「異次元の危険性」がある高度プロフェッショナル制度を法案から削除し、働き方改革の真摯な議論を

(写真:アフロ)

<要旨>

 高プロの創設を一括法案に組み込んだまま、与党は審議入りを強行しようとしている。法の保護をはずれてしまうと、違法だとして問題を正す手がかりも失われる。法改正は、命と健康にかかわる問題だ。

4月27日に働き方改革関連法案の審議入り?

 4月6日に国会に提出された働き方改革関連法案が大型連休前に審議入りとなるか、与野党の攻防が激しくなってきた。

 与党は通常国会の会期内(~6月20日)の法案成立を図るため、国会の正常化を求める野党の要求に耳を貸さないままに、4月27日の衆院本会議で審議入りに踏み切る方針を固めたようだ。

働き方法案、綱渡り 27日に審議、与党方針:朝日新聞デジタル(2018年4月25日)

働き方法案、27日審議入り 自公幹事長が方針、野党は反発:共同通信(2018年4月25日)

 働き方改革関連法案の中で、もっとも与野党の見解が対立しているのが、高度プロフェッショナル制度(高プロ)の創設だ。与党は、高プロの創設も一括法案に組み込んだままの形で働き方改革関連法案の成立をねらっており、野党は、高プロの創設は法案から削除すべきと主張している。

「異次元の危険性」がある高プロ

 この問題に、世の中の関心がどれくらいあるのか、正直、よくわからない。いや、「関心」ではなく「危機感」とあえて言いたい。働くうえで法の保護を失うということの怖さを、想像していただきたいのだ。

 なぜなら高プロには、3月2日の参議院予算委員会で小池晃議員が語ったように、「異次元の危険性」があるのだから(こちらの速記録のp.40)。

 安倍政権が創設にこだわっている高プロは、労働者が働くうえでの最低限の基準を定めた労働基準法のうち、第4章に定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金についての規定を適用しない(適用除外)とするものだ。

 「適用除外」という言葉はなじみが薄いだろうが、要は、高プロの労働者に関しては、使用者はそれらの規定を守った働かせ方をしなくてよい、ということだ。働く人からすると、法の保護から外されるということだ。すると、どうなるか。

 労働時間は1日8時間を超えてはならない、という規定を守らなくてよくなるので、たとえば朝の9時に出社して、休憩なしで、夜は26時(午前2時)まで働け、と命じることもできてしまう(下記の記事を参照)。

高プロ制度は地獄の入り口 ~ High-pro systm is the gate to hell~(佐々木亮)- Y!ニュース(2018年4月10日)

 その際に、1日8時間を超える労働時間について割増賃金を支払う必要もないし、深夜割増や休日割増を支払う必要もない。一定の人件費で、極限まで働かせることができてしまうのだ。

 「無茶苦茶だ」と思うだろう。そう、無茶苦茶なのだ。

 安倍首相も加藤厚生労働大臣も高プロについて、「健康を確保しながら」と決まり文句のように言うが、その健康確保措置とは、年104日かつ4週4日の休日を与えることと、健康確保のための選択的措置ぐらいで、その選択的措置の中には健康診断の実施という使用者にとって負担が軽いものも含まれている。答弁でことさらに言及される健康確保措置とは、そんな薄っぺらいものでしかない。

 実際は毎朝9時に出社して、休憩もとらずに夜中の2時まで働くことは、できない。けれど、使用者が残業代の支払いもせずにそれを求めても、違法ではなくなるのだ。24時間連続勤務を連日にわたり求めることも、違法ではなくなる。

 3月2日の参議院予算委員会で、そのことを小池晃議員が指摘したとき、加藤大臣は

働かせるということ自体がこの制度にはなじまないということであります

と答弁した(こちらの速記録のp.41)。

 しかし、「なじまない」とは言っても、違法ではないのだ。だから加藤大臣も「なじまない」という言い方しかできないのだ。そんな働かせ方は「できない」とは言えないのだ。危険すぎる。

法の保護をはずれれば、もはや法に頼ることはできない

 高プロが労働時間規制の適用除外であるということは、無茶な働かされ方をしても、もはや法の保護を求めることができない、ということだ。

 通常の労働時間制のもとで働く労働者が違法な長時間労働を強いられているときには、いざとなれば、「不払い残業だ!」と、その働かせ方の違法性を主張できる。法に基づき是正を求めることや、残業代を請求することができる。違法な実態が報じられれば、会社のイメージもダウンする。

 しかし、同じことが違法でなくなれば、もはや法に頼って改善を求めることができなくなる。違法ではないなら、労働基準監督署も動けない。違法ではないなら、報道も及び腰になるだろう。

 一方で、違法でなくなれば、使用者は堂々と無茶な働かせ方を求めてくるだろう。これまでは違法性を訴えられることを恐れて、あまり無茶をしていなかった企業も、違法性が問われなくなれば、堂々と要求を強めることができる。

 だから、「どうせ今でも労働法なんて、守られていないんだし」というのは、違うのだ。

 たとえ今、違法が蔓延していても、その違法は、違法である限りは、正すことができる。正す手段としての法が存在する。しかし、高プロによって法の規制が適用除外されてしまえば、無茶な働かせ方を正す手がかりとしての法は、もはや存在しなくなってしまう。

 その意味でも、高プロは、「異次元の危険性」があるのだ。

「高プロ」は、関係ない誰かの話ではない

 高プロは「高度プロフェッショナル制度」と呼ばれてきたので、自分とは関係がない話のように思いがちだ。しかし、法案には「高度プロフェッショナル制度」の文字はない。

 年収1075万円以上の、ほんの数%の労働者が対象だと言われ、「あなたには関係ない話だから、関心をもたなくてもよい」と言わんばかりだった。しかし、これは実績としての年収ではない。

 年収は、「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額」で判断するので、めいっぱい働かせて年1075万円、という契約を新たに結べば、高プロの対象にできることになる。しかも、有期労働契約でも適用可能なので、月90万円の1か月契約でも適用できてしまう。

 いくら本人同意が必要だと言っても、同意しなければ職場にいられなくなると思えば、同意せざるを得ない労働者は多いだろう。

 また年収要件は、いずれ下げられる。経団連は400万円以上という基準をかつて提唱していた。アメリカでは、高プロに相当する働かせ方であるホワイトカラーエグゼンプションは、年収260万円程度でも適用されてしまっており、その年収要件を引き上げようとして苦労しているらしい(下記のブログを参照)。

●「アメリカでは年収254万円で適用!? 高度プロフェッショナル制度があなたに襲い掛かる日がやってくる!?」(平井康太)(東京法律事務所Blog、2018年4月22日)

 対象業務についても、法案には具体的には何も明示されていない。法成立後に省令で決めることになっている。国会の審議なしに、どこまで対象業務が広がるのか、全く明確ではない。

高プロを削除した上で、働き方改革の真摯な議論を

 今の安倍政権は、柳瀬唯夫元首相秘書官の証人喚問などの野党の正当な要求をつっぱねながら、高プロを組み込んだ働き方改革関連法案については、何とか会期内に成立させようとしている。このまま審議入りすれば、型通りの答弁を繰り返しながら審議時間だけを積み上げて、「審議は尽くした」として、強行採決がねらわれる危険もある。

 「異次元の危険性」を持つ高プロは、法案から削除すべきだ。働く人の命と健康を強く危険にさらす、そのような法改正を、強引に行うことは許されない。

 さらに、4月17日の東京新聞「こちら特報部」が報じたことだが、労働政策審議会における高プロの審議過程には、「導入ありき」で意図的にゆがめられた設問により、高プロへのニーズがあるかのようにねつ造されたといってよい調査結果が示されていた(下記の記事を参照)。検討プロセスにおけるこの瑕疵も、重大な問題だ。

「導入ありき」で意図的にゆがめられた設問により、高プロへのニーズが主張されていたことが判明(上西充子)- Y!ニュース (2018年4月24日)

 高プロを削除しても時間外労働の上限規制や非正規の処遇改善など、働き方改革には丁寧に議論すべき論点が多数ある。高プロを削除して、真摯な議論ができる条件を整えていただきたい。