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抜本改革は過去プロジェクトの“断捨離”と“供養”から――改革シェルパの秘密のノウハウ(その1)

上山信一慶應大学名誉教授、経営コンサルタント、大学院至善館特命教授
改革は山登りに似ている(出典:写真AC、クリエーター:チョコクロさん)

私は「改革屋」である。30-40代には14年間にわたってマッキンゼーのコンサルタントとして大企業の改革を手掛け、この20年ほどは企業改革に加え、行政改革(橋下改革、小池改革など)や病院、美術館、大学、NPO、財団、さらにお寺の改革なども手掛けている。本務は大学で改革論、企業経営、公共政策を教える研究者・学者だ。だが同時に「組織のコンサルタントですか」と問われれば否定はしない。多くの場合、改革を決意した企業や自治体、団体等の社外役員や顧問などの役職となる。そして経営トップを直接サポートする。結果的にいろいろな組織で半分外部、半分内部の兼職を引き受けている。

〇改革シェルパとは何か?

 改革の道筋は必ず経営トップ(社長、知事、市長、理事長など)と一緒に設計する。改革は未踏の山に登る厳しさがある。主役はあくまでも経営者である。経営者がこれなら挑める、挑みたいというピークを探し、そこに向けた登攀計画を設計する。ある経営者は私のことを「改革のシェルパ」と呼んだが言いえて妙だ。確かにこれまで経営者と一緒に改革という道なき山を登ってきた。その数はおよそ100くらいになる。絶体絶命の危機に瀕したり(東京五輪の予算調査チーム)、抵抗勢力に追い出され、あとから巻き返した(大阪市の行財政改革)こともあった。この連載では四半世紀にわたって改革シェルパとして私が培ってきた改革術を経営トップや後に続く改革屋の皆さんにお伝えしていきたい。

〇組織とどうかかわるか?

 私のような組織外の人間が改革を手伝うきっかけは様々だ。一番多いのは社外役員、経営コンサルタント、会計士、弁護士、機関投資家などの方々が「私の職分では手に負えない」と相談に来られる場合。あるいは二代目経営者、経営企画担当、若手社員グループ、まれだが組合幹部からの相談もある。もちろん経営者からの依頼で手伝う場合も多い。

 コミットの期間は概して長い。大阪の維新改革の場合は、橋下徹氏が知事に就任した2008年から始めて今も続き、まだ課題は尽きない。企業の場合はもっと短くて3年程度だが社員数1万人を超える企業の場合、10年以上のお付き合いが多い。組織内では何かの役職をいただき、役員会や理事会には必ず出る(社外役員、顧問、改革委員会議長等)。そうでないと経営と組織の全体観が得られないし、社員から正しい情報を出してもらえない。だからいわゆる社外の「コンサルタント」よりも踏み込んだところに位置させてもらっている。

==〇今やっている改革プロジェクトの“断捨離”と“供養” == 

 さて「改革」は、どこから始めるか。意外に思われるかもしれないが、私は新しい改革に取り組む前に、今やっている改革の棚卸(わたしは“供養”あるいは“断捨離”と呼ぶ)から始める。官民問わず、大きな組織には立ち消えの改革、理想的過ぎて挫折した改革、間違った目標に向けた改革、などが転がっている。今ある課題の分析やビジョンを描く前にこれら過去の改革の経過と現状を確認し、それを整理、あるいは終息させる必要がある。

 改革はかつては稀にやる作業だった。だが今やどこの組織でも何らかの改革に取り組んでいる。新しい改革は、それらとの整合性が後で問われることが多い。また、とん挫した改革の多くは意図は正しいが、手法が間違っていたものが多い。だからこれらの棚卸の作業は今後の改革の設計のヒントになる。あともう一つ大事なことは関係者の“供養”である。過去プロジェクトの関係者は勇気あるパイオニアである。私たち外部プロは彼らにまずリスペクトを示すべきである。だから彼らがやってきた作業の棚卸をし、彼らの勇気と努力と成果を讃える。こうやって組織全体として過去を総括し、また訣別し、それから新しい改革に向けた気持ちを醸成していくのである。

〇改革の設計

 改革は未踏の山の登山である。だから改革シェルパは経営者の意欲とスキルにあったピーク(目的地)を決め、そこに至る道筋を設計する。素人がやる改革と私たちプロがやる改革の最大の違いはこの作業にかけるノウハウとエネルギーだと思う。そこで次回以降はこれらをじっくり解説していきたいが、だいたい以下の10個の作業が改革という“登山”の前には必要になる。

1.過去の改革プロジェクトの棚卸をして“断捨離”と“供養”をする

2.何もしない場合の将来想定:ホラーストーリーの見える化

3.新たな需要の取り込みの可能性を探る:LCC、24時間フィットネスクラブ、『大阪維新の会』の例に学ぶ

4.とにかく3つの選択肢を出してみる:組織の思考停止を脱する決め手

5.期限と目標を定めてどこかとキャッチボールを始める

6.必ずトップを抱くチームワークにする:対外交渉でレバレッジ効果を得る秘訣

7.書きたくないこと、見たくないことを書類で「見える化」する

8.議題がなくても定例会議を設定する

9.常にチームを褒める。小さな進捗を祝う

10.追いつめると同時に助ける。第3者を呼び込む

 次回以降の連載では、これらについて順次、解説していきたい。(つづく)

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慶應大学名誉教授、経営コンサルタント、大学院至善館特命教授

専門は戦略と改革。国交省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)を経て米ジョージタウン大学研究教授、慶應大学総合政策学部教授を歴任。アドバンテッジ・パートナーズ顧問のほかスターフライヤー、平和堂等の大手企業の社外取締役・監査役・顧問を兼務。東京都・大阪府市・愛知県の3都府県顧問を歴任。著書に『改革力』『大阪維新』等。京大法、米プリンストン大学院修士卒。これまでに世界119か国を旅した。オンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/。1957年大阪市生まれ。

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