裁量労働制の比較データ問題。調査した職員とは別の担当者が問題を認識せずに比べたとの説明は、ありえない

民進党:「働き方改革虚偽データ疑惑」野党合同ヒアリング(2018年2月15日)

<要旨>

● 政府・与党は働き方改革関連法案について、裁量労働制の拡大は削除したものの、高度プロフェッショナル制度は盛り込む姿勢を示している。長時間労働を助長し過労死を増やすという野党の指摘に、向き合う姿勢はない。

● 裁量労働制をめぐる全く不適切な「比較データ」について、どのような動機で作られたものであったか、加藤大臣も厚生労働省も、真相究明を行う姿勢をいまだに全く見せていない。課員の認識不足やミスであったかのように説明している。

● しかし「比較データ」は、認識不足やミスで作成できるものではない。加工のためには調査結果冊子にないデータの入手が必要であった。加藤大臣は作成の経緯を聞いて、「特段、不自然なところもない」と思ったというが、それはありえない。

 働き方改革関連法案が、いよいよ閣議決定されて国会に提出されそうな情勢になってきた。

 自民党は3月29日に、厚生労働部会などの合同会議を開き、働き方改革関連法案の内容を了承したという。政府は近く公明党の了承も得て、4月上旬の国会提出を目指すと報じられている。

働き方改革法案、自民が了承 来週にも国会提出(共同通信2018年3月29日)

 裁量労働制の拡大については「データ問題」の紛糾によって、法案からの削除を余儀なくされたものの、「スーパー裁量労働制」とも呼ばれている「高度プロフェッショナル制度」については、法案に盛り込んだまま閣議決定が行われそうだ。結局、労働時間の規制緩和が長時間労働を助長し、過労死を増やす、という野党の指摘に、政府・与党は耳を貸さない姿勢を明確にしたのだろう。

 そして残念ながら、厚生労働省も、現実に向き合わないそのような政権に同調し続けるようだ。筆者がそう感じたのは、3月27日の野党合同ヒアリングにおける土屋喜久・大臣官房審議官(労働条件政策担当)の発言からだった。

 野党は2月上旬から、裁量労働制の労働者の方が一般労働者よりも労働時間が短いかのように安倍晋三首相が答弁した「比較データ」を問題にしてきた。答弁は撤回され、言及された調査のうち裁量労働制に関するデータも撤回され、裁量労働制の拡大も法案から削除されたが、明らかに問題がある比較を行ったこの「比較データ」がどういう意図をもって作られたのか、その真相究明は行われていない。

 真相究明はどうなっているのかと3月27日に立憲民主党の長妻昭議員が改めて問うたのに対し、土屋審議官は、2月26日の加藤勝信厚生労働大臣の答弁を紹介し、加藤大臣と同様に、真相究明を行う必要性を認めない姿勢を示したのだ。

「比較データ」作成の経緯に関する加藤大臣の説明

 この「比較データ」は、2015年3月26日に民主党(当時)の厚生労働部門会議に初めて厚生労働省より示された。下記がその時に民主党に示されたものだ。

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(出所)民進党ホームページ 「働き方改革虚偽データ疑惑」野党合同ヒアリング(2018年2月15日)

 この表の中の、「企画業務型裁量労働制」の「平均的な者」の9時間16分と、「一般労働者」の「平均的な者」の9時間37分が、安倍首相の答弁のもとになった「比較データ」である。

 厚生労働省が民主党にこの「比較データ」を示したのは、2015年4月3日に「残業代ゼロ法案」(労働基準法改正案)が閣議決定される直前のことだ。この「残業代ゼロ法案」に盛り込まれていたのが、現在の働き方改革関連法案に盛り込まれる予定の高度プロフェッショナル制度と、盛り込まれる予定でありながら削除された裁量労働制の拡大である。

 そして今年の1月29日に安倍首相が答弁で言及するまでに二度、国会の答弁でこの「比較データ」は用いられている。一度目は2015年7月31日の衆議院厚生労働委員会にて山井和則議員に対して。二度目は2017年2月17日に衆議院予算委員会にて長妻昭議員に対して。いずれも裁量労働制の拡大によって長時間労働が助長されるという懸念に対する反証のように答弁されたものである。いわば野党は、そして国会は、さらに国民は、この3年間、間違った「比較データ」によって、間違った認識を与えられてきたのだ。

 本来であれば、なぜそのような間違った「比較データ」が民主党に示され、また国会答弁で使われ続けてきたか、加藤大臣もしくは厚生労働省の幹部が、みずから真相究明に乗り出してしかるべき問題だが、大臣も厚生労働省幹部も、真相究明に乗り出すことには極めて後ろ向きである。

 一般労働者の9時間37分という労働時間の算出にあたって、一か月のうちの「最長」の1日の法定時間外労働のデータが使われていたことが2月19日になってようやく厚生労働省から報告されたが、それを受けた2月26日の働き方改革集中審議で、長妻議員に対し加藤大臣はこう語り、「比較データ」が作成された経緯について、問題にしない姿勢を示した(衆議院インターネット審議中継2時間14分30秒ごろから)。

●加藤大臣

当時、民主党のですね、部門会議でご説明をさせていただく中で、いろいろ宿題もいただき、またそれに必要なものは何かということを戻ってきて、課長以下、課内で『だいたい、こんなことだね』という方針を作り、そしてそれにのっとった資料を、それぞれの課員が、作った。そのうちの1つが、これであります。その上で課長に了解を得て、局長に了解を得て、そして部門会議に提出をさせていただいた、こういうふうに承知をしてます。

 この加藤大臣の答弁を土屋審議官は3月27日の野党合同ヒアリングで改めて紹介し、真相は既にこの説明で尽くされているかのように語ったのだ。

真相究明に極めて後ろ向きの姿勢を示した加藤大臣

 2月26日の質疑では、長妻議員が、知りたいのは経緯ではなく意図だと食い下がったが、加藤大臣は真相究明に極めて後ろ向きの姿勢での答弁を繰り返した。誰の指示なのか、部下が勝手にやるわけはない、第三者の客観的な目で調べていただきたいという長妻議員に対し、加藤大臣はこう答弁している。

●加藤大臣

その「第三者の客観的な目」というのは、ちょっとご趣旨がよくわからないんですけれども、私どもの方で承知しているのは、今、申し上げた、課内において、そうしたことで、どういう対応のものを作ればいいのかということについて方針を確認し、そしてそれに必要なものを、それぞれの課内の人間が出してきたということでございますので、それ以上でもありませんから、それ以上、何を調査すればいいのか、っていうことでもございます。

 これに対し長妻議員が、開き直りの答弁だと抗議し、改めて調査を求めるが、加藤大臣は頑なにこう答弁している。

●加藤大臣

ですから、今、申し上げたような形で、ものが作成されたというふうに、私が当時の担当者に確認をさせていただいているということでございますので、私もそれを聞いて、特段、不自然なところもないなと思いますので今、ご指摘のようなその「第三者の目」というご指摘の部分がよくわかりませんけれども、そうした調査は、必ずしも必要ではないと認識をしております

 動機を調べてほしい、と長妻議員が繰り返すが、加藤大臣は同じ説明を繰り返す。

●加藤大臣

資料の作り方はそれぞれ、データを出してきて資料を作るわけでありますけれども、それを、言葉が「平均的な者」と。それから同じ調査であるということでですね、もう少しきちんと確認をしておくべきだっていう委員のご指摘は、私はその通りだと思います。当然、統計を作るときには原典に当たり、ですね、どういう定義なのか、それがどういうものなのか、場合によっては加工されているか、加工されていないか、とか。それをしっかり調べて作るべきであった。それを、委員、おっしゃる通りだと思います。ただ、今、申し上げた全体の作成の経緯というのは、私が聞いた限り、そういう課の中で方針を立てて、そしてそれにのっとって、それぞれの課員が自分の持っているデータを使って表を作ってきて、そしてそれについて課長の了承を取って局長の了承を取って出したということでございますので、それは私はそういうことだったんだろうと、こういうふうに受けとめておるわけであります。

 あたかもケアレスミスのように説明するこの答弁は、信じられない答弁で言語道断だと、長妻議員は抗議するが、加藤大臣は姿勢を変えない。

●加藤大臣

いや、ですから、私が担当時の課長等にも聞いてですね、今、ご答弁をさせていただいているわけで。当時の、ですから今申し上げた、そうしたものの、当時、当時においてですね、裁量の中のですね、専門と企画、それについて議論もあり、そしてあわせて一般のデータとも比較をする形で作り上げてきたということでありまして、それ以上でもそれ以下でもないんだろうというふうに思います

 この加藤大臣の答弁を聞く限りでは、課員は、定義などを確認せずに、既存の調査結果冊子から2つのデータを抜き出して比較しただけであるように聞こえるだろう。

 しかし、実際は違う。一般労働者の9時間37分は、まさに「加工データ」だった。そしてその加工のもととなる集計表は、調査結果冊子には収録されていなかった。明らかに不適切な加工でもあった。そのような事情を知る筆者からみると、この加藤大臣の答弁は、不誠実極まりないものだ。しかし厚生労働省は、この加藤大臣の後ろ向きな姿勢に、今もなお、同調しているのである。

加藤大臣と厚生労働省の説明には、矛盾

 この加藤大臣の答弁と同様に「比較データ」を特段の意図をもったものとして問題としない姿勢は、既に2月19日に厚生労働省が示していた。一般労働者の9時間37分は「最長」の1日のデータを使ったものであったことを報告した、その2月19日である。

 その様子を2月20日の朝日新聞はこう伝えている。

厚労省の説明によると、問題の比較データは3年前に、調査にあたった職員とは別の労働条件政策課の担当者が作成。その後は原典を確認せずに、国会答弁の根拠として繰り返し使われてきたという。労働基準局担当の土屋喜久審議官は記者会見で、「(データの問題点を)十分に認識せずに比較した」と述べ、あくまでミスだったと強調。不適切なデータ比較に関する政権からの指示は否定した。

出所:不適切資料、故意は否定 政府、3年使用 労働時間比較:朝日新聞デジタル(2018年2月20日))

 同記事には、なぜ不適切なデータを比べたのかについての厚生労働省の説明として、

調査した職員とは別の担当者が、質問が異なるデータとは知らずに比べた。意図的に作ったものではない

とも記されている。

 しかし、これは事実と整合しない。

 「比較データ」は一般労働者について9時間37分、裁量労働制の労働者について9時間16分という2つのデータを比べたものだ。

 ここで重要なのは、裁量労働制の9時間16分というデータは調査結果の冊子(平成25年度労働時間等総合実態調査結果)に記されているが、一般労働者の9時間37分というデータは記されていないという点だ。

 つまり、調査の詳細について事情を知らない職員が、既存の調査結果冊子から2つのデータを抜き出して不用意に比較した、というものでは、ありえないのだ。説明しよう。

9時間37分は、どうやって算出したか

 裁量労働制の9時間16分は、調査結果冊子のp.68の表52にある。下記の「合計」欄の一番右側にある、「平均」の数値だ。

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出所:平成25年度労働時間等総合実態調査結果 p.68 表52

 一方、一般労働者の9時間37分は、法定労働時間の8時間に、「最長」の1日の法定時間外労働の平均の1時間37分を足したものだが、「最長」の1日の法定時間外労働に関する集計表は、この報告書冊子にはない。

 1週、1箇月、1年の法定時間外労働に関する集計表はある。一般労働者の「平均的な者」の1週の法定時間外労働の集計表はp.38の表24(下記)だ。これによれば1週の法定時間外労働の平均は、2時間47分である。

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出所:平成25年度労働時間等総合実態調査結果 p.38 表24

 もし、調査した職員とは別の担当者が、調査の詳しい事情を知らずに調査結果冊子からそれらしく比較できるデータを選んで比較したのなら、この表24のデータを使っただろう。1週の法定時間外労働の平均の2時間47分を5で割ると、1日あたり約33分だ。それに8時間を足すと8時間33分になる。

 しかしこれでは、裁量労働制の9時間16分の方が長くなってしまう。厚生労働省としては、安倍政権の意向を踏まえて裁量労働制の拡大を法改正で行うためには、裁量労働制の方が労働時間が短い、というデータを必要としていただろう。しかし、この調査結果冊子だけでは、そのようなデータは見つけられないのだ。

 だから調査結果冊子にはない「1日」のデータを用いたのだろう。しかしそのためには、その「比較データ」を作成した職員が、調査結果冊子にないデータにアクセスする必要がある。では、どうやってアクセスしたのだろうか。

 「比較データ」がはじめて提出されたのは、前述の通り2015年3月26日である。一方、この調査結果冊子(平成25年度労働時間等総合実態調査結果)が発行されたのは2013年10月だ。

 調査結果冊子には調査票はついておらず、集計表の一覧を見ても、どこを見ても、一般労働者の1日の法定時間外労働が調査で調べられていることがうかがわれる記載はない。

 ということは、「比較データ」を作成した職員が、1日の法定時間外労働のデータがこの調査で調べられていたことを何らかの事情によりあらかじめ知っていたか、もしくは、調査の担当者とのやり取りの中で知ったということだ。そして、調査結果冊子にはない1日の法定時間外労働のデータをこの職員が別の事情で既に持っていたか、もしくは、調査の担当者から入手したということだ。

 そうでなければ、1日の法定時間外労働の平均の1時間37分というデータは、この「比較データ」を作成した職員には入手できない。

 つまり、この「比較データ」を作成した職員は、この調査について自分でよく知っていて冊子にない情報も持っていたか、もしくはこの調査についてよく知っていた担当者とやりとりしたか、いずれかである。

 2月19日の厚生労働省の説明では、上述の朝日新聞の通り、「調査した職員とは別の担当者が、質問が異なるデータとは知らずに比べた。意図的に作ったものではない」とされていたが、この説明は通らない。もしこの説明が通るのなら、次のような場合だろう。

●「調査した職員」とは、実際に調査に出向いた職員のことだ。「比較データ」を作成した担当者は、実際に調査には出向いていないが、調査の担当者であった。

●「比較データ」を作成したのは、調査した職員とは別の担当者だが、この担当者もこの調査についてはよく知っており、調査結果冊子にはないデータも自分で持っていた。

●「比較データ」を作成したのは、調査した職員とは別の担当者だが、調査の担当者とよく相談して「比較データ」を作成した。

 いずれの場合も、上の厚生労働省の説明を素直に聞いた場合の理解とは異なる。厚生労働省の説明は、不誠実なものと言わざるを得ない。

1日のデータとは

 一般労働者の9時間37分というデータを算出するために用いられた1日の平均の1時間37分というデータは下記の表にある。この表は、長妻議員が2018年2月7日に議員会館の事務所において、厚生労働省担当者に9時間37分の算出根拠を求め、厚生労働省からFAXで送付させて入手したものだ。

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(出所)民進党ホームページ:「働き方改革虚偽データ疑惑」野党合同ヒアリング(2018年2月15日)

 業種別、規模別のクロス集計表が隠された不自然な表だが、上述の1週の法定時間外労働の実績の表と対応するような内容であり、平均の欄に1時間37分と記されている。

 この表を何らかの方法により「比較データ」作成者が入手したのだとしよう。この表のタイトルを見ていただきたい。1日の法定時間外労働の実績(一般労働者)(平均的な者)」だ。この表の平均の1時間37分に8時間を足して9時間37分になる。他方で、裁量労働制の9時間16分は、上述の通り、「表52 労働時間の状況(企画業務型裁量労働制)(平均的な者)」の平均欄にある。

 「1日の法定時間外労働の実績」と「労働時間の状況」。明らかにタイトルが違う。違うものがそこに示されていることは、誰でもわかる。

 にもかかわらず、2月19日の厚生労働省の説明では、「質問が異なるデータとは知らずに比べた」とされている。ありえない。

 他にも不注意や認識不足ということはありえない点は多数ある。1つ1つ説明すると長くなるので、一部を列挙するにとどめる。

●一般労働者の「平均的な者」の1日の時間外労働の平均が1時間37分というのは、長すぎる。それは、厚生労働省の担当者なら、わかるはず。

●1時間37分に8時間を足すという計算式が不適切であることは、厚生労働省の担当者ならわかるはず。8時間未満の実労働時間の者が、適切に計算式に反映されない。

●民主党に示した「比較データ」には、一般労働者の9時間37分が計算式によるものであることの説明がない。「平均的な者」の定義の説明もない。裁量労働制の労働者の労働時間が「労働時間の状況」であることの説明もない。また、(注3)の説明は、嘘である。

一人の担当者の問題ではない

 さらに、これは一人の担当者の問題ではない。加藤大臣も答弁していたように、この「比較データ」は、課員が課長に了解を得て、局長に了解を得たうえで、民主党の部門会議に提出されている。そして国会答弁にも用いられている。課長も局長も、一人の事情をよく知らない課員が作成した「比較データ」をそのまま了解したということは、ありえない。

 改めて2月26日の加藤大臣の答弁を振り返ってみよう。加藤大臣は、「比較データ」の作成の経緯を聞いて、「特段、不自然なところもないな」と思ったと答弁し、経緯について、「それ以上、何を調査すればいいのか」と答弁し、動機を調べてほしいという長妻議員の求めに対し、「そうした調査は、必ずしも必要ではないと認識をしております」と答弁している。

 しかし、これまで見てきたように、この「比較データ」は、調査に携わっていない者が、調査に携わった者との接触もなしに、認識不足な中でうっかり作成することは、そもそもできないものだ。したがって加藤大臣は、明らかに不自然な経緯で作成された「比較データ」を、「特段、不自然なところもない」と強弁していると判断せざるをえない。

 菅義偉官房長官は記者会見の中で、明らかに問題があるという指摘を受けても「全く問題ない」とよく語る。加藤大臣も、それと同じなのだろう。追及をかわすために「特段、不自然なところもない」と言い張る。そして、真相究明に乗り出さない。それが加藤大臣の姿勢であり、そして、厚生労働省幹部も、それに同調しているのだ。

 そのような加藤大臣と厚生労働省幹部が、これから、働き方改革関連法案の成立を目指して国会審議に臨むのだ。とても気持ちが重くなる。しかし、それが現実なのだと認識しなければならないだろう。