裁量労働制の方が労働時間は短いかのような安倍首相の答弁。撤回は不可避だが、事務方への責任転嫁は間違い

(写真:つのだよしお/アフロ)

<要旨>

●裁量労働制のもとで働く労働者の方が一般の労働者よりも平均で見れば労働時間が短い「かのような」データに安倍首相と加藤大臣は国会答弁で言及したが、そのデータは検証に耐えられない問題だらけのものだった。

●加藤大臣は問題を指摘され、「精査をさせていただきたい」と答弁したが、個々のデータを精査するまでもなく問題のある加工をしたことが明らかであり、精査を待つ必要はない。不適切なデータであったとしてただちに撤回すべきものだ。

●加藤大臣は、安倍首相が調査結果を紹介したまでであるかのように答弁したが、安倍首相と加藤大臣が答弁したのは、調査結果ではなく、その調査結果の加工データであり、また、本来比較すべきでないものを比較したものである。これは調査結果の問題ではなく、事務方に責任をなすり付けるべき問題ではない。

●安倍首相と加藤大臣がこのデータを持ち出した文脈を考えると、裁量労働制の拡大が長時間労働を助長し過労死を増やすという野党の批判をかわすために持ち出したデータであることは明らかだ。このデータは単に紹介されたものでなく、安倍政権の政治判断によって作られたデータだろう。

安倍首相と加藤大臣が言及したデータは問題だらけ

 「働き方改革」関連一括法案の国会提出を控え、予算委員会では、一括法案に含まれる裁量労働制の拡大に野党の批判が高まっている。「定額働かせ放題」になり、長時間労働を助長し、過労死を増やす、という批判だ。

 それに対し安倍首相と加藤大臣は、裁量労働制で働く労働者の方が一般の労働者よりも平均でみれば労働時間は短い「かのような」調査データを紹介した。

厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均な、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもあるということは、御紹介させていただきたい。

出典:長妻昭議員に対する安倍首相の答弁、1月29日衆議院予算委員会

確かにいろんな資料を見ていると、裁量労働制の方が一般の働き方に比べて長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います。

出典:森本真治議員に対する加藤厚生労働大臣の答弁、1月31日参議院予算委員会

議員ご指摘の資料があることも事実でございます。また私どもの平成25年度労働時間等総合実態調査、これ、厚生労働省が調べたものでありますけれども、平均的な一般労働者の時間が9時間・・・、これは1日の実労働時間ですが、9時間37分に対して、企画業務型裁量労働制は9時間16分と、こういう数字もあるということを、先ほど申し上げたところでございます。

出典:森本真治議員に対する加藤厚生労働大臣の答弁、1月31日参議院予算委員会

 しかしそのデータの妥当性に疑問がつき、野党各党からの追及が始まっている。加藤大臣は適切な答弁ができず、「精査中」と答える状況に追い込まれている。

 2月9日の衆議院予算委員会では希望の党の山井和則議員が、安倍首相による答弁の撤回を求めた。

安倍首相のウソ露呈 裁量労働で「労働時間短縮」根拠ナシ#日刊ゲンダイDIGITAL(2018年2月10日)

 筆者はこの問題につき、2月に入ってから3本の記事を公開し、答弁データの問題を指摘してきた。

なぜ首相は裁量労働制の労働者の方が一般の労働者より労働時間が短い「かのような」データに言及したのか(上西充子)- Y!ニュース (2018年2月3日)

裁量労働制の労働者の方が一般の労働者より労働時間が短い「かのような」答弁のデータをめぐって(続編)(上西充子)- Y!ニュース(2018年2月6日)

裁量労働制の労働者の方が一般の労働者より労働時間が短い「かのような」答弁のデータの問題性(その3)(上西充子)- Y!ニュース(2018年2月10日)

 3本目の記事に整理したように、主な問題点は次の通りだ。

●問題点(1)

あたかも「平均」の比較であるかのように紹介されたが、「平均」の比較ではなかった

●問題点(2):

裁量労働制の1日の労働時間は、実労働時間として把握されたものではないため、一般労働者の労働時間とそもそも比較できるデータではない

●問題点(3):

一般労働者の1日の実労働時間として紹介された9時間37分という数値は、長すぎるものであり、同じ調査結果の他のデータとも整合せず、数値の分布にも説明のつかない問題がある

●問題点(3-1):

この計算式では、実労働時間は算出できない

●問題点(3-2):

この計算式による労働時間は、週あたりや月あたりのデータから計算した労働時間と大きく乖離しており、おかしい

●問題点(3-3):

計算式に使われたデータに、異常値と思われるものが含まれている

(元の記事の問題点A、B、Cを、分かりやすく3-1、3-2、3-3に書き換えた)

 これらの問題が明らかになる中で、加藤大臣は、

精査をさせていただきたい

と答弁していたが、筆者は、精査するまでもなく、この答弁はただちに訂正・撤回すべきものと考えている。その理由を下記に述べる。

 また加藤大臣は、安倍首相があたかも調査結果を紹介しただけであるかのように答弁しているが、安倍首相と加藤大臣が答弁したのは、調査結果そのものではなく、調査結果を加工し、比較したものである。加工の方法は適切ではなく、また、比較すべきでないデータを比較している。問題は調査結果そのものにあるのではない。調査結果にミスがあったとして事務方に責任をなすりつけて済ませるような問題ではない。そのことも下記に述べる。

精査するまでもなく、計算式を見れば、その計算式が間違っていることが明らか

 安倍首相と加藤大臣が言及したデータは、3本目の記事に書いたように問題だらけであるが、それらの問題の中には、精査するまでもなく明らかに問題であること、そして精査したからといって解消が不可能な問題がある。

 最も分かりやすく、かつ最も問題なのは、一般労働者の「平均的な者」の1日の労働時間を、計算式によって「加工して」出していることだ。

1日の労働時間を算出するために用いられた計算式:  

  法定労働時間(8時間)+1日の法定時間外労働の平均値

 3本目の記事に仮想例を示しながら書いたように、この計算式には大きな問題がある。8時間を下回る実労働時間の者のデータが、適切に反映されないのだ。

 調査対象者全員の実労働時間が8時間以上であれば、この計算式で労働時間を算出しても問題はない。しかし1日の所定労働時間が例えば7時間30分の会社で、定時退社している者が調査対象者に含まれている場合、その者の実労働時間は8時間とみなされ、30分過大になってしまう。そして結果的に、平均の労働時間が実態よりも長いかのように算出されてしまうのだ。

 山井議員が質疑の中で言及しているように、この調査(平成25年度労働時間等総合実態調査結果)の対象労働者の1日の所定労働時間の平均は、7時間35分である(表6)。1日の実労働時間が8時間を下回る労働者のデータは、多数含まれることが想定される。誤差の範囲と無視すべきものではない。

 ではこの問題はデータを精査すれば解消されるかというと、解消しようがないのだ

 仮に個票データを1つ1つ確認することができても、そこにあるのは、上記の例でいえば、所定労働時間が7時間30分、法定時間外労働の労働時間が0時間、という数値だけだろう。その労働者の1日の実労働時間は、7時間30分かもしれないし、7時間45分かもしれないし、8時間かもしれない。それはデータからは復元しようがないのだ。

 復元しようがないからといって、それらをすべて8時間とみなすことは、実態と大きくずれることは明らかだろう。

 つまり問題は、

法定労働時間(8時間)+1日の法定時間外労働の平均値

という計算式で実労働時間を把握しようとしたこと、そのものにあるのだ。

 ではなぜこういう計算式でデータを加工したのか。

 それは、実際の調査で労働者の実労働時間を把握していないからだろう。把握していないからこそ、計算式によって実労働時間を求めようとしたのである。

 なぜ把握していないのか。それはこの調査が、実労働時間を把握するための調査ではなかったからに過ぎない。

 調査というものは、特定の目的をもって行われ、その目的のために適切な調査項目が設定されてデータが集められる。この調査は実労働時間を把握するための調査ではなく、所定労働時間や法定時間外労働などを把握するための調査だったのだ。

 その調査を目的外に利用しようとするとき、適切な加工で利用可能なデータになる場合もあるが、上述の通り、この計算式で実労働時間を復元しようとしても、無理だ。

 これは調査設計上、そもそも無理なのであって、精査するまでもなくその限界は明らかである。

 したがって、加藤大臣が「精査させていただきたい」と答弁しても、それは単なる引き延ばし策に過ぎない。

 「精査がまだ終わっていない」という言い訳は認められるものではない。不適切な加工を行ったデータによる答弁は、ただちに訂正・撤回されるべきものだ。

問題は調査結果にあったのではなく、その調査結果を用いた加工や比較にある

 もう一つ、今の段階ではっきりさせておくべき問題は、問題は調査結果そのものにあるのではなく、その調査結果を用いた加工や比較にあるということだ。

 上述の計算式による加工データは、当然ながら調査結果(平成25年度労働時間等総合実態調査)には掲載されていない。そんな加工はすべきでないことは明らかだからだ。

 一方で、確かに山井議員が指摘した問題点の中には、1日の法定時間外労働の平均値と1週の法定時間外労働の平均値が明らかに整合しないことが挙げられていた。1週の法定時間外労働の平均値を5(5日)で割ると1日あたり33分なのに、1日の法定時間外労働の平均は1時間37分となっているというのは、明らかな矛盾だ。

 1日の法定時間外労働の分布の中に、15時間超(山井議員は「以上」と語っているが、正しくは「超」と思われる)の者が9人含まれており、異常値であることが疑われる(1日23時間労働ということになるので)、という問題もそうだ。

 これらは調査結果そのものの問題であるのかもしれない。しかし、調査結果として公表されているものの中には、1週の法定時間外労働の平均値や分布の表はあるが(表24)、それと対応するような、1日の法定時間外労働の平均値と分布の表はない

 公表されていない調査結果に不適切な内容が記載されていても、それが調査結果そのものの問題であるかどうかは、第三者には判断しようがない。本当に調査結果としてそういうものがあったのかも判断しようがないし、調査結果であっても整合しない値が算出されていたので調査結果報告書への掲載が見送られていたものかもしれない。

 したがって、この点については判断を保留すると、残る問題はすべて、調査結果そのものの問題ではなく、その調査結果を用いた加工や比較にあるのだ。公表されている調査結果そのものには、何の問題も含まれていないのだ。

 上述の通り、計算式でデータを加工して実労働時間らしきものを求めたことは、間違っている。これは、加工した者の判断が間違っていたのだ。

 また詳細は省略するが(詳しくは1本目の記事を参照されたい)、裁量労働制のもとで働く労働者の1日の労働時間は、実労働時間を把握しようとしたものではないため、一般労働者の実労働時間(らしきもの)と比較することも間違っている。これも、比較した者の判断が間違っていたのだ。

 では、加工するという判断を行った者や、比較するという判断を行った者は、誰なのか

加藤大臣は事務方に責任転嫁すべきではない

 山井議員が安倍首相の答弁の撤回を2月9日の予算委員会で求めたのに対し、加藤大臣はこう答弁していた。

いずれにしても調査の結果としてはそういうものが出ているわけでありますから、それを総理はお述べになられました。ただ、今、委員からもご指摘がございますので、もう一度私どもとしては、個々のデータにあたって精査をさせていただきたいと思います。

出典:山井和則議員に対する加藤厚生労働大臣の答弁、2月9日衆議院予算委員会

 「調査の結果としてはそういうものが出ている」という加藤大臣の答弁は、「調査結果を紹介したまでであり、問題は調査結果にある」という印象を聞く者に与えるものだ。そして、安倍首相の責任やみずからの責任を回避し、責任を事務方に転嫁しようとしているようにも聞こえる。

 しかし上に見たように、問題は調査結果そのものにあるのではなく(非公表の表における不整合データについては判断は保留)、むしろ調査結果を加工した判断や、比較した判断にあるのだ。

 では調査結果を加工する判断や、比較する判断を行ったものは、誰なのか。

 実際に加工した者や比較したデータを作成した者は確かに事務方(厚生労働省の職員)だったのだろう。しかし、独自の判断でそのようなことを行ったとは考えにくい。普通に考えれば、プロフェッショナルである彼らは、そのような加工や比較が適切ではないことは、十分わかっているはずだからだ。

 筆者は、加工や比較を事務方がみずから進んで行ったのではなく、安倍政権からそれを求められたか、あるいは「忖度」してそうしたのだと推測する。

 なぜなら、裁量労働制のもとで働く労働者の方が一般労働者よりも労働時間は短くなるというデータは、安倍政権が欲しがっているものだからだ。

このデータが持ち出された文脈

 1本目の記事で紹介したが、安倍首相と加藤大臣がこのデータに最初に言及したときの文脈を、改めて振り返ってみよう。

 1月29日の衆議院予算委員会で安倍首相はこのデータに言及したが、それは立憲民主党の長妻昭議員が、裁量労働制のもとで働き過労死した方や、あわや過労死という状況に追い込まれた方の事例を複数紹介し、労働法制を「岩盤規制」とみなしてドリルで穴をあけようとしている安倍首相の「間違った労働法制観」を改めることを求めた質疑に対する答弁の中においてだった。

 つまり、単なるデータの紹介ではなく、裁量労働制の拡大はすべきではないという長妻議員の指摘に対する反証として、安倍首相によって持ち出されたデータだったのだ。

 加藤大臣の場合も同様だ。1月31日の参議院予算委員会で、民進党の森本真治議員は、過労死を考える家族の会の方や日本労働弁護団の弁護士の間では、裁量労働制の拡大により長時間労働が助長されるという懸念があることを紹介し、そのような認識は誤りなのかと問うた。それに対する加藤大臣の答弁の中でこのデータが言及されたのだ。

 つまり、加藤大臣の答弁においても、単なるデータの紹介ではなく、裁量労働制の拡大が長時間労働を助長するという森本議員の主張に対する反証として持ち出されたデータだったのだ。

 野党側はこれまで何度も、労働政策研究・研修機構が行った裁量労働制に関する調査結果を国会の質疑の中で紹介している。それによれば、裁量労働制のもとで働く労働者の方が、通常の労働時間制のもとで働く労働者よりも、長時間労働の割合が高く、平均の労働時間で見ても長いという結果になっている。

裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果(調査シリーズ No.125)(2014年5月)

 その結果(厚労省抽出分)によれば、1か月の実労働時間の平均は、専門業務型裁量労働制で203.8時間、企画業務型裁量労働制では194.4時間、通常の労働時間制で186.7時間となっている(p.77)。裁量労働制のもとで働く労働者の方が、平均の労働時間は長い

 同じ調査結果から労働時間の分布をみても、裁量労働制のもとで働く労働者の方が、長時間労働の割合が高い(p.22)。

労働政策研究・研修機構 調査シリーズNo.125、p.22
労働政策研究・研修機構 調査シリーズNo.125、p.22

 労働政策研究・研修機構が行ったこの調査は、裁量労働制の実態をとらえるために行われた調査であり、政府が紹介したデータのように、調査趣旨が異なる調査結果を流用したものではない。またこの調査は、厚生労働省の要請により行われたものであり、調査を設計し、実施した労働政策研究・研修機構は、厚生労働省が所轄する独立行政法人である。さらにこの調査は、労働者自身が回答して直接郵送で返送しているものであり、事業場に尋ねたものよりも実態をより適切に反映しているものと考えられる。

 にもかかわらず、安倍政権はこの調査結果を直視しようとしない。この調査結果を直視すれば、裁量労働制の拡大が難しくなるからだろう。そのため、この調査結果は野党によって示され続けてきた。

 安倍政権としては、この調査結果に対し、何らかの反証となるデータが欲しかったのだろう。反証となるデータを示すことができれば、労働政策研究・研修機構の調査結果を野党が示しても、その調査結果の含意を弱めることができる。

 だから、「何かそれらしいデータを出せ」と事務方に命じたのではないか。そう考えるのが、もっとも筋が通る。

 加藤大臣がこのデータに最初に言及した1月31日の答弁を、改めてじっくり読んでみてほしい。

どういう認識のもとにお話しになっているのかということがあるんだと思いますけれども、確かにいろんな資料を見ていると、裁量労働制の方が一般の働き方に比べて長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います。

出典:民進党・森本真治議員に対する加藤厚生労働大臣の答弁、1月31日参議院予算委員会

 野党が示す「ファクト」に対して、別の「ファクト」を提示すること。それによって野党が示す「ファクト」のインパクトを薄めること。そこにこそ、このデータを紹介する狙いはあったのだろう

 しかしその、安倍首相と加藤大臣が言及したデータは、問題だらけであり、「ファクト」ではなかったのだ。

 とすると、これは、事務方に責任転嫁すべき問題でもないし、答弁を訂正し撤回すれば済むという問題でもない。単にずさんなデータを紹介した、という問題ではなく、安倍政権の政治姿勢にかかわる問題である。

 つまり、裁量労働制のもとで働く労働者の実態から目を背け、それらしく「ファクト」をでっちあげて、あたかもデータによって反証ができたかのように装い、そうして野党の追及をかわしつつ裁量労働制の拡大という規制緩和の法改正を強行しようとしている、そういう政治姿勢の問題なのだ。

 ことは国会審議の在り方に関わる問題である。そのことを念頭において、野党の皆さんにはしっかりこの問題を追及していただきたい。

***

<追記>(2018年2月11日6時30分)

 この問題に関する4本目となるこの記事を書いて、自分でもようやく問題の本質がクリアに見えてきた。

 問題は2013年10月に公表されていた調査結果報告書(平成25年度労働時間等総合実態調査結果)にあるのではない。

 問題は、もとの調査結果報告書とは関係がない、次の3点に集約できる。

(1)未公表の集計表の利用

 集計表は、一般労働者の「平均的な者」の「1日の法定時間外労働の実績」を表すものであり、1週についての表24と対応するもの。そこには山井議員が指摘したように、異常値と思われる数値を含んでいる。そのためか、1日の法定時間外労働の実績が平均値で1時間37分と、表24などの他の公表データから計算される値に比べて、不整合に大きいものになっているという。

(2)公表されていなかったその集計表の数値に基づく、データの不適切な加工

 法定労働時間の8時間に1日の法定時間外労働の実績の平均値を足し合わせる計算式では、3本目の記事で詳しく説明したように、実労働時間の平均よりも過大な数値が算出されてしまう。

(3)本来は意味合いが異なるので比較すべきでない2つの数値の、不適切な比較

 一般労働者については、実労働時間に相当するものを不適切な計算式によって求めようとしているが、企画業務型裁量労働制の「平均的な者」についての表52に示された9時間16分という値は、「労働時間の状況」であり、実労働時間を把握したものではない。結果報告のp.11の説明の通りであり、詳しくは1番目の記事で紹介した議事録で、当時の村山労働条件政策課長が説明している通り。

 未公表の集計表の利用、データの不適切な加工、2つのデータの不適切な比較、この3点は、いずれも今国会の答弁に向けて、安倍政権のもとで行われたものである。

 山井議員に対する9日の答弁で、加藤大臣は平成25年度労働時間等総合実態調査そのものに問題があるかのように答弁したが、問題はそこにはない。

 問題は、未公表の集計表を利用し、データを目的外に利用するために不適切に加工し、そうやって加工された数値と公表された数値を不適切な形で比較した上で、あたかもそれが調査結果そのものだという風を装って国会答弁で安倍首相と加藤大臣が示した、という行為にある。

 では、未公表の集計表の利用や、不適切なデータの加工、不適切なデータの比較、それらの行為を行わせた者は誰か。 現場の厚生労働省職員ではないだろう。 安倍政権か、政権の意向に忖度した事務局のトップクラスだろう。

 野党の皆さんにはまず、安倍首相と加藤大臣が言及したデータが、調査結果そのものではなく、その調査結果を不適切な計算式で加工したものだという点を突いていただきたい。その1点のみでも答弁の撤回は不可避だ。

 そのうえで、未公表だったが今回利用されることになった集計表(一般労働者の「平均的な者」の1日の法定時間外労働の分布と平均を示したものであり、山井議員が指摘したように、1日23時間勤務になってしまうような異常値と思われる値を含んだ集計表)が、なぜもとの調査結果に含まれていなかったのか、その集計表は平成25年10月の調査結果公表時からもともと存在していたものなのか、もともと存在していたならば、なぜ調査結果報告書への掲載が当時見送られていたのか、検証を求めていただきたい。