日本人より韓国人観光客のほうが多い「日本」、国境の島、対馬を歩く

韓国人観光客の多い対馬市では、ほとんどの道路標識は日本語と韓国語の2種類

急速に増える外国人観光客

今年の通常国会で、安倍晋三首相は2020年の訪日外国人観光客を4000万人にするという目標を立てた。日本政府観光局によると、震災が起こり日本を訪れる観光客が少なかった2011年に約600万人だった観光客は、2013年に大台の1000万人、わずか3年後の2016年には2000万人を突破(2400万人)、最新の2018年には3119万と、あっという間に3000万人を突破した。ここ数年、訪日外国人観光客は爆発的な勢いで増えているので、首相のこの数字は比較的達成する可能性のある目標値と言えるだろう。わずか7,8年の間に、日本を含む世界の風景は、急速に変わりつつある。

参考「日本の観光統計データ」日本政府観光局

これだけ観光客が増えると、東京・京都・大阪などの大都市にとどまらず、地方・農村部を含め様々な地域まで観光客が及んでいる。長崎県対馬市に至っては、2000年にわずか7千人だった観光客は19年で40万人に膨れ上がった。皆さんの日々の生活においても、とにかく観光客が増えたというのは実感としてあることだろう。

特に経済的な基盤が弱い地方都市・農村部において、観光客の取り込みというのは、地域の存続においてかなり喫緊の課題である。もちろん、日本人観光客も増えるといいが、残念ながら少子高齢化の影響で日本人が今後増えることは期待できない。これからは外国人観光客にいかに愛されるかがカギである。今後、「外国人観光客で地元経済が成り立っている地域」が増えるかもしれない。実際には一部の場所にしかない現象なのであまり実感がないかもしれないが、長崎の対馬などは、もはや地元を歩いていると外国と見間違うほどだ。これらの地域を歩くことは、今後ますます観光客が増え、外国人労働者を受け入れていくであろう日本の将来を覗くことにならないだろうか。

突然、韓国人が押し寄せてきた。対馬の現状

どこにでもあるような海沿いの町・それが対馬・比田勝地域
どこにでもあるような海沿いの町・それが対馬・比田勝地域

長崎県の離島、対馬は行政区としては一島で対馬市となっている。この地域には1990年には約4万6000人の人口がいたが、2019年現在、約2万9000人。29年で1万7000人の人口が消えたことになる。対馬の6町は2004年に市町村合併を行い、市役所は中心部で最も大きい集落のある厳原に置かれた。一方、今回の舞台である比田勝港のあるエリアは、厳原からさらに2、3時間はバスに乗らないと到達できない上対馬町という場所にある。2004年合併時の上対馬町の人口は約5,000人、2015年には約3,800人と減少傾向である(対馬市のホームページより)。

6月上旬に対馬市を訪れた。典型的な島嶼部の過疎地域だ。上の写真は上対馬の比田勝港の風景だが、日本のどこにでもあるような集落を持った漁村という風情である。しかし、この場所こそ、日本の観光産業の最前線である。

韓国語で「歓迎」という意味の文字が記されている。
韓国語で「歓迎」という意味の文字が記されている。

対馬の上部、上対馬にある、比田勝港。船の出港前に港に行くと、このように韓国人観光客であふれかえっている。

比田勝港の建物内部。たくさんの観光客(ほとんどが韓国人)
比田勝港の建物内部。たくさんの観光客(ほとんどが韓国人)

それもそのはず。法務省の「出入国管理統計統計表」によると、港湾別の外国人入国者数が堂々の1位。ちなみに、第3位の厳原港も対馬であり、船による入国者数だと、人口3万人足らずのこの島が日本でぶっちぎりの国際港湾都市ということになる。

港湾別の外国人入国者数(2017年、法務省)
港湾別の外国人入国者数(2017年、法務省)

このデータだけで、いかにこの港湾が観光上大きな意味を持っていることはわかっていただけただろう。なお、空港も含めた、外国人入国者数を示した表を法務省のデータから作成すると以下のようになる。

空港・港湾別の外国人入国者数(2017年、法務省)
空港・港湾別の外国人入国者数(2017年、法務省)

ベストテンには当然、成田、関空、羽田と日本を代表する国際空港が並ぶが、比田勝港は堂々の8位。中部空港より少ないが、博多港、北九州空港よりも上位である。しかも、この数字は爆発的に増えている。このまま行くと、順位が変わる可能性がある。いったいこの町に何が起きているのか。

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韓国人観光客の多い島を回ってみると見えてきたもの

島を散策するためレンタカーを借りると、「ひょっとして日本人ですか?」と驚かれる。「何しに来たんですか?」とも。とっさに「観光しに、釣りに来ました」と言うと、安堵の表情を浮かべるご主人。どうやらよほど日本人がこの地を旅行することがめずらしいらしい。借りた車は、カーナビの言語が韓国語になっていたので日本語に切り替えてもらう。「国際免許で運転しています」というステッカーも常についているようだ。日本とは交通ルールの異なる韓国人が日本で運転するため、事故を起こすケースも多いらしく、注意喚起のポスターがいたるところに貼られている。

島に点在する離れ小島やリアス式海岸を眺められる鳥帽子展望台
島に点在する離れ小島やリアス式海岸を眺められる鳥帽子展望台
マリンブルーの海が美しい三宇田浜
マリンブルーの海が美しい三宇田浜

車で回ってみるとわかるが、とても風光明媚な、日本の島である。この島に他の地域と違うものを見いだすとすれば、ハングルがいたるところにあることだ。

いたるところにハングル
いたるところにハングル
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対馬の北端、鰐浦から韓国・釜山まではわずか49.5km。新宿駅から中央線に乗って相模湖駅がだいたい50kmなので、本当に韓国との距離が短いことが想像できるだろう。一方、対馬の市役所がある厳原から博多港までは134km。長崎県の県庁長崎へはもっと遠い。よってこの島の人々は、自分の県の県庁所在地に向かうより、韓国に向かう方が早いということになる。事実、この島の人々の多くは、東京に出るときに、いったん釜山に船で向かい、そこからLCCなどに乗って東京を目指すというケースがあるそうだ。ところ変われば常識は変わる。

のどかな島に突然のショッピングエリア

港のすぐそばにある「生活広場」。
港のすぐそばにある「生活広場」。

ここにはたくさんの韓国人観光客がたむろしていた。僕の居住エリアではあまり聞いたことのない店名だったので調べたところ、福岡に本社を持つJTCという会社のブランドのようだ。ちなみに、JTCは韓国証券取引所に上場している。どうやら日本に本社を持つ韓国系の会社だと思って間違いなさそうだ。ここには様々な日用品が展開されており、化粧品や宝石、生活用品、食料品などが売られていて、大賑わいだ。たしかに免税で買えるのだが、しかしこれだけが旅の目的だとすれば少し拍子抜けしないだろうか。釜山から1時間10分とはいえ、僕が調べたところ、片道8,000円の費用がかかる。韓国・釜山に旅行に行った人ならわかると思うが、今時、8,000円も出せば飛行機で成田に来られる。所要時間も2時間半とかってところだろう。僕が釜山の人間なら、同じ費用を出すなら東京や関西に遊びに行くだろう。なぜ、この島に大量の人が来るのだろうか。

謎を持ちながらとある飲食店に入ったところ、いくつかのことを教えてくれた。

「個人旅行客はここにはめったに来ません。ここに来るのはツアー客ばかり。釜山ー比田勝ではツアー会社によるツアーが組まれていて、そこで予約した場合、団体割引がきいて2,000円とかで来れるらしいよ」

確かに2,000円なら話は変わってくる。それだけ安ければ、東京の人が熱海に行く感覚で遊びに来られる。飛行機嫌いの人も渡航可能だし、実際に年配の人などを含む家族連れなども多かった。

「彼ら、彼女らは買い物目的が多い。なんなら、朝に来て夜に帰る人もいます。確かにこの島には何もないけど、自然はあるし、美味しいご飯も食べられるし、気軽に外国気分を味わえるしで、人気です」

一部報道によるとマナーの悪さを指摘されていたりもしますが、どうですか?

「確かに中にはマナーの悪い人もいます。例えばこのお店では持ち込みを禁止しているけど、外でペットボトルを購入してきてここでご飯だけ頼もうとする人もいた。でも、彼ら、彼女らはこの地がはじめての海外旅行だという人が多くて、ただ無知なだけな人が多い。持ち込み禁止だということを説明したらわかってくれた。個人的な意見を言わせてもらうと、韓国人はたばこを吸わない。日本人はたばこを吸って長居する人が多いから、むしろ韓国人の方が商売をしやすいですよ」

もちろんこれはただ一人の意見である。いろんな意見があろう。しかし総じて言えることは、この農村に韓国人が遊びに来ることを飲食店の人はよく思っているようだ。売上が立つから当然であろう。また別の地元の人は語る。

「日韓関係はよくなったり悪くなったりしていますが(取材時は日韓関係がここまで悪化する前)、私たち国境近くに住む立場から言わせてもらうと、とにかく仲良くして欲しいという限り。日韓関係がうまくいく限り、この島には韓国人が訪れ、そして買い物や食事、宿泊を通して地元にお金を落としてくれます」

対馬市のホームページによると、宿泊業、飲食サービス業に従事する人の数は1,068人。一方、こちらも対馬市の調査によると、韓国人以外の観光客が21万人超(平成27年現在)と報告されているので、観光客のおよそ半数が韓国人だと見積もると、少なくともこの島の人々の約400人の雇用は韓国人観光客が担っていると言っても過言ではないだろう。実際には、韓国人観光客は電気やガスなどを使用し、地元の食材を食べ、ホテルは建設業事業者が建設し、相当数の人口が生かされていることになる。たかが数百人、千人レベルの雇用と思うかもしれないが、ここ対馬市においてこの規模はかなり大きい。

それに、何もなければこの島は限界集落にでもなってしまったかもしれない。この島の弱点は、国際関係にずいぶん左右されてしまうところだ。大きな国の問題が、小さな地域の運命を変えることはよくあることだが、対馬だけのことを考えると、日韓両国の関係は良い方がいいのだろう。

友達と2人で旅行に来たプサンに住む韓国人の大学生(21歳)は語る。

「一泊二日でこの島やってきました。これは私にとってはじめての海外旅行でドキドキしています。目的はお買い物。免税のおかげで安く買い物ができると知って。でも来て観て思ったのは、海岸がとても綺麗なところ。日本はきれいなところだと聞いていましたが、とてもきれいですね」

プサン在住40代の主婦

「足の悪い両親と一緒に来ました。船の移動だと、なんとなく安心ですね。(対馬は)東京などの都会と違って、過ごしやすいと聞いていました。ちょっぴり退屈な気もするけど、両親は喜んでいるので、親孝行になったと思います」

韓国人夫婦は親孝行をして、日本人は経済を潤す。ウィンウィンだ。アジアに近いことで、この小さな島には大きなチャンスが訪れている。確かに日韓関係は足元では悪くなってはいるが、これまでも何度か緊張関係があり、そしてそのたびに関係は少し深まっているように感じる。土地は動かすことができない。日本と韓国が隣国同士であることを変えることはできない。だから特にプサンの人にとってこの島の気軽さは変わるわけではない。

戻ることができない旅は始まっている

離島地域に大量の韓国人観光客。ある種独特な光景となった場所だった。おそらく、かつてのハワイなども日本人観光客であふれ、「ここは日本?」とアメリカ人に皮肉を言われたこともあるだろう。現在の対馬はそのような状況で、もはや日本人よりも韓国人の方が多いエリアになった。結果としては行政の財政は潤い、雇用は生まれ、いいことのほうが多いように感じた。もちろん、受け入れるにはいくつかの問題も生じる。でも、得られるものは、失うものより多いはずだ。今さら鎖国をすることもできないだろう。今や日本の経済はアジアに依存し、世界に依存している。一方、世界もアジアも、日本に依存している。戻ることはできない。それに、黙っていても日本人の人口は減っていく一方なのだ。

入り口は気軽な買い物や、気軽に外国気分を味わいたいというものかもしれないが、その先に日本文化に本格的に興味を持つ人もいる。僕としては、外国人にもこの国に遊びに来て、そして日本人と同じように願わくば日本を愛して欲しい。

(写真はすべて筆者撮影)

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