日本一地価が上がった北海道の町、そこは外国だった。

町内のATMはすべてインターナショナルカード対応(筆者撮影)

先日、韓国人観光客であふれかえる長崎県対馬の現状を記事にしたが、時期的なものもあって反響をいただいた。

日本人より韓国人観光客のほうが多い「日本」、国境の島、対馬を歩く

https://news.yahoo.co.jp/byline/umedakazuhiko/20190802-00136309/

取材時はまだ日韓関係が冷え込む前だったのでたくさんの観光客であふれていた。

今回も外国人観光客の消費が地域産業の主軸となっている地域を紹介したいと思う。対馬の観光客が「日帰り団体客・海外ビギナーの庶民的韓国人」であれば、今回の舞台は「リピーター中心。オーストラリア人、シンガポール人などを中心とした旅慣れた富裕層」だ。コンドミニアムの購入者も多い。ここ数年は全国一の地価の上昇率とくればわかる人もいるかもしれない。そう、北海道のニセコエリア。倶知安町・ニセコ町にまたがる広大なスキーリゾートエリアである。ハイシーズンのニセコで見えたものは。なぜニセコが観光地として勝ち続けているのか、その正体を探る。

真冬の比羅夫(北海道・倶知安町)、そこは外国だった

バス停を降りたところにあったハンバーガー・タコスの屋台
バス停を降りたところにあったハンバーガー・タコスの屋台

一般的にニセコ(Niseko)として外国人観光客に知られている地域の中心部は、比羅夫(ひらふ)という場所で、住所としては倶知安町字山田(くっちゃんちょう・あざ・やまだ)という地域である。新千歳空港からピーク時には1時間に1本というペースで発着するシャトルバスは、比羅夫地域の中心部「ひらふウェルカムセンター」に発着する。私は路線バスにも乗ったが、冬の比羅夫地域は、乗客のほとんどがスキーリゾート目当ての外国人だ。

雪質がパウダースノーで、世界的に評価の高いニセコマウンテンリゾートグラン・ヒラフ
雪質がパウダースノーで、世界的に評価の高いニセコマウンテンリゾートグラン・ヒラフ

倶知安町の人口はおよそ1万5000人。人口規模としては典型的な町村だが、しかしここは世界中から観光客が訪れる国際観光都市である。バス停の駅名表示板は英語だし、街中にあるATMをのぞくと国際キャッシュカードを選ぶ選択肢があるほか、コンビニエンスストアなどいたるところに外貨から日本円に交換可能なATMが設置されている。ここは田舎ではあるが、全国のどこよりも国際的である。

(写真左上)路線バスにて/(右上)バス停の表示板/(左下・右下)ATM、外貨両替機
(写真左上)路線バスにて/(右上)バス停の表示板/(左下・右下)ATM、外貨両替機

関心したのは、路線バスに英語・中国語で書かれた「バスの乗り方」の表示があることだ。確かに地元客を想定としているバスは、国内であってもなかなか外部の人間にはわかりづらいもの。こうやって母国語で案内が書かれていると安心感がある。

当然、飲食店からコンビニにいたるまで、表記はほとんどが英語中心である。

スーパーにて
スーパーにて

町の統計によると、10年前の2009年には年間29,675人だった外国人観光客は、2018年には151,038人に増えた。およそ5倍である。ユニークなのは観光客の国籍である。日本政府観光局が発表した国籍別の訪日観光客の統計があるので、これと照らし合わせてみる。

倶知安町と、全国の国籍別観光客の違い
倶知安町と、全国の国籍別観光客の違い

町の発表データと日本政府がそれぞれ発表している国籍別観光客を比較(表作成:筆者)すると面白い現象が見られる。日本全体で見れば、全体の26.9%を占める中国人観光客は倶知安町では半分以下の11.0%、全体の24.2%を占める韓国人観光客はわずか2.5%と少ない。しかし、オーストラリア人の観光客は日本全体では1.8%に対し、倶知安町では18.8%を占める。香港の人も日本全体では7.1%だが、倶知安町では19.0%を占める(いずれも小数点第二位以下を四捨五入)。

これは何を意味するのだろうか。2つの現象が考えられると思う。まず、倶知安町・比羅夫の主な観光資源であるスキーリゾートは、オーストラリアなど季節が反転する地域(日本が冬の時、南半球に位置するオーストラリアは夏である)や、シンガポール・タイなど雪がめずらしい国で特に人気が高いこと、これらは気候的な特色である。加えて、比較的裕福な国からの観光客が多いことが挙げられる。わざわざ海外までスキーをしに行くという行動パターンを考えると、富裕層が多いということも納得がいく。

外国人富裕層受けしそうな、おしゃれなバーやレストランが多い
外国人富裕層受けしそうな、おしゃれなバーやレストランが多い

実際に現地に行って外国人観光客に、なぜここに来たのかを尋ねると、比羅夫のそばにあるニセコアンヌプリ山の雪質の良さを指摘する声が多かった。また、ニセコのパウダースノーを愛し日本に移住し、ミュージックバーを経営するイギリス人は「ここにいると世界中の人に会えるから」とも語っていた。この町は、風光明媚な日本の田園地域であるとともに、国際的な観光地なのである。

2016年に、地価の上昇が日本一(1年間で19.7%の値上がり)となったことで全国的に有名になったが、その後も地価は全国一の上昇を続けている。倶知安町字山田の基準地価は1平方メートルあたり75,000円。わずか2年前、2017年時点では平方メートルあたり38,000円だったので、2年でほぼ倍になっている計算だ。日本の高度経済成長期、あるいはバブル期も真っ青の上昇率である。

街中には英語で書かれた不動産の売買情報の広告が出ている。安くても数千万円台からであり、なかには1億を超える物件もざらにあった。観光地であることをさっ引いても、北海道の人口15,000人の町の物件としては異常に高価だろう。

比羅夫で見つけた不動産の広告。すべて英語表記だ。
比羅夫で見つけた不動産の広告。すべて英語表記だ。

当然、これらの観光需要、不動産需要は、建設業者、不動産業者、飲食店、旅館業など様々な業種での働き口を増やすことになり、実際に北海道では遠く札幌など様々な場所で比羅夫地域で働くための求人を出している。地元経済に貢献しているわけだ。ただ、少し気になることもある。それは、不動産開発業者がシンガポールのデベロッパーだったり、スキーウェアショップが外国資本だったりと、この地域に目をつけた外国企業が多数目につくことだ。特に、別荘地、ホテルの開発など儲かりそうな事業は外国資本であることが多い。もちろん、これら外国企業が日本で営業した結果利益が出た場合、税金を納めることにもなり、日本経済に貢献してくれる。ただ、せっかくなら日本企業にももっと食い込んでいってほしい。まだまだこの町は発展途上にある。

大規模なコンドミニアム(高級マンション)開発を行うシンガポール系デベロッパー
大規模なコンドミニアム(高級マンション)開発を行うシンガポール系デベロッパー

その後もいくつかの何回か来ているという観光客に、なぜニセコなのか聞いたところ、「雪質のよさ」、「北海道独特の自然風景」を挙げる人が多かった。また自分なりにも分析したところ、「国際便も発着する新千歳空港からアクセスが良い」、「自分たちと同じような観光客が多いので安心感がある」、「スキーウェアやボードなどのレンタルショップが充実していること」などがある。印象的だったのは、帰りのバスでの光景だ。バスが出発する直前、現地の日本人スタッフが外国人観光客向けにちょっとしたダンスを踊る。おそらく何か決まりがあるわけではなく、地元のスタッフが考えたささやかなおもてなしだろう。すると陽気な外国人観光客は手をたたいてエールを送る。些細なことだがこのエピソードには2つの効果があると思う。1つは、帰り際にそういった連帯感が生まれることで空港までの車内にも連帯感が生まれ、自然と旅の印象が良くなること。もう1つは、ニセコのスタッフが外国人観光客を歓迎しているよというわかりやすいサインになっていること。外国人観光客は、歓迎されているかどうかを非常に気にする。僕だって外国に行った際に、自分が歓迎されているかどうか、とても気にするからよくわかる。こういった努力の積み重ねが、ニセコを全国一の勝ち組観光都市に押し上げているのかもしれない。

10年前はほとんど存在しなかった町が出来上がっていく様は圧巻である
10年前はほとんど存在しなかった町が出来上がっていく様は圧巻である

ただ、残念なこともある。それは、多くの観光バスの路線がニセコと新千歳空港を直接結んでいるため、残念ながらそれ以外の北海道の別エリアの観光には結びついていないことだ。自分は前後の取材の都合で札幌から訪れたが、札幌からニセコのバスはシーズン中であってもほとんど少なかった。札幌とニセコを両方楽しもうという人が少ない。スキーやスノボを愛する観光客は、函館も、富良野も、おそらく訪れない。リピーターにどれだけ別のエリアに気を向けてもらうかが、今後の観光産業の課題となるかもしれない。