裁量労働制の労働者の方が一般の労働者より労働時間が短い「かのような」答弁のデータをめぐって(続編)

(写真:アフロ)

<要旨>

●安倍首相と加藤大臣が答弁に用いた、裁量労働制のもとで働く労働者と一般労働者の労働時間の比較。これについて、裁量労働制のもとで働く労働者のデータが果たして妥当なものなのかと前回の記事で疑問を提示したが、一般労働者のデータについても、疑問が出てきた。

●2月5日の衆議院厚生労働委員会で希望の党の玉木雄一郎代表は、加藤大臣が答弁で紹介したこのデータについて質疑で取り上げ、「平均的な者」のデータは平均値とは違うと指摘し、労働時間の平均を比較できるデータを出すよう求めた。

裁量労働制のもとで働く労働者の方が一般の労働者より平均労働時間が短い?

 前回の下記の記事において筆者は、1月29日に安倍首相が、また1月31日に加藤厚生労働大臣が、答弁の中で言及したデータ(あたかも裁量労働制のもとで働く労働者の方が一般の労働者よりも平均でみれば労働時間が短い「かのような」調査データ)の妥当性に疑問を呈した。

なぜ首相は裁量労働制の労働者の方が一般の労働者より労働時間が短い「かのような」データに言及したのか(上西充子)- Y!ニュース (2018年2月8日)

 その調査データとは平成25年度労働時間等総合実態調査であり、これについて1月31日に加藤大臣は次のように言及していた。

●民進党・森本真治議員に対する加藤厚労大臣の答弁(参議院予算委員会2018年1月31日)

 どういう認識のもとにお話しになっているのかということがあるんだと思いますけれども、確かにいろんな資料を見ていると、裁量労働制の方が一般の働き方に比べて長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います。

(中略)

 議員ご指摘の資料があることも事実でございます。また私どもの平成25年度労働時間等総合実態調査、これ、厚生労働省が調べたものでありますけれども、平均的な一般労働者の時間が9時間・・・、これは1日の実労働時間ですが、9時間37分に対して、企画業務型裁量労働制は9時間16分と、こういう数字もあるということを、先ほど申し上げたところでございます。

 このデータについて、前回の記事では、「平均的な者」とは平均値とは異なること、企画業務型裁量労働制の9時間16分という数値は、実労働時間とは考えられないこと、などを述べたのだが、改めて考えてみると、一般労働者の9時間37分という数値も奇妙だということに気がついた。長すぎるのだ。

一般労働者の労働時間が9時間37分というのは本当か?

 平成25年度労働時間等総合実態調査には、企画業務型裁量労働制について1日の「労働時間の状況」の平均が9時間16分であるというデータはあるが(表52)、一般労働者について9時間37分というデータはない。

 独自集計によるものなのだろうと、あまり気にしていなかったが、改めて考えてみると、一般労働者の1日の労働時間が9時間37分というのは、普通に考えても、長すぎる。「平均的な者」とは「調査対象月において最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働時間数の層に属する労働者のことをいう」という定義を踏まえても、やはり奇妙だ。

 そして、この調査結果が示す他のデータとも整合しないのだ。どういうことか説明したい。

 同調査の表24には、「1週の法定時間外労働の実績(一般労働者)(平均的な者)」というデータがある。そのデータをグラフにすると下記の通りとなる(12時間超の部分はまとめた)。

表24より筆者作成
表24より筆者作成

 「平均的な者」の1週の法定時間外労働の実績(一般労働者)は、「2時間以下」が最も多く、63.8%を占めている。平均では表24に示されている通り、1週間で2時間47分だ。

 これは「週あたり」の法定時間外労働の実績である。ここから1日あたりの実労働時間を類推してみると、2時間47分を5日で割り、1日あたりの法定労働時間である8時間をそれにプラスすると、8時間33分ほどになる。

 8時間33分という数値は、加藤大臣が答弁した、平均的な(実際は「平均的な者」の)一般労働者の労働時間9時間37分より、明らかに短い。これはいったい、どういうことか。

 なお、この8時間33分という数値は、実は1日の実労働時間とみなすには過大である可能性がある。なぜなら、(一般労働者に限定したデータではないが)表6の「1日の所定労働時間の労働者割合」によれば、平均の所定内労働時間は7時間35分で、法定労働時間の8時間に満たないからだ。もし所定内労働時間が7時間30分と定められている会社で働き、定時で帰宅している一般労働者がいれば、その労働者の労働時間は先の計算式だと8時間であると、過大に見積もられていることになる。

 仮にその誤差を無視するとしても、一般労働者の「平均的な者」の1日の実労働時間は、先の計算式により8時間33分ほどだと言えるだろう。では、どういう計算をすれば、9時間37分という数値が出てくるのか?

9時間37分は休憩時間を含んだ推計か?

 これは推測でしかなく、国会質疑で明らかにしていただければと思うが、この9時間37分という数値は、休憩時間を含んだ時間なのではないか? 先に算出した8時間33分に1時間を足すと、9時間37分に近い時間になる。

 なぜ休憩時間を足す必要があるのか? それは、企画業務型裁量労働制の「労働時間の状況」では、休憩時間を抜いていないと思われるからだ。

 前回の記事で見たように、企画業務型裁量労働制の「労働時間の状況」は、実労働時間ではなく、入退室の時刻等を把握している中で把握できる範囲の数字だと説明されていた。

 入退室の時間で労働時間を把握しているならば、休憩時間も含まれるだろう。そのような休憩時間を含んだ労働時間(というよりは、在社時間と言った方が適切だろうが)と比較するためには、一般労働者についても、休憩時間を含んだ労働時間で比べなければ比較できない。だから一般労働者についても、休憩時間を加算しているのではないか。

 もしそうだとすれば、加藤大臣は「1日の実労働時間」だと語ったが、一般労働者についても、9時間37分という数値は「実労働時間」ではない、ということになる。

 さらに、休憩時間を加算して独自集計を行ったとしても、どのように休憩時間を把握できたのか、という疑問が残る。この調査結果には調査票は付されていないが、調査結果に付された説明を見る限り、1日の所定労働時間は、「就業規則等に定められた始業時刻から終業時刻までの時間から、休憩時間を差し引いた時間として調査を行った」と記されており(p.3)、休憩時間を別途把握しているかどうかは定かではないからだ。

 また休憩時間は1時間とは限らない。労働基準法によれば、与えなければならない休憩時間は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間とされているため、休憩時間は1時間とは限らない(先に見た通り、所定労働時間の平均は表6によれば、7時間35分である)。休憩時間は1時間とは限らず、45分の場合もありうるのだ。果たしてそれらは、適切に考慮されているのだろうか。

 こう考えてくると、一般労働者についても、9時間37分という労働時間の数値は、相当に実態からかけ離れた数値であるようだ

 とすれば、一般労働者についても企画業務型裁量労働者についても、労働時間の平均を表しているとは考えにくい数値を上げて双方を比較してみせた、安倍首相の答弁と加藤大臣の答弁は、いったい何だったのだろうか?

希望の党・玉木代表がデータの妥当性について質問

 さて、希望の党の玉木雄一郎代表が、この平成25年度労働時間等総合実態調査のデータの妥当性について、2月5日の衆議院予算委員会で丁寧にとりあげていたことを衆議院インターネット審議中継の録画で知った。

 玉木代表はまず、裁量労働制を入れたら労働時間は長くなるのか、それとも短くなるのかと問い、労働政策研究・研修機構の平成25年の調査では裁量労働制のもとで働く労働者の方が労働時間の平均値が長くなっていることを紹介している。この調査は、前回の記事でも触れたものだ。

●労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果」(調査シリーズ No.125)(2014年5月)

 そして、裁量労働制を拡充した方が労働時間は短くなるというなら、証拠を示してほしいと迫った。

●玉木議員 加藤大臣に伺います。裁量労働制、これを入れたらですね、確かに裁量労働なので、短く終わった人は早く帰れるので、労働時間は短くなるのかなと思うんですが、一方で、時間についての取り決めはないですから、長くなる可能性もあるし、逆に、早く終わってしまったらですね、「お前、もう仕事終わっているじゃないか、もういっちょう、やってくれないか」というのが日本の、ある種の労働慣行みたいなところもあってですね。結構ありますよ、私も経験、ありますけどね。

 だから、やはり減らないんじゃないのか、と。裁量労働制を入れることによってむしろ労働時間は増えるんじゃないか、と。

 例えば今ですね、裁量労働制、既に入っています。これをですね、平成25年の労働政策研究・研修機構、JIL(ジル)の調査では、1か月の実労働時間、通常の労働者186.7時間に対して、企画業務型裁量労働制だと194.4時間、専門業務型裁量労働制だと203.8時間と、現時点においても裁量労働制を入れた人の方がたくさん働いているんですよね。で、加藤大臣、裁量労働制を拡充することで、労働時間は短くなりますか? 証拠があれば、示してください。

 それに対し、加藤大臣は、話を伺ったという事例を紹介するとともに、1月31日の民進党・森本真治議員に対する答弁と同様に、平成25年度労働時間等総合実態調査の結果に次のように言及した。

●加藤大臣 玉木委員からのご自身の体験に基づくお話があったと思います。私も同じところに勤めておりましたが、当時は裁量労働制ではなかったということは一つあるんだろうと思います。

 実態については、今ご指摘がある数字があったり、あるいは、平均的な働く人の時間でみると、一般労働者が9時間37分、企画業務型裁量労働制が9時間16分、こういった調査結果もあるということは、申し上げて、しかし、今おっしゃるような数字もあるということも、もちろん、その通りではあります。

 その意味で、裁量労働制の話でありますけれど、私が実際、現在、裁量労働制を導入している企業に行ってお話をさせていただいた中においては、メリハリをつくることができて、従前よりも早く帰り、また、それによって子育てに参加をしたり、あるいは自分の診療、病気になったときにですね、医療にかかることができるようになったと、こういったお話を聞かせていただいておりますので、まさにご自身が自分の判断で、裁量で、うまく時間を作ることによって、まさに効率的に、ご本人の時間を使うことができればですね、これは当然、全体としてより短い時間で働き、そして成果を上げていく、こういうことにつながるだろうと思います。

 ただ一方でですね、今ご指摘がありましたように、実態を見ると、特に「みなし時間」と実労働時間という概念があるわけですけれども、その間、当初みなしていた時間、要するに、このくらいの時間で終わるだろうから、このくらいの(みなし労働)時間、という前提であったにもかかわらず、やってみたらかなり長くなっているという、こういう事例があるのも事実でありますから、そういったものに対しては、わたくしども、しっかり指導していく。

 また、今の法案の中においては、指導する法的根拠も明確にして、より厳正した指導をしていくということで、うまく使っていただくことによって、より生産性を上げていく、そしてまさに、適切でない使い方に対しては、しっかり指導していくことで、取り組んでいきたいと思っています。

 これに対し、玉木議員は、加藤大臣が言及したデータの妥当性を問い始める。

●玉木議員 現状把握をまずきちんとすることが、これからの法改正に必要だと思うんですね。で、ちょっと今、聞き取りづらかったんですが、私は裁量労働制の方が(労働)時間が増えるというですね、これは労働政策研究・研修機構の数字を上げましたが、今、加藤大臣がおっしゃった、「平均的な人? 者(もの)?」を比べたらですね、裁量労働制の方が少ないということなんですが、それは何のデータですか?

 議場からは、「報告書にも出てないんですよ、そんなことは」という声が聞こえている。

 加藤大臣は調査名を答弁している。

●加藤大臣 厚生労働省が実施いたしました平成25年度の労働時間等総合実態調査の結果であります。

 それに対して玉木代表は、「平均的な者」への言及を始める。

●玉木議員 私もこれ、確認してみました。平成25年度労働時間等総合実態調査の中にですね、実は今、加藤大臣が言及された「平均的な者(もの)」って、これ、普通、平均だからすべての労働者の、例えば裁量労働制のもとではたらいている労働者の平均値かなと思ったんです。調べたらですね、「平均的な者」と、わざわざ定義してあるんです。定義してあって、なんて書いてあるかというと、「調査対象月において最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働時間数の層に属する労働者のこと」。なんだかよくわかんないんです。で、これ、伺いますが、「平均的な者」の労働時間というのは、裁量労働制で働いている人の平均労働時間と同じなんですか、違うんですか?

議場からは、「そうだ! 違うんだよ、それが」という声が聞こえる。

 ついさっき「平均的な働く人の時間でみると」と答弁していた加藤大臣は、ここで説明を変え始める。

●加藤大臣  すいません、今、ちょっと手元に、そこまで細かい、おっしゃった調査の結果がないので、正確にはちょっと申し上げられませんが、手元の資料を見ると、「平均的な者(しゃ)」、先ほども「平均的な者(しゃ)」と申し上げましたけれど、その数値ということであります。

 それまで自信をもって答えていたように見えたのが、「そこまで細かい、おっしゃった調査の結果がない」と答弁を避け、さらに、先ほどは「平均的な働く人」と言っていたのに、「先ほども『平均的な者(しゃ)』と申し上げましたけれどと、耳慣れない読み方に変えて答弁している。

 もし1月31日の時点で加藤大臣が「平均的な者(しゃ)」という答弁をしていれば、それは何か?と議員も、国会をウォッチしている私たちも、疑問を持っただろう。しかしここに来て初めて、加藤大臣は、「平均的な者(しゃ)」という、耳慣れない言葉を使い始めるのだ。

 それに対し玉木代表がこう畳みかける。

●玉木議員  これね、皆さんね、労働者の平均時間じゃないんです。都合のいいところの数字だけ出してきて、あたかも(労働時間が)少ないかのようにやるのは、私は、これは国民を欺くような不誠実な答弁だと言わざるを得ません。

 そうなのだ。平均値ではなく、「調査対象月において最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働時間数の層に属する労働者のこと」のように定義された「平均的な者」を、加藤大臣は「平均的な働く人」と、あたかも平均値であるかのように答弁していたのだ。

 そこで玉木議員はこう求める。

●玉木議員 加藤大臣、あまり議論してもあれなんで、数字、出してもらいたいんです。ここの、今言及された、平成25年度労働時間等総合実態調査における一般の労働者の平均時間と、2つのカテゴリーがあります、企画業務型と専門業務型の裁量労働制のもとで働いている労働者の、単純な労働時間の平均、これを出していただけますか?

 これに加藤大臣はこう答えている。

●加藤大臣 今申し上げた平成25年度労働時間等総合実態調査の結果をもとにですね、今、ご指摘のあったものが計算できるかどうか、検討してみたいと思います

 しかし「平均的な者」と「最長の者」についてのデータだけを収集しているこの調査から、本来の平均労働時間を算出することはできないはずだ。次の機会に、加藤大臣はどう答弁するのだろうか。注目したい。

 玉木代表はこう語ってこの問題への質疑を締めくくっている。

●玉木議員 事実、ファクトに基づいて政策を進めていくことが大事だと思いますので、ぜひ提出をいただきたいと思います。

 振り返ってみれば、加藤大臣は1月31日の森本議員に対する答弁でこう語っていた。

●加藤大臣 どういう認識のもとにお話しになっているのかということがあるんだと思いますけれども、確かにいろんな資料を見ていると、裁量労働制の方が一般の働き方に比べて長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います。

 加藤大臣が語ったデータは、「それぞれのファクト」と等価に語れるようなファクトであったのか、今後の質疑から、さらに明らかになってくるのではないだろうか。

 また、今後、加藤大臣が答弁を修正するのかも、注目したい。