高プロ制度「きほんのき」(2):「時間ではなく成果で評価」は法に規定なし。成果をあげても報われない?

(写真:アフロ)

<要旨>

高度プロフェッショナル制度は「時間ではなく成果で評価する制度」と紹介されてきた。だが高プロは労働基準法の改正。同法は最低限の労働条件を定めるもの。成果主義の評価制度など、そもそも同法には盛り込めない。

 働き方改革関連法案に含まれる高度プロフェッショナル制度(高プロ)について、第1回は「労働時間の規制を外す」とは、使用者にとっての縛りがなくなることだ、と解説した。

高度プロフェッショナル制度「きほんのき」(1):「労働時間の規制を外す」→でも労働者は時間で縛れる(上西充子)- Y!ニュース(2018年6月7日)

 第2回の今回は、高プロについて、「働いた時間ではなく成果で評価する」制度であるかのように紹介されてきたが、それは間違った宣伝文句だということを説明していきたい。

「働いた時間ではなく成果で評価」と、NHKなどで繰り返し報じられてきた

 「働いた時間ではなく成果で評価するとして労働時間の規制を外す高度プロフェッショナル制度」。この表現は、NHKなどで繰り返し使われてきた(詳しくは下記を参照)。

「成果型労働」「成果で評価する」という誤報が止まらない(佐々木亮)- Y!ニュース(2017年7月22日)

<高プロ>誤報を続けているのは日経のみ(佐々木亮)- Y!ニュース(2018年3月10日)

 この佐々木亮弁護士をはじめとした日本労働弁護団の弁護士による報道機関への繰り返しの要請によって、最近になってようやく、NHKはこの表現を使わなくなったが、今国会の開会前日の1月21日のNHK「日曜討論」でも、まだ、高プロについては、「働いた時間ではなく成果で評価」という説明がついたフリップが示されていた(下記の記事を参照)。

労働時間規制の強化を前面に出しつつ緩和を同時にもくろむ「働き方改革」一括法案を、日曜討論で野党が批判(上西充子)- Y!ニュース(2018年1月21日)

「働いた時間ではなく成果で評価」という規定は、法案のどこにも記載はない

 しかし、高プロは、「成果で評価」する制度ではない。そんなことは、法改正案のどこにも書いていない。

 法改正案は厚生労働省のホームページの「『働き方改革』の実現に向けて」に全文が掲載されているので、「本当だろうか」と思ったら、ぜひ確認していただきたい。「法律案新旧対象条文」のp.11の労働基準法第41条の2が、高プロに関する条文だ。

 この高プロに関する条文の主要部分は、下記の戸館圭之弁護士による記事の末尾(4ページ目)にも掲載されている。そちらの方が見やすいので、ぜひ、内容を一読していただきたい。

「高度プロフェッショナル制度」に隠された罠 年収400万円も狙う「残業代ゼロ法案」の含み(戸館圭之)- 東洋経済オンライン(2018年6月3日)

 もっとも、法律案要綱には、高プロに関する条文の見出しとして「特定高度専門業務・成果型労働制」と書かれてあった(法律案要綱のp.9)。なので、高プロが法改正により創設されることになれば、「高度プロフェッショナル制度」と呼ばれるのではなく「特定高度専門業務・成果型労働制」と呼ばれることになるのかもしれない。

 しかし、法改正案の条文では「特定高度専門業務・成果型労働制」という見出しは消えている。かわりに設けられている見出しは「労働時間等に関する規定の適用除外」だ。この「適用除外」とは、労働時間規制を外す、ということであり、それは労働者が自由に働けるようになることを意味するのではなく、使用者を縛っていた規制を外すことを意味している。前回に説明した通りだ。

 前回のおさらいになるが、高プロに関する法改正のメインの条文は、これだけである。

・・・ときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない

(法律案新旧対照条文のp.11。労働基準法第41条の2)

 高プロは労働基準法を改正して、適用対象者を働かせる上で使用者に対して、労働基準法の労働時間規制を守らなくても良いとするものであり、それ以上のものではない。

労働基準法は、労働条件の最低基準を定めるもの

 法改正案のうち高プロに関する法改正案の条文のどこを見ても、「成果」などという文字はない。しかしこれは、労働基準法がどういう法律であるかを知っていれば、実は、当たり前のことなのだ。

 労働基準法はその第1条に、こう記している。

(労働条件の原則)

第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

○2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

 つまり、労働基準法は、労働条件の最低基準を定めているものなのだ。

 だから、前回見たように、1日8時間を超えて働かせてはならないとか、8時間を超えて働かせるためには三六協定を結んでその範囲内でしかダメだとか、その場合も割増賃金の支払いが必要だとかが、定められているのだ。

 ほかにも、休日を与えなければならないとか、休憩を与えなければならないとか、賃金は最低賃金を上回らなければならないとか、男女で賃金などの差別をしてはならないとか、強制労働はダメだとか、労働条件は労働契約に際して明示しなければならないとか、好き勝手に解雇してはダメだとかは、定められている。

 しかし、賞与(ボーナス)を支払えとか、退職金を支払えとか、昇給させろとか、交通費を支払え、とかは書いていない。それらは、各企業において使用者と労働者の間で決めるべき事だからだ。そして労働基準法は、上に見たように第1条の二項において、労働関係の当事者(つまり、使用者と労働者)に、この労働基準法が定める労働条件を向上させるように努めなければならない、と定めているのだ。

 労働基準法とはそういう法律なのだから、各企業が、賃金を支払う上で、成果を評価しようが、勤続年数を評価しようが、知識・スキルを評価しようが、意欲や熱意を評価しようが、知ったことではないのだ(国籍や性別などを評価することは、差別にあたるので、ダメ)。

 上の記事で佐々木亮弁護士が指摘しているように、今でも成果型の賃金体系を企業が採用することは、自由にできる。高プロに移行して初めてそれができるわけではない。そして、高プロの適用労働者に対し、成果型の賃金体系を採用しなければいけないと法が定めているわけでもない。

高プロを適用すれば、残業代を払わずに済む

 「成果で評価」することは現行法でもできるが、通常の労働者に残業代を払わないことは違法だ。一方で、高プロだと、残業代を払わなくても違法ではなくなる。裁量労働制だと、「みなし労働時間制」なので、実際の残業時間に応じた残業代は支払わずに済むが、深夜や休日の割増賃金は支払わなければならない。高プロだと、それも支払う必要がない。

 だから、「働いた時間ではなく成果で評価する」という宣伝文句のうち、「働いた時間ではなく」の部分は、まだしも、法改正の中身をある程度反映している。時間外労働や深夜労働、休日労働について、労働基準法が定める割増賃金を支払わなくてもよくなるのだから。

 しかし、「成果で評価する」ことについては、法はなんら求めていない。なので、「働いた時間ではなく成果で評価する制度」という宣伝文句が意味することは、実際には、

いくら時間をかけて仕事をしても、時間外労働の割増賃金も深夜労働の割増賃金も、休日労働の割増賃金も支払わないからね。じゃあ、何に対して賃金を支払うか、って?・・・まあ、成果かな?

というぐらいのことでしかない。そして、その「成果」を使用者が適正に評価してくれる保証など、何もないのだ。

 いや、むしろ、高プロに移行すれば、あなたの成果は、今よりもさらに、評価されなくなる恐れがある。どういうことか、見てみよう。

あなたの成果を正しく評価してくれるなどと、なぜ期待できるのか?

 具体的な事例で考えてみよう。あなたは共働きであるため、集中して仕事をして、毎日の残業は2時間にとどめていると仮定しよう。一方で同じ職場の同期のAさんは、マイペースで仕事をして、毎日1時間の残業をしていると仮定しよう。そして、あなたの方が仕事の密度は高く、質も高いにもかかわらず、あなたの頑張りは正当に評価されておらず、縁故採用であるAさんと、あなたの基本給は、同じだと仮定しよう。

 その場合、通常の労働時間制であれば、あなたはAさんの2倍の残業代を受け取る。本当はあなたは集中して密度高く仕事をしているのだから、少なくともAさんの3倍の残業代をもらってしかるべきだと思っているかもしれない。Aさんは1時間のダラダラ残業で、自分の半分の残業代をもらっていてずるい、と。

 さて、あなたとAさんが、共に高プロに移行したら、どうなるだろう。高プロの年収要件はまだ決まっていないが、ここでは便宜的に、法改正後の省令で、1,075万円以上に決まったと仮定しよう。

 使用者は、Aさんにもあなたにも、年額で1,075万円の契約を結べば、追加の残業代は払わずに済む。Aさんは、相変わらず、マイペースで仕事を続けている。一方、あなたには、さらに高い成果が期待され、その成果をあげるために要する時間も増え、懸命に仕事をしても、1日に3時間の残業相当の時間が必要になってきた。

 さて、使用者は、Aさんとあなたの成果を正しく評価してくれるだろうか?

筆者作成
筆者作成

 それは、成果をどのように評価するか、また評価の内容をどのように賃金に反映させるかという、会社の仕組みによるだろう。高プロの導入にあたっては、労使委員会で決議を行うことが必要になっているので、その決議の中に仕事の内容や評価の在り方を詳しく書き込むことはできる。しかし、それはあくまで、それぞれの会社の労使委員会が決めることだ。

 その会社の労使関係の中で労働者の側の力関係が弱ければ、いくら成果をあげても、それが正しく評価され、正しく賃金に反映されないことは十分に起こりえる。そもそも、残業代を払わずに済む仕組みとして高プロを導入するような企業であれば、成果を適正に評価する労力をかけようとはしないかもしれない。仕事ができるあなたに、追加の仕事を求めても、追加の賃金は必要ないのだから、「これはお得な仕組みだ」と思っているかもしれない。

 通常の労働時間制であれば、あなたは1日2時間分の残業代を受け取ることができた。しかし、1日3時間の残業相当時間が必要になっても、もはやあなたには3時間時間の残業相当時間に対する支払いを受け取る権利がない。会社は評価の手間を惜しんで、Aさんにもあなたにも、同額の1,075万円を支払うことで済ませるかもしれない。そうなれば、あなたがいくら成果をあげても、その成果は正当に報われないことになる。

実態に応じた残業代の支払いが不要な裁量労働制では、仕事の負担が重い者に不満

 より高い成果をあげるには、より多くの時間をかける必要がある場合も多いだろう。しかし、高プロに移行すれば、労働者がより多くの時間をかける必要があっても、使用者は残業時間に応じた残業代を支払う必要は、いっさいなくなる。時間をかけてもそれが賃金に反映されない、そして成果をあげても、それが適正に賃金に反映されない可能性がある。そうすると、どうなるか。頑張るけれども報われない人の不満は、通常の労働時間制の場合よりも、さらに高まる可能性があるのだ。

 その様子は、裁量労働制の適用を受けた労働者の声から伺うことができる。労働政策研究・研修機構が厚生労働省の要請によって2013年に行った裁量労働制の労働者に対するアンケート調査(注1)の自由記述結果が立憲民主党の長妻昭議員らの求めに応じて2018年4月16日に労働政策研究・研修機構のホームページで公開されたのだが、それを見ると、仕事量が多くなっても裁量労働制であるために残業代が増えないことに対する不満が次のように表明されている。

 同じことは高プロでも十分に起こりえる(カッコ内の「専門」は「専門業務型裁量労働制」、「企画」は「企画業務型裁量労働制」を指す。いずれも、「A 厚労省が無作為抽出したサンプルの事業場」における労働者調査の自由記述である)。

●同じ裁量労働適用者の中でも、1日4~5時間の人もいれば、毎日12時間働いている人もいて、若干不平等さを感じることがある(専門・通番69)

●裁量と言いながら業務量は上司が判断している場合が多い。業務量が大幅に増えて労働時間が長くなっても給与に反映しない(残業代が出るわけではないので)(専門・通番135)

●部署によって、仕事量が違い過ぎているため、残業する部署と残業しない部署がはっきりと分かれている。これは個人能力の問題ではないので、この格差が解消しなければ、本来の裁量労働制の、目的が達成されず、ただ単に企業の賃金抑制にしかならないので、会社側の管理能力も問われる制度であると考えます(専門・通番297)

●業務量が多くなり、労働時間も増え、裁量の範囲を超えている。社員の残業代支払い削減の為に導入しているとしか思えない(企画・通番116)

●裁量者に対する処遇の見直しをしてほしい。仕事量と賃金、対価を見合う様にして欲しい(企画・通番164)

●一般社員の裁量労働制に反対。年収が減った上に、会社から求められている要求の量、レベルが上がった(企画・通番172)

●従来の人事評価制度で裁量労働制が導入されており、成果に対する評価制度が実態に即していない。会社が違法残業を合法化する手段として導入している様に感じる(企画・通番178)

 通常の労働時間制度であれば、より仕事量が多かったり、より高い成果を求められたりして残業時間が長くなれば、その残業時間は割増賃金で報われた。しかし、裁量労働制では、使用者は「みなし労働時間」に対してだけ賃金を支払えばよいので、より仕事ができる人により多くの仕事を任せることが「お得」になる。その中で、適正な評価を行う必要は、必ずしも、ない。

 高プロも同じことは十分、起こりうる。「成果で評価する制度」に、なるかもしれないし、ならないかもしれない。使用者が手抜きをすれば、ならない可能性も高い。そして、法律は、あなたが高プロに移行した場合に、成果に応じて正当に評価されることを、なんら保証しない

 だから、「働いた時間ではなく成果で評価」と言われてきたが、そこから受け取るべきメッセージは、「残業代は出ないよ」ということだけだ。

 正確に言うと、NHKは語り口としては、「働いた時間ではなく成果で評価するとして、労働時間の規制を外す高度プロフェッショナル制度」という言い方を続けてきた。あくまで「として」なのだ。つまり、政府の宣伝文句なのだ。それはNHKもわかっていたのだろう。けれど、フリップでは「働いた時間ではなく成果で評価」と表示し続けてきた。

 使用者にとってメリットがあり、労働者にとってメリットがない高プロを法改正によって成立させるために、政府は平気で嘘の宣伝文句を並べる。希望的観測を述べる。メディアにもその宣伝文句を使うように求めたのだろう。

 法改正案に書かれていないことがあたかも法改正で実現するかのように、だまされないようにしよう。

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(注) 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果」JILPT調査シリーズNo.125、2014年5月