キーワードは、3つの「イン○○○○」。韓国・ソウルカルチャー最前線

コンテナを積み重ねた最先端ショッピングモール「COMMON GROUND」

近くて遠い国、韓国

ある人にとっては近く、またある人にとっては遠い国というのがある。韓国はその筆頭ではないだろうか。近くにあるのに、僕たちは韓国のことをほとんど知らない。K-POPや韓流ドラマが人気なことはなんとなく伝わってくるけど、筆者はその手の流行に疎いほうである。一方で、一部の若い女性から見ると、韓国はコスメとイケメンが集う「憧れの国」だ。若い女性の間で、真っ赤なリップが流行っているのはおじさんでもご存じであろうが、何もあれはバブルが再来したのではない。K-POPアイドルや韓国人モデルからの影響が大きい。

K-POPを通じて若い女性に、そして韓流ドラマを通じてかつて若かった女性を魅了し続ける韓国では、いまどのような若者文化があるのか。それを探りに韓国へ飛び立った。5日間のトリップを通じて感じた韓国らしい流行のポイントは、3つの「イン○○○○」だ。インの後に続く言葉は一体何を指すのか、考えながら読んでほしい。

1つめの『イン』/インスタ映え

まずは韓国で去年から流行中の「レインボーケーキ」のディスプレイをごらんいただきたい。

このケーキは食品の色合いという概念を大きく変え、アップデートした見た目にファンが続出……らしい。
このケーキは食品の色合いという概念を大きく変え、アップデートした見た目にファンが続出……らしい。

一つ目のキーワードはおなじみ「インスタ映え」である。日本でも大流行中のインスタグラムであるが、地元在住の人によると韓国人は元々、自分を撮影することに日本人よりも抵抗が少ないらしく、インスタグラムが日本以上に重要なキーワードとなっているようだ。たとえば、これは韓国の流行スポット「COMMON GROUND」(ラフォーレ原宿のようなものだと思ってください)のなかにあるカフェ「DOREDORE」にあるレインボーケーキだ。このレインボーケーキは発売されるやいなや、地元のカワイイものに目がない女性に注目され、インスタグラムにハッシュタグ付きで投稿されると、日本でもその人気が飛びしたのである。このレインボーケーキは、日本のオーソリティからすると邪道かもしれない。日本のカフェでも、「ホットケーキじゃないの?」とおじさんにいぶかしがられながらも一向に流行の陰りを見せないパンケーキや、レインボーケーキと同じく「尖った」色合いでおなじみのフレーバー付きポップコーン(知らない方は「カラフル ポップコーン」で画像検索)が流行していることを鑑みるに、日韓の若い女性は「カワイイ!」が大好きなのである。

Instagramのハッシュタグ「DOREDORE」の検索結果

https://www.instagram.com/explore/tags/doredore/

ちなみに、流行の移り変わりの早いソウルっ子によると、DOREDOREはもはや少し過去の流行。いま、最もアツいインスタ映えカフェは「ZAPANGI」というカフェらしい。

入り口のドアとは到底思えないような派手なドアが、カフェへの入り口
入り口のドアとは到底思えないような派手なドアが、カフェへの入り口

韓国語で自販機という意味を持つZAPANGIは、まさにインスタ映えを前面に意識した雰囲気。意表をつくお店の入り口のドアにも使われているピンクを基調にした店内では、内装からフードにいたるまで、どこをとってもインスタ映えである。

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2つめの『イン』/インバウンド

今年に入ってから、北朝鮮のミサイルの問題もあり、訪韓外国人は減っている。聯合ニュースが報じているところによると、特に中国人の訪韓が減っているという。背景には、政治的な問題から韓国旅行商品(パックツアーのような商品)の中国国内での販売を禁止する処置が大きいようだ。

8月の訪韓外国人 前年比34%減少=中国人客が激減ーー聯合ニュース

http://japanese.yonhapnews.co.kr/pgm/9810000000.html?cid=AJP20170922003900882

一方で、同記事によると日本人観光客は8月も前年同月比0.6%増の22万6735人。筆者は日本人の旅行者が多いドミトリーに宿泊したが、女性の観光客が圧倒的に多かった。日本人女性が韓国を訪れる理由として欠かせないのは韓国コスメである。人気の理由を、ソウル在住の日本人女性に聞いた。

「アジア人女性から見た日本のコスメはざっくり言えば『資生堂』のイメージでしょうか。品質がよく、憧れではありますが、少し高くて大人向けのエレガントな商品というイメージです。一方で韓国は若い女性にぴったりのアイテムを作っている印象です」

なるほど言われてみれば日本の化粧品のCMは、「大人の女性」のイメージが強い。一方で韓国では若い女性向けの商品を多数開発している。それにしても、なぜ韓国はコスメ大国になったのか。

「私的な意見ですが、コスメの販売方法にあると思います。日本では化粧品といえば日用品は通販やドラッグストア、高級品はデパートなどのイメージが強いと思います。一方で、韓国では町中のコスメショップで購入するのが一般的。すべての商品に試供品があるので、実際に店内で試してみてから購入することができます。また、ユニセックスというのも特徴です。たとえば、コスメショップの『the SAEM(ザセム)』では、K-POPスターの『SHNee(シャイニー)』を広告塔にしていますが、男性アイドルがコスメショップの広告塔になることは、日本では考えづらいでしょう」

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ちなみに、美容意識の高い韓国人男性は色つきのリップを塗るそうだ。メンソレータムではない。赤いリップを薄く塗ることで、発色を高めて健康的なイメージを得るのが目的だそうだ。

3つめの『イン』/インディーズ

さて、インスタグラムにもコスメにもそれほど興味がない私でも、なるほどこれは面白いと思ったのが、ソウルのサブカルチャー・インディーズカルチャーである。ソウルのサブカルチャーの特徴は一言で言えば、「インディペンデント」である。話は日本で出版された一冊の本から始まる。『本の未来を探す旅 ソウル(Yahoo!ブックス)』(著者:内沼晋太郎)という本のなかで紹介されているソウルの本屋の状況を見て、とても面白いと思ったのだ。

日本の書店業界は大きく分けると3つの潮流がある。1つは実店舗を持たないオンライン書店、もう一つは都市のターミナルや、郊外のショッピングモールにあるような大型書店、最後に昔ながらの町の小さな書店だ。町の小さな書店は経営危機に陥っている例もあるが、日本の場合、まだ『町の書店』はかろうじて健在である。一方、韓国はその町の小さな書店が成立しづらい環境にある。日本のように流通網が整っておらず、営業力を持った大規模書店以外は淘汰されてしまった歴史がある。

一方で、そんな状況を危惧した若い世代のオーナーが、個性豊かな書店をオープンさせている。特徴としては、カフェスペースを併設したり、イベントスペースを設けたり、セレクトがオーナーの好みに偏っていたりする。ZINE(個人制作のフリーペーパー)やリトルプレス(小さい規模の出版物)を取り扱うことも多い。日本でもB&B(東京・下北沢)、スタンダードブックストア(大阪・心斎橋など)のような、既存の書店という概念から大きく違う個性的な店舗がある。むしろソウルの書店主は、そのような日本の店舗に大きく影響を受けているようだ。そのような店舗は、弘大(ホンデ)に固まっている。ホンデは日本で言えば原宿と下北沢を足して2で割った感じの街で、ソウルのインディペンデント、インディーズカルチャーを体感したい場合は、避けて通れないマストタウンだ。

ホンデで2010年からカフェを営む日本人夫婦、「雨乃日珈琲店」の清水さんに話を聞くことにした。「雨乃日珈琲店」はホンデの中心部より少しだけ歩いた場所にある、心地いいカフェ。「雨の日」という名前から僕はハレとケ(ハレ=非日常、ケ=日常)の「ケ」の日に使えるお店というか、のんびり普段使いできる場所として居心地がいいなと思った。

■雨乃日珈琲店

「好きなことをやる居場所を作るためにカフェを始めた」との言葉通り、ライブやイベントも開催するなど、自由なスペースといった趣き。趣味のいい友人宅に遊びに来たような雰囲気。旅行客も話しかけてみて。
「好きなことをやる居場所を作るためにカフェを始めた」との言葉通り、ライブやイベントも開催するなど、自由なスペースといった趣き。趣味のいい友人宅に遊びに来たような雰囲気。旅行客も話しかけてみて。
看板は、書家としても活動している奥さんの作品。
看板は、書家としても活動している奥さんの作品。

店主であり、日本や韓国の雑誌でも執筆活動をするライターの清水さんに、ホンデに夢中になった理由について聞いてみた。

「元々はバックパッカーとしてアジアを中心に旅行していました。旅先でいろんな人種に会いますが、韓国人は日本人と風貌や雰囲気も似ていますし、それが最初の印象でした。2006年に留学でソウルに来て、ホンデで暮らすようになりました。ホンデでは、日本の音楽が好きな人が集まるミュージックバーがあって、そこに通ううちに友だちができました。ホンデはそれほど大きな町ではないし、仲良くなるとどんどん仲間が増えてきたんです」(清水さん)

ホンデの魅力にとりつかれた清水さんは、奥さんと一緒にカフェを始める。

「2010年に雨乃日珈琲店を作りました。当時、ライブハウスをスタッフとして手伝っていたんですが、人が作った場所に出入りするより自分の場所がほしいと考えるようになって。日本人でカフェをしている人は珍しいので、目立ちますね。店内の雰囲気が日本っぽいと褒めていただく機会が多いです。どうやら韓国人が考える日本っぽさは『無印良品』とかのイメージというか、シンプルで素材にこだわるみたいなイメージが強いようです。韓国に住んで、日本人だから嫌な目にあったことは一度もないですね」

雨乃日珈琲店で奥さんに淹れてもらったコーヒーは、当たり外れあるソウルのカフェで間違いないクオリティで、異国の慣れない地で飲むコーヒーだからか、余計に染み渡るものがあった。ソウルに行く機会があれば、ぜひ訪れてもらいたいおすすめのカフェ。そんな清水さんは韓国文化を日本に紹介する雑誌「スッカラ」(現在休刊中)や、韓国をテーマにした雑誌「中くらいの友だち」、他にもネットなどでライターもしている。好きなものは音楽。ということで、ソウルのインディーズシーンで注目のミュージシャンのなかから、あえて一人だけあげてもらった。

■イ・ラン

イ・ラン(リンクはFacebookページへ)は2010年代初頭にシーンに登場した1986年生まれの女性シンガーソングライター。バンドサウンドではなく、弾き語り系が多い韓国のインディーズシーンの今を体現する雰囲気でありつつ、「SMAP×SMAP」や「ロンドンハーツ」を見て日本語を覚えたという日本通な一面も持つ。チェロやウッドベースのようなアンプラグドな楽器を使うことが多く、無添加の魅力といった感じ。「技術の魅力というよりは、訴えかけてくるものがあります」(清水さん)

ちなみに、筆者はサマーソニック(日本のロックフェス)でHYUKOH(ヒョゴ)を知って韓国のインディーズシーンに興味を持ったという経緯がある。たとえば、Suchmos(サチモス)なんかが好きなサブカル女子にはぜひ聴いてもらいたいバンドだ。こちらは僕からおすすめしておく。

次に、清水さんおすすめのホンデのお店をいくつか紹介したい。これはどこの国でも同じだが、インディーズシーンはどこもつかむのがわかりづらく、とっつきづらいところが多い。たった数店でホンデのカルチャーを理解することは難しいだろうが、どれもホンデのとっておきのお店であることは間違いない。(お店のURLは記事の最下部にまとめています)

◆ストレンジフルーツ(ミュージックバー)

ホンデの駅から近い場所にあるミュージックバー。インディーズバンドのライブもよくやっている。

◆コプチャンチョンゴル(ミュージックバー)

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昔懐かし韓国の歌謡曲を流し、そこで若い男女と、かつて若かった男女が踊り狂うというピースフルなお店。

◆(一杯の)ルルララ(バー)

カフェだが、月曜ごとにライブもよく行っている。

◆THANKS BOOKS

ホンデの書店シーンを引率するアート系の書店。ギャラリーも併設されていて清潔感があるので、日本で言えば「NADiff」などの雰囲気に近い。

◆vinyl(バー)

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店名の通り、ビニール袋でドリンクを提供するという一風変わった趣旨のバー。店内はめちゃくちゃ狭いが、通りに面しているので、夜ともなればみんな通りにせり出しながら飲む。おしゃれな外国人に人気。

まあ、お店の紹介がこの記事の主旨ではないのでそろそろ終わりにするが、とにかくホンデという町は奥が深い。好奇心が強そうな清水さんが7年も飽きずにホンデでお店を続けているのも、わかる気がする。再び清水さんの話に戻ろう。

「韓国はそれほど人口の多い国ではありませんが、インディーズカルチャーのシーンは他国に引けを取りません。ただ、お金にはならないので、自分たちの好きなことを情熱の赴くままに好きにやっているという印象です。それに、若者があまり深く考えずお店を出すスピード感があるように思います。深く考えずに始めるというと悪く聞こえるかもしれませんが、考えすぎずにとりあえずやってみるという軽さは、学ぶところがあると考えています。逆に僕らは考えすぎなのかもしれませんよね」

韓国のインディーズシーンは、スピード感にあふれている。そして、自分たちでとにかくやってみようというインディペンデントな魅力。それゆえ、移り変わりも早いが、だからこそ一瞬のきらめきを面白くも感じる。

【インフォメーション】

ソウルはお店の閉店、移転のスピードが速く、また営業時間の変更なども多いので、住所などの情報よりも確実な、お店のURLを掲載しておきます。URLを持たない店舗については、FacebookやNaverページなどにリンクをしています。韓国語だったり英語だったりするのですが、営業時間や住所などの参考にしてください。

DOREDORE(カフェ)

http://doredore.co.kr/

ZAPANGI(カフェ)

https://www.instagram.com/zapangi_official/

雨乃日珈琲店(カフェ)

http://amenohicoffee.com/

ストレンジフルーツ(バー)

https://www.facebook.com/strangefruit.seoul/

コプチャンチョンゴル(バー)

https://store.naver.com/restaurants/detail?id=19866845

(一杯の)ルルララ(カフェ)

https://www.facebook.com/caferuloorala

THANKS BOOKS(書店)

http://thanksbooks.com/?ckattempt=1

vinyl(バー)

http://www.diningcode.com/profile.php?rid=HuTLTTSnsz4a