裁量労働制のねつ造された比較データ、バレないための隠蔽プロセスを検証(第4回)(全7回予定)

(ペイレスイメージズ/アフロ)

<概要>

これまで、裁量労働制をめぐる比較データがどう作られたかを見てきた。意図的に作ったものではないとされているが、作成された比較データには、ねつ造を疑われないための隠蔽が加えられていることを、今回は検証する。

<全7回の連載目次(改訂版)>  ※第1回 ※第2回 ※第3回

筆者作成
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はじめに

 前回までで、裁量労働制をめぐる比較データとは、どう作られたものであったかを見てきた。改めて整理すれば、下記の通りだ。

【1月31日に加藤大臣が参議院予算委員会の答弁で説明した比較データ】

●私どもの平成25年度労働時間等総合実態調査、これ、厚生労働省が調べたものでありますけれども、平均的な一般労働者の時間が9時間・・・、これは1日の実労働時間ですが、9時間37分に対して、企画業務型裁量労働制は9時間16分と、こういう数字もある

【(これまでに判明している限りにおいての)実際の比較データ】

●一般労働者の「平均的な者」の「最長」の1日の実労働時間(法内残業の有無を無視した過大推計):法定労働時間(8時間)+「最長」の1日の法定時間外労働の実績の平均(1時間37分)=9時間37分

●企画業務型裁量労働制の「平均的な者」の「労働時間の状況」:9時間16分

 全く比べられないものを比べているのだが、一般労働者の「平均的な者」の1日の法定時間外労働の実績が「最長」の1日のものであったことが報告された2月19日の記者会見でも、厚生労働省幹部は、この比較データを、「意図的に作ったものではない」と説明した(朝日新聞2月20日「不適切資料、故意は否定」)。

 また、加藤大臣は2月26日の衆議院予算委員会において、真相究明を求める長妻議員に対し、「(作成経緯を聞いても)特段不自然なところもないと思いますので」と、真相究明の必要性を認めない姿勢を示した。

 そこで連載の第4回となる今回は、それらの厚生労働省幹部や加藤大臣の見解に抗して、比較データを「ねつ造」と考える根拠を示していきたい。

 まず、2015年3月26日に厚生労働省が当時の民主党の厚生労働部門会議に示した「民主党への提供データ」の内容を検討する。「意図的に作ったものではない」のならば、このような示し方にはならないことを指摘する。この「民主党への提供データ」には、「ねつ造と隠蔽の痕跡」が、少なくとも10点、認められるのだ。

 次に、この「民主党への提供データ」と「答弁の参考資料」を比較し、答弁資料に作り変えられる過程においても、不自然な変更が加えられていることを確認する。

3.比較データに見られるねつ造の痕跡の検証

3-1. 「民主党への提供データ」に見られる10点の「ねつ造と隠蔽の痕跡」

 まず検討するのは、2015年3月26日に厚生労働省が当時の民主党の厚生労働部門会議に示した、下記の「民主党への提供データ」だ。裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度の創設という、働き方改革関連法案に織り込まれていた内容は、すでに2015年の労働基準法改正案(残業代ゼロ法案)に織り込まれており、それは同年4月6日に閣議決定されたのだが、この「民主党への提供データ」が厚生労働省から示されたのは、その直前のことだった。

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(出所)民進党ニュース:「働き方改革虚偽データ疑惑」野党合同ヒアリング(2018年2月15日)配布資料

 この比較データは、「意図的に作ったものではない」とは、考えられない。筆者の目には、10点の「ねつ造と隠蔽の痕跡」が認められる。

 もし厚生労働省が誠実に民主党の要請に応えようとしていたのなら、このような「ねつ造と隠蔽の痕跡」はないはずだ。実際にはねつ造したにもかかわらず、これをねつ造と悟られないようにしようと工夫したような痕跡が、見られるのである。

 具体的に指摘していこう。下記のオレンジ色に囲った箇所だ。

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(出所:上記資料と同じ:枠は筆者による)

【ねつ造と隠蔽の痕跡】(上記の表のオレンジの囲みを参照)

(1)  「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の時間数は、実際は「労働時間の状況」であるのに、タイトルや(注1)や(注2)では、「労働時間」と表記している

(2)  一般労働者の11時間11分と9時間37分は、計算式で求めたものであるのに、その旨を記載していない

(3)  裁量労働制の欄(「専門業務型裁量労働制」・「企画業務型裁量労働制」)と「一般労働者」の欄では、上記の痕跡(1)と痕跡(2)の通り、違うものをとらえているにもかかわらず、問題なく比較できるかのように、1つの表にまとめて記載している

(4)  上記の痕跡(2)に示した計算式では、実際の実労働時間は算出できず、法内残業の有無が考慮に入れられていないため、過大推計になることを明記していない

(5)  一般労働者の「平均的な者」と「最長の者」の欄は、「最長」の1日の法定時間外労働の実績を表していることを、明記していない

(6)  実際は上記の痕跡(5)に示した通り、「一般労働者」のデータは「最長」の1日のものであるにもかかわらず、(注1)には、「表は調査対象期間における1日当たりの労働時間の平均を示したもの」という、事実と異なる注記がある

(7)  上記の痕跡(2)の通り、計算式によるデータを含んでいるにもかかわらず、「※平成25年度労働時間等総合実態調査(厚生労働省)」と、あたかもこの表が、調査結果のデータそのものであるかのように表記している。「出典」とは書かず、「※」と印をつけることにより、あたかもそれが出典の表記であるかのように装っている

(8)  「平均的な者」の定義を明記していない

(9)  「一般労働者」の労働時間の下限値は8時間であるにもかかわらず、あたかも「7時間以下」も存在するかのように装っている

(10)  (注3)の「統計上集計を行っていない」が意味不明である。個票データから集計を行うことは本来、可能である。にもかかわらず、集計できないかのように装っている。上記の痕跡(9)の問題をごまかすために、このような説明が行われている

 それぞれ、より具体的に説明していこう。

3-2. 痕跡(1)

 「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の時間数は、実際は「労働時間の状況」であるのに、タイトルや(注1)や(注2)では、「労働時間」と表記している

 連載第2回の「2-4」に記したように、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制のデータは、「労働時間の状況」をとらえたものである。もともとの表(表52)のタイトルには、下記の通り、「労働時間の状況」という記載があった。

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(出所)厚生労働省「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」表52

 しかし上記の「民主党への提供データ」では、あたかも「労働時間」をとらえたものであるかのように記載されている。

 連載第2回の「2-4」に記したように、「労働時間の状況」とは、実労働時間ではない。健康・福祉確保措置の一環として、出退勤時刻などを把握したものだ。実労働時間とは、大きく乖離している可能性がある。例えば、昼食のための休憩を除外していない可能性がある。にもかかわらず、そのようなデータである旨の注記がない。

 もし民主党に誠実に情報提供する意思が厚生労働省にあったのであれば、「労働時間の状況」と記載し、その定義も紹介しなければならない。

 しかし、そのような定義を紹介すると、裁量労働制の労働者と一般の労働者について、比べられないものを比べていることが、バレてしまうのだ。だから、そのようには書けなかったのだ。

3-3. 痕跡(2)

 一般労働者の11時間11分と9時間37分は、計算式で求めたものであるのに、その旨を記載していない

 連載第2回で述べたように、これらは計算式によって算出されたものだ。9時間37分についてみると、2月7日の時点では、次の計算式によると説明されていた。

●法定労働時間(8時間)+1日の法定時間外労働の実績の平均(1時間37分)=9時間37分

 しかし、2月19日に判明したところでは、実際は次のように、「最長」の1日について計算式で算出したものだった。

法定労働時間(8時間)+「最長」の1日の法定時間外労働の実績の平均(1時間37分)=9時間37分

 いずれにしても、実際の調査結果そのものではないのだから、計算式によるデータであることを注記し、その計算式も示さなければならない。

 しかし、そのような計算式によるデータであることを注記すると、これもまた、裁量労働制の労働者と一般の労働者について、比べられないものを比べていることがバレてしまうのだ。だから、そのようには書けなかったのだ。

 これに関連する質疑がある。2月26日の衆議院予算委員会で黒岩宇洋議員は、うっかりミスはありえないとこう指摘している。

黒岩議員

 調査自体にも本省担当者が、法令係が深く関与し、そして、集計結果についても、分析結果についても、常に調整と了解をしながら行っている。

 そして、この(引用者注:平成25年度労働時間等総合実態調査の)調査も集計も分析も徹底して関与し、管理下のもとに置いていた担当課の人間が、比べちゃいけないこの一般労働者と裁量労働者の時間数を比べる、ましてや、法定外時間の1.37(引用者注:正しくは1時間37分)を法定時間の8に足す、こんなことをうっかりミスで行うと、大臣、思えますか。

 これに対し、加藤大臣はこう答えている。

加藤大臣

 1時間37分を8時間に足した、これは、それ以外に全体の労働時間を足しようがなかったので、そういったことも、法定外労働時間ですから、法定時間を足してというのはあると思いますが、しかし、そういったことは統計等には普通、注意書きでするというのがやはり求められる態度だったというふうに思います。

 そうなのだ。普通なら、注意書きがあるのだ。しかし、この「民主党への提供データ」には、計算式の注意書きがない。なぜか。比べてはいけないものを比べていることが、バレてしまうからだ。

 加藤大臣は当然、そのことはわかっていただろう。しかし、普通、計算式によるデータであれば注意書きで説明するのが求められる態度だと、ある意味、常識的な見解を示しながらも、それが行われなかったことを、ことさらに問題視しない。注意書きが行われなかった理由(ねつ造がバレないようにするためという理由)が、加藤大臣には自明であったからだろう。

 つまり、黒岩議員の指摘に同調する様子を見せながら、実際のところは、加藤大臣は、黒岩議員の指摘を受け流しているだけなのだ。

3-4. 痕跡(3)

 裁量労働制の欄(「専門業務型裁量労働制」・「企画業務型裁量労働制」)と「一般労働者」の欄では、上記の痕跡(1)と痕跡(2)の通り、違うものをとらえているにもかかわらず、問題なく比較できるかのように、1つの表にまとめて記載している

 痕跡(1)と痕跡(2)で述べたように、裁量労働制の欄(「専門業務型裁量労働制」・「企画業務型裁量労働制」)と「一般労働者」の欄では、とらえている時間の意味が全く違う。だから、そもそも比較できるものではない。にもかかわらずあえて比較するならば、よほど丁寧に注記が必要だ。

 しかしそのような注記もないまま、どちらも同じ「労働時間」をとらえており、だから比較できるかのように、同じ表の中に何の説明もなく並べられている。そのように何も問題がないかのように並べておかないと、比べられないものを比べていることがバレてしまうからだ。

3-5. 痕跡(4)

 上記の痕跡(2)に示した計算式では、実際の実労働時間は算出できず、法内残業の有無が考慮に入れられていないため、過大推計になることを明記していない

 この点は連載第2回の「2-3」で指摘した。上記の痕跡(2)に示した計算式では、「1日の法定時間外労働の実績」の下限値は0時間になってしまうため、下記のモデルケースのCさんのように実労働時間が8時間に満たない人も、労働時間が8時間とみなされてしまい、結果的に計算式の結果は実態よりも過大に推計されてしまうのだ。

筆者作成
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 だからそもそも、このような計算式は不適切なのだが、もしそれでも、推計値であっても、なんとか実態に近いデータを算出したい、ということであったのならば、きちんと推計値であることと、過大推計になっていることを明記しなければならない。

 しかし、そうは明記されなかった。明記したら、比較できないものを比較していることが、バレてしまうからだ。

 ところで、上記の「3-3」で紹介した加藤大臣の答弁には、

それ以外に全体の労働時間を足しようがなかったので

という表現が見られる。

 上記のBさんとCさんは、法定時間外労働の時間はともに0時間であり、法内残業は調査でデータをとっていないので、法内残業の有無を計算式には適切に反映できない。だから、実労働時間に近いものを出そうとすれば、法定労働時間の8時間に法定時間外労働を足すしかなかった。「それ以外に全体の労働時間を足しようがなかった」のだ。

 しかし、そもそもなぜ、そのような無理な計算式で計算を行う必要があったのか?

 連載第1回の「1-2」に示したように、厚生労働省は労働政策研究・研修機構に要請して裁量労働制に関する調査を実施させており、そこでは労働者に直接、1カ月の実労働時間を尋ねていた(下記)。

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(出所)労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果」(JILPT 調査シリーズ No.125)2014年5月、p.22

 これは、比較してはいけないものを比較したものではない。個々の労働者が、それぞれみずからの1カ月の実労働時間を回答したものだから、比較することには何の問題もないものだ。

 この調査結果は、民主党に比較データが提示された2015年3月より前の、2014年5月に、冊子で公開されていた(今でも全文をPDFで見ることができる)。だから、民主党が裁量労働制に関する実態のデータを求めていたのなら、「平成25年度労働時間等総合実態調査」から無理な推計をするのではなく、この労働政策研究・研修機構の調査結果を示せばよかったのだ。

 しかし、そうはしなかった。なぜか。この労働政策研究・研修機構の調査結果だと、裁量労働制の方が労働時間が長い傾向が示されていたからだ。それだと、裁量労働制を拡大したいという政府の意向に合わないからだ。

 しかし、それが現実なのだから、民主党が実態のデータを求めていたのなら、それを正直に出すべきだった。しかし、それを出すかわりに、問題だらけの比較データを出したのだ。ねつ造の痕跡を丁寧に消したうえで。

 なお、通常ならば、労働政策審議会に推計値が示された場合は、それが推計値であることは明記される。下記に一例を示す。ここでは、大学の中退者数は推計であることが明記されているほか、その推計値の中には他大学への編入者などが含まれることなども、留意事項として明記されている。

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(出所)第54回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会(2014年9月17日)資料1

3-6. 痕跡(5)

 一般労働者の「平均的な者」と「最長の者」の欄は、「最長」の1日の法定時間外労働の実績を表していることを、明記していない

 連載第3回の「2-7」に示したように、2月19日になってからはじめて厚生労働省より調査票が開示されて判明したことだが、一般労働者の「平均的な者」と「最長の者」の1日の法定時間外労働の時間数は、「最長」の1日の時間を記入するようになっていた(下記)。

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(出所)民進党ニュース:「働き方改革虚偽データ疑惑」野党6党合同ヒアリング第4回を開催(2018年02月19日)「働き方改革虚偽データ疑惑」野党合同ヒアリング 厚生労働省文書

(枠は筆者による)

 しかし、「民進党への提供データ」には、一般労働者の「最長の者」の欄と「平均的な者」の欄が、「最長」の1日についてのデータであることは、明記されていない。明記したら、比較できないものを比較していることがバレてしまうからだ。

3-7. 痕跡(6)

 実際は上記の痕跡(5)に示した通り、「一般労働者」のデータは「最長」の1日のものであるにもかかわらず、(注1)には、「表は調査対象期間における1日当たりの労働時間の平均を示したもの」という、事実と異なる注記がある

 (注1)の記載だと、一般労働者の欄は、「調査対象期間における1日当たりの労働時間の平均を示したもの」でなければならない。しかし実際には、調査対象期間における「最長」の1日の法定時間外労働の時間数に法定労働時間の8時間を足したもの、だ。

 「1日当たりの労働時間の平均」という表記は、明らかに事実と異なる。

3-8. 痕跡(7)

 上記の痕跡(2)の通り、計算式によるデータを含んでいるにもかかわらず、「※平成25年度労働時間等総合実態調査(厚生労働省)」と、あたかもこの表が、調査結果のデータそのものであるかのように表記している。「出典」とは書かず、「※」と印をつけることにより、あたかもそれが出典の表記であるかのように装っている

 厚生労働省が労働政策審議会に提出している各種の配布資料を確認するとわかるが、どのデータも「出典」もしくは「資料出所」という表記がなされている。

 しかし、「民主党への提供データ」は「出典」でもなく「資料出所」でもなく、「※」と印がある。

 これだけ見ると、これが出典を示していると誤認されるだろう。しかし、実際はこれまでに見たように、計算式による推計値を含んでおり、実際の調査結果ではないデータが含まれている。したがって「出典」と記載すると、嘘になる。

 そこで「出典」とは記さずに「※」と記し、あたかもそれが出典の表記であるかのように装ったのではないか。

3-9. 痕跡(8)

 「平均的な者」の定義を明記していない

 「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」の公表冊子には、「平均的な者」の定義が明記されていた。連載第2回の「2-5」に示した通りだ。

 その定義は、「一般労働者」については、「調査対象月において最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働の層に属する労働者のことをいう」というものだった(なお、裁量労働制の「平均的な者」については、公表冊子には定義は明記されていない)。

 しかし、この「民主党への提供データ」には、公表冊子とは異なる定義が記されている。(注2)の「平均的な者:調査対象期間における労働時間が平均的な者のこと」だ。

 連載第2回の「2-5」で見たように、公表冊子に定義された「平均的な者」と、「労働時間が平均的な者」は、異なる。下記の仮想例でいえば、公表冊子に定義された「平均的な者」は、A事業場、B事業場、C事業場のいずれにおいても、分布の山である時間外労働が「1時間以下」の中から選ばれるが、「平均的な者」の定義が「調査対象期間における労働時間が平均的な者のこと」というものであるならば、A事業場なら1.6時間、B事業場なら1.7時間、C事業場なら0.7時間の時間外労働の者が選ばれなければならない。

筆者作成
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 なぜ公表冊子に記された「平均的な者」の定義をそのまま紹介しないのか。これもやはり、それを紹介すると、ねつ造がバレてしまうからだ。

3-10. 痕跡(9)

 「一般労働者」の労働時間の下限値は8時間であるにもかかわらず、あたかも「7時間以下」も存在するかのように装っている

「一般労働者」の労働時間は、実際は

法定労働時間(8時間)+「最長」の1日の法定時間外労働の実績

によって算出されている。したがって、その下限値は8時間である。そのため、「一般労働者」の「7時間以下」のセルは、本来は他のセルと結合せずに、下記のように空欄にしなければならない(下記の灰色の枠の部分)。

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(出所)民進党ニュース:「働き方改革虚偽データ疑惑」野党合同ヒアリング(2018年2月15日)配布資料 (「7時間以下」の部分の灰色の枠は、筆者が加えたもの)

 にもかかわらず、あたかも「7時間以下」にもデータがあるかのように装っている。なぜか。そうしないと、この「一般労働者」の欄のデータが計算式によるものであることが、バレてしまうからだ。

3-11. 痕跡(10)

 (注3)の「統計上集計を行っていない」が意味不明である。個票データから集計を行うことは本来、可能である。にもかかわらず、集計できないかのように装っている。上記の痕跡(9)の問題をごまかすために、このような説明が行われている

 なぜ「民主党への提供データ」では、「一般労働者」について、「7時間以下」から「8時間超10時間以下」までが、まとめた1つのセルになっているのだろうか。

 連載第2回の「2-2」に記した通り、2月7日に長妻議員が厚生労働省担当者にFAXで送らせて入手した下記の集計表では、最も左端のセルが「2時間以下」となっている。これに法定労働時間の8時間を足すと、「10時間以下」となり、結合されたセルと一致する(ただし、「7時間以下」のセルは本来、結合してはいけない)。

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(出所)民進党ニュース:「働き方改革虚偽データ疑惑」野党合同ヒアリング(2018年2月15日)配布資料

 しかし、「一般労働者」の(「最長」の)1日の法定時間外労働については、選択肢から選ばせているのではなく、上記「3-6」に示したように実際の時間数を聞いていたのだから、その個票データから再集計すれば、それぞれのセルごとのデータは算出できるはずだ。

 にもかかわらず、それを行わず、「統計上集計を行っていない」と、あたかも統計上の制約であるかのような注記がされている。なぜか。これも、本当のことを書くと、下限値が8時間であることがわかり、「3-10」に記したように、本来は空欄にしなければいけないセルが出てきてしまい、ねつ造がバレてしまうからだ。

3-12. なぜ、民主党にこのようなデータを提供したのか

 以上、「民主党への提供データ」に見られる10点の「ねつ造と隠蔽の痕跡」を見てきた。

 もし、他に適切なデータがなく、制約を承知の上で、限られたデータの中で少しでも実態に近づけたデータを民主党に提供したい、というのが2015年当時の厚生労働省の意思であったならば、上記に記したような様々な注記が必要だった。計算式や定義や、推計の限界を記すべきだった。しかし、そうしなかった。なぜなら、それらを正直に記せば、とても比較できるようなデータではないことが明らかだからだ。ねつ造がバレてしまうからだ。

 ねつ造がバレないように、ねつ造がうかがわれるような記載は一切せずに、あたかも比較できるものを比較したデータであるかのように体裁を整えた。それが、この「民主党への提供データ」である。

 2月19日に厚生労働省幹部は、これが「意図的に作ったものではない」と説明したというが(朝日新聞2月20日「不適切資料、故意は否定」)、ここに検証した通り、これが「意図的に作ったものではない」などと、よく平然と言えたものだと思う。

 では、どのような意図があったのだろう。

 連載第1回に安倍首相の答弁や加藤大臣の答弁として見たように、この比較データは、裁量労働制によって長時間労働が助長され、過労死が増える、という野党の批判に対して、反証のように示されていた。また、これも連載第1回に見たように、すでにこの比較データは、2015年の7月31日と2017年の2月17日の国会でも、野党議員に対する塩崎大臣の答弁に使われていた。

 野党の批判にデータで対抗すること、それがこの比較データの大きな目的だっただろう。

 そして、それをいきなり答弁で用いずに、まずは民主党に示したのは、なぜか。筆者はそれは、野党に対する「認識の刷り込み」であったと考える。裁量労働制の方が「実は」労働時間は短いのだという、認識の刷り込みである。

 いきなり答弁で、この比較データに言及があれば、「それはいったい、何の調査か?」と野党が問うて、厚生労働省にレク(説明)を求め、ねつ造がバレてしまっただろう。しかし、まず野党に厚生労働省が比較データを示して、「認識の刷り込み」を行った上で政府からこの比較データに言及があれば、

確かにそういうデータの説明を厚生労働省から受けていたな

と、特に疑問を抱くことなく野党議員が受け入れる可能性がある。そして、さらに、本省がみずから行った調査であるのなら、そちらのほうが実態を表しているのかもしれない、と認識を変える可能性もある。

 そのような策略が立てられた上で、まずは民主党に比較データを示し、その上で国会答弁で言及する、という順序で、この比較データが使われたのではないだろうか。

 とするとこれは、裁量労働制の拡大を、野党の批判をかわしながら成立させるという、深い意図のもとにねつ造されたものと考えることができる。

 ここでもう一度、連載第1回に示した1月31日の参議院予算委員会における加藤大臣の答弁を思い出してみよう。森本真治議員が、裁量労働制の拡大により、長時間労働が助長されるという、日本労働弁護団や「全国過労死を考える家族の会」の皆さんの懸念を紹介し、これらの皆さんの認識は「誤り」なのか、と問うたのに対し、加藤大臣は、笑いを含みながら、こう答弁していたのだ。

加藤大臣(参議院予算委員会、2018年1月31日、森本真治議員に対する答弁)

 ま、どういう認識のもとでですね(笑)、お話しになっているのかということがあるんだと思いますけれども、確かにいろんな資料を見ていると、裁量労働制の方が実際の、一般の働き方に比べて、長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います

 加藤大臣は、 「それぞれのファクトによって、見方は異なってくる」と語り、さらには、「私どもの平成25年度労働時間等総合実態調査、これ、厚生労働省が調べたものでありますけれども」と厚生労働省自身の調査であることを強調して、比較データを紹介していたのだ。

 筆者はここに、2015年3月の「民主党への提供データ」と同じ、「認識の刷り込み」の意図を読み取る。そして、加藤大臣も、この比較データがねつ造であることを、この答弁を行ったときから、重々承知であっただろうと考える。

3-13. 「民主党への提供データ」と「答弁の参考資料」の相違点

 最後に、これまで検討してきた「民主党への提供データ」と「答弁の参考資料」の相違点を確認しておこう。この「答弁の参考資料」は、今国会での「答弁の参考資料」として厚生労働省から野党側に示されたものであり、2015年当時のものと全く同じかどうかは、わからない。

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(出所)厚生労働省から長妻議員に、経緯説明のために示されたもの

 この「答弁の参考資料」を「民主党への提供データ」と比べると、次の相違点を見つけることができる。

●「民主党への提供データ」では「労働時間」となっていたが、「答弁の参考資料」では「実労働時間」と記載が変わっている

●「※」という記載であったものが、「出典」という記載に変わっている

 ねつ造は、さらに進んだようだ。

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(第5回に続く)

第1回)(第2回)(第3回