所発行の『都市交通年報』には、東京駅を中心とした半径50km以内を通る鉄道各線の各駅ごとの移動状況が記されている。そこで最新版(2019年3月発行の平成27年版)から、東京都区内と隣接各県とを発着する路線のうち都県境を含む23駅間(JR7、私鉄13、地下鉄3)を選び、移動する人数を抽出してみた。2013(平成25)年度に23駅間を移動した人の数を1日平均で多い順に並べたものが図1だ。

図1  出典:運輸総合研究所『平成27年版 都市交通年報』/画像制作:Yahoo! JAPAN
図1  出典:運輸総合研究所『平成27年版 都市交通年報』/画像制作:Yahoo! JAPAN

 図1を見ると、23駅間で合わせて1日平均864万1584人が東京都と神奈川県・埼玉県・千葉県との間を鉄道で移動したことがわかる。なお、山梨県は東京都と接してはいるものの、この都県境を通る鉄道は存在しない。

 東京都区内を通る鉄道で移動した人の数はすべて合わせて1日平均2761万8707人であったから、これらのうちの31.3パーセントが23駅間を移動したことになる。

 都県境の駅間別にまとめた移動人数ランキングの1位は蒲田駅(東京都大田区)と川崎駅(神奈川県川崎市)との間で1日平均113万9483人、2位は赤羽駅(東京都北区)と川口駅(埼玉県川口市)との間で同110万5278人と、どちらもJR東日本の駅間が3位以下を圧倒する結果となった。何しろ1位と2位とを合わせて224万4761人と、23駅間の移動人数全体の4分の1に相当する26.0パーセントも占めたからだ。

 都県境を移動する膨大な数の人たちに対応できるよう、1位の蒲田-川崎間は2組の複線が敷かれた複々線となっていて、東海道線、上野東京ライン、京浜東北線の電車が運転されている。いっぽう、2位の赤羽-川口間は3組の複線が敷かれ、東北線、高崎線、上野東京ライン、湘南新宿ライン、京浜東北線の電車が行き交う。現実にはこれらの線路だけでは輸送力が足りず、蒲田-川崎間では表1のランキング中で18位の西大井(東京都品川区)-武蔵小杉(神奈川県川崎市)間を、赤羽-川口間では同じく14位の浮間舟渡(東京都北区)-戸田公園(埼玉県戸田市)間をそれぞれバイパス路線として増設してまかなっている。

 私鉄を眺めると、全体で4位となった東急電鉄の二子玉川駅(東京都世田谷区)と二子新地駅(神奈川県川崎市)との間が1日平均61万0392人とトップの座に就いた。いっぽう、地下鉄別では東京メトロの葛西駅(東京都江戸川区)と浦安駅(千葉県浦安市)との間の同39万8623人が1位となる。

 偶然かもしれないが、いま挙げた2駅間を通る東急電鉄田園都市線、そして東京メトロ東西線はラッシュ時の混雑が激しい路線としても有名だ。2018(平成30)年度の混雑率は田園都市線が182パーセント、東西線が199パーセントで、東西線は首都圏の路線中1位、田園都市線は9位タイながら私鉄1位と、あまりありがたくないランキングの常連でもある。混雑の理由はさまざまながら、都県境を移動する人の数の多さも一因であろう。

都県境をまたぐ人が最も多かった県は

 続いては、今回対象とした23の駅間の1日平均の移動人数を東京都と隣接する県別にまとめ、ランキング形式とした。結果は図2をご覧いただきたい。

図2 出典:運輸総合研究所『平成27年版 都市交通年報』/画像制作:Yahoo! JAPAN
図2 出典:運輸総合研究所『平成27年版 都市交通年報』/画像制作:Yahoo! JAPAN

 1位は神奈川県で1日平均336万8483人が東京都との間を移動し、23の駅間全体の39.0パーセントを占めている。2位は293万3467人を記録した埼玉県で33.9パーセント、3位は233万9634人の千葉県で27.1パーセントとなった。

 図2の順位は県別の人口に比例している。総務省がまとめた2017(平成29)年10月1日現在の人口を見ると、神奈川県は916万人、埼玉県は731万人、千葉県は625万人であった。3県を合わせた人口である2272万人に占める各県の割合は神奈川県が40.3パーセント、埼玉県が32.2パーセント、千葉県が27.5パーセントだ。各県とも見事に東京都との間を移動する人たちの割合に合致していることがうかがえて興味深い。

隣接県と行き来する人が多かったターミナルは

 最後に、東京都区内のターミナルで隣接する各県との間を移動する人の数が多い上位5駅を集計してみた。結果は図3のとおりである。

図3 出典:運輸総合研究所『平成27年版 都市交通年報』/画像制作:Yahoo! JAPAN
図3 出典:運輸総合研究所『平成27年版 都市交通年報』/画像制作:Yahoo! JAPAN

 断っておかなくてはならないのは、図3のランキングはあくまでも参考値に基づくという点だ。というのも、算定の基準とした都県境の23駅間にはさまざまなターミナルを発着する列車が乗り入れているし、そもそも23駅間を通る人全員が図3に挙げたターミナルを利用するとは限らないからである。そうは言っても各ターミナルを発着する列車が通る都県境の駅間にどのくらいの人数がいるのかを知っておくのは意味があると考え、紹介した次第だ。

 1位は東京メトロの大手町駅を含む東京駅となった。東京駅には神奈川、埼玉、千葉の各県との間を結ぶJR東日本の電車が集結しており、都県境となる駅間を通る人の数が1日平均で445万5149人と2位以下を大きく引き離してトップの座を占めたのも当然かもしれない。

 意外にも2位は渋谷駅となった。東急電鉄の多摩川-新丸子間からは目黒駅をターミナルとする目黒線、同じく二子玉川-二子新地間からは大井町駅をターミナルとする大井町線のそれぞれ移動人数を引いてもなおこれだけの数値を記録している。

 新宿駅が3位となった理由は明らかだ。この駅をターミナルとするJR東日本の中央線、そして京王電鉄の京王線とも、隣接する各県に移動する人の数が記録されていないからだ。実際には中央線は高尾駅(東京都八王子市)と相模湖駅(神奈川県相模原市)との間で都県境を通るが、東京駅から50kmを超えているので今回参考にした『平成27年版 都市交通年報』には移動した人の数自体が掲載されていない。

 いっぽう、京王線の場合は終点の京王八王子駅まで一貫して東京都内を通っており、隣接する各県を通過しない。調布駅(東京都調布市)から分岐する相模原線は南大沢駅(東京都八王子市)と橋本駅(神奈川県相模原市)との間で都県境を通り、多くの列車が新宿駅に乗り入れるが、相模原線自体は東京都区内の駅を発着していないので今回は割愛させていただいた。ちなみに、南大沢-橋本間を移動する人の数は1日平均9万0255人であった。該当したとしても大勢に影響はない。

鉄道による強い結びつき、今後の課題

 今回、3種類のランキングを作成してみると、東京都と隣接する各県との結びつきが強いことが改めて判明した。また、東京都区内と隣接する各県との間を移動する人の数の多さは言うまでもない。

 これだけの人を迅速、安全に移動させられるのも精力的に鉄道網が整備されたからだ。しかし、今回のような問題にどのように対応すべきかは課題が残されている。大地震などの災害時にどのように行動すればよいのかについても依然として結論は出ていない。とはいえ、今回挙げた数値を理解しておくだけでも一人ひとりの行動の指針となるのではないだろうか。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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