欺瞞に満ちた「働き方改革」。労働時間規制を撤廃する高プロ導入は認められない( #0317アルタ前 )

AEQUITAS(エキタス) ホームページより

 2018年3月17日、エキタスの主催により「新宿アルタ前大街宣~ #高度プロフェッショナル制度もやめろ!!~」( #0317アルタ前 )が開催された。

 スピーチ予定者としてホームページで告知されたのは下記の方々(末松議員は実際には伊藤圭一さんのあとにスピ―チ)。

・エキタス(メンバーがスピーチ予定)

・上西充子教授(法政大学)

・伊藤圭一さん(雇用共同アクション/わたしの仕事8時間プロジェクト)(スピーチ要旨はこちら

・中村優介さん(日本労働弁護団事務局次長)

・清水直子さん(プレカリアートユニオン執行委員長)(スピーチ原稿はこちら

・佐戸恵美子さん(東京過労死を考える家族の会)

※佐戸さんはNHK記者の過労死当事者の佐戸未和さんのお母様

・中原のり子さん(東京過労死を考える家族の会)

  ※中原さんは過労死認定を求めている小児科医中原利郎医師の奥さん

  支援する会 

・吉良よし子議員(日本共産党)

・小川敏夫議員(民進党)

・末松義規議員(立憲民主党)

■映像

 筆者もスピーチを行った。事前に用意したスピーチ原稿を下記に転載しておきたい。

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言及が避けられてきた裁量労働制と高プロ

 法政大学の上西です。裁量労働制をめぐる「データ問題」の「第一発見者」です。

 安倍政権は働き方改革の中で、裁量労働制の拡大に言及することを慎重に避けてきました。「名前を呼んではいけないあの人」のように、記者会見や施政方針演説などに、裁量労働制という言葉は見当たりません。国会答弁でも極力、避けられています。「データ問題」がなければ、働き方改革の法案の中に裁量労働制の拡大が盛り込まれていることを、知る機会がなかった人も多いのではないかと思います。

 なので2月は、積極的にメディアに出て、こちらのエキタスさんの2月25日の新宿デモでスピ―チも行い、裁量労働制が営業職などに拡大されようとしていることの危険性を知ってもらおうと努力しました。

 野党の追及が続き、「データ問題」が連日のニュースで大きく扱われ、裁量労働制の危険が広く知られるようになったことによって、裁量労働制の拡大は法案から削除されることになりました。けれども同じく経営側が望む規制緩和策である高度プロフェッショナル制度(高プロ)については、安倍政権はあきらめておらず、3月中にも一括法案の国会提出がねらわれています。

国民をあざむいて労働時間の規制緩和を進めようとした安倍政権

 「データ問題」によって明らかになったのは、政府がずさんなデータを国会答弁に使っていたということだけではありません。私たちが目を向けなければいけないのは、政府が、働く人を守るための労働基準法に大きな穴をあける、そのための策略の一端が、「データ問題」によって露呈したという、より大きな構図です。

 皆さんの多くは、「働き方改革」と言えば、「長時間労働の是正」や「同一労働同一賃金」を思い浮かべてきたと思います。そういうものが働き方改革だと思わせておいて、一括法案の中にこっそりと裁量労働制の拡大と高度プロフェショナル制度(高プロ)の創設を隠しこんで、法改正を行おうとしたのが安倍政権のねらいでした。「働き方改革」そのものが、私たちをあざむく、多いなる策略であったといっても過言ではないと、今では私は考えています。

 「データ問題」とは、裁量労働制の労働者の労働時間は、厚生労働省の調査によれば、一般労働者よりも短いかのように、安倍首相と加藤大臣が答弁した、という問題です。加藤大臣が調査名と時間数に言及しながら答弁を行ったことから、私はその調査名をネットで検索してみました。

 「平成25年度労働時間等総合実態調査」というものです。これです。皆さんもぜひ、自分で中身を確認してみてください。公表されている調査結果が、すべてネットで読めます。

 これを丁寧に読めば、一般労働者の一日の労働時間が9時間37分で、企画業務型裁量労働制の労働者の労働時間が9時間16分で、だから裁量労働制の方が短い、という答弁が、おかしなものであることがわかります。野党の追及によって判明した様々な事実がわからなくても、公表されている調査結果を見るだけで、その答弁には根拠がないことは、わかります(※1)。

(※1)データ比較問題からみた政策決定プロセスのゆがみ:裁量労働制の拡大は撤回を(公述人意見陳述)(上西充子)- Y!ニュース(2018年2月21日)

 そのようなずさんな比較データによって、野党の批判を封じることができる、そう安倍政権は考えていたわけです。あまりにも野党を、そして国民を、愚弄した姿勢です。

過労死の危険性の指摘に不遜な態度で反論する安倍政権

 今の国会でこの比較データがどういう文脈で答弁に使われたかを見ると、国民を愚弄する安倍政権の姿勢は、さらにクリアに見えてきます。

 1月31日に加藤大臣が参議院厚生労働委員会で民進党の森本真治議員に対してこのデータを持ち出したのは、裁量労働制の拡大によって長時間労働が助長されるという懸念が、過労死を考える家族の会の皆さんや日本労働弁護団にあることを紹介して、その認識は間違っているのかと、森本議員が問うたことに対して、でした。

ま、どういう認識のもとでですね(笑)、お話しになっているのかということがあるんだと思いますけれども、確かにいろんな資料を見ていると、裁量労働制の方が実際の、一般の働き方に比べて、長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います。

出典:加藤大臣、1月31日参議院予算委員会、インターネット審議中継2:47:35頃

 笑いを含みながら、「どういう認識のもとで」と、森本議員の認識を、ひいては過労死を考える家族の会の方の認識や日本労働弁護団の弁護士の皆さんの認識を否定しにかかる、このような不遜な態度を示しながら、反論として出してきたデータが、でたらめな比較データであったわけです。

 皆さんもご存じのように、今、公聴会における渡辺美樹議員の発言が問題になっています(※2)。3月13日に参議院の公聴会で、このあとスピーチをされる中原のり子さんが過労死の遺族の立場から意見陳述を行ったのに対し、ワタミの創業者であって自民党の議員である渡辺議員が冒涜的な発言を行った問題です。「お話を聞いていると、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえる」などと渡辺議員は発言したのですが、この渡辺議員を質問者に選んで立たせたのは、自民党です。

(※2)過労死遺族に「週休7日が幸せ?」 ワタミ渡辺氏が謝罪(朝日新聞デジタル 2018年3月16日)

 長時間労働に歯止めをかけられなくなる裁量労働制の拡大や高プロの創設に強く反対している過労死の遺族の方の声に耳を貸さないだけでなく、その認識を愚弄しにかかる、そういう態度が、渡辺議員だけのものではなく、自民党のものであるということは、この質問者の選択からも、また、先ほど紹介した加藤議員の答弁からも、おわかりいただけると思います。

 そして、裁量労働制や高プロが長時間労働と過労死をもたらすという問題に向き合おうとしない態度は、安倍首相にも顕著です。

 1月29日の衆議院予算委員会における「比較データ」に関する答弁は、立憲民主党の長妻議員が、裁量労働制のもとで働き、過労死に追い込まれた事例を複数紹介したあとのことでした。

 ゆとりをもって働けるための労働時間の規制強化こそが必要であって、労働法制を岩盤規制とみなしてドリルで穴をあけようとする安倍首相の労働法制観は間違っていると指摘する長妻議員に対して、安倍首相は「比較データ」で反論しようとしたのです。そのときの発言はこうでした。

その岩盤規制に穴をあけるにはですね、やはり内閣総理大臣が先頭に立たなければ、穴はあかないわけでありますから、その考え方を変えるつもりはありません。それとですね、厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均な、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもあるということは、御紹介させていただきたいと思います。

出典:安倍首相、1月29日衆議院予算委員会、インターネット審議中継5:21:50頃

 自分が先頭に立って岩盤規制に穴をあける――安倍首相の本音が、ここに表れています。「長時間労働の是正」を前面に出して「働き方改革」への支持をとりつけて、こっそりと裁量労働制の拡大と高プロの創設を行おうとしてきたにもかかわらず、うっかり本音を語ってしまった、それがこの1月29日の答弁です。

 その後、答弁の撤回とデータの「精査」によって問題の沈静化を図り、それがかなわずに裁量労働制の拡大の法案からの削除によって一定の妥協の姿勢をみせた――それでもなお、高プロの創設はあきらめずにいる。それが今の安倍政権の姿勢です。

労働基準法の保護を撤廃する高プロにNOを

 労働基準法の保護がない働き方を強いられる高プロが、どれほど危険な働き方であるかは、このあと伊藤圭一さんが説明してくれると思いますが、岩盤規制に対し先頭にたって穴をあけるという安倍首相のドリルの刃は、働く私たちに向けられていると考えなければいけません。

 裁量労働制よりさらに危険であり、いったん成立したあとには対象拡大がねらわれている高プロの創設を認めてはなりません。反対の声をひろげていきましょう。共にがんばりましょう。

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■追記■(3月17日 21:20)

 なお、実際のスピーチでは最後に、野村不動産における裁量労働制の違法適用に関する特別指導の問題に触れた。特別指導は12月25日に行われ、翌26日に記者発表されたが、その背後に男性社員の過労死とその労災認定があったことが、3月4日の朝日新聞の報道により明らかになっている。

裁量労働制を違法適用、社員が過労死 野村不動産:朝日新聞デジタル(2018年3月4日)

 労災認定を隠しながら、あたかも裁量労働制の濫用に関しては適切に指導ができている事例のように国会答弁で野村不動産への特別指導に言及した答弁が行われていたことについて、野党が追及を行っているが、本日3月17日の朝日新聞報道によれば、特別指導は決裁文書もなく行われ、にもかかわらず加藤大臣には特別指導前に3回も報告が行われていたことが明らかとなり、経緯の不透明さがより深まった。

過労死の野村不動産への特別指導、決裁書作らず 厚労省:朝日新聞デジタル(2018年3月16日)

■追記■(3月18日 7:20)

 スピーチの中でうっかりして、野村不動産の件について、「労災認定を受けて特別指導が行われた」と発言したが、これは誤りであり、朝日新聞の報道によれば、特別指導が昨年12月25日、労災認定が12月26日、特別指導を行った旨の記者発表が同日の12月26日である。