野党質疑の短縮要請は、与党の自信のなさの表れであり、法案審議の意義を損なうもの

(写真:アフロ)

国会の質疑時間は、「与党2割・野党8割」から「与党7割・野党3割」へ?

 国会における野党の質疑時間が、大幅に縮小される恐れが出てきた。

 

政府・自民党は27日、衆院での与野党の質問時間の配分を見直す方向で調整に入った。議席割合より多い野党の質問時間を減らすことを検討している。

出典:朝日新聞デジタル2017年10月28日

 日本経済新聞によれば、10月27日に安倍首相が萩生田光一幹事長代行に野党の質疑時間の見直しを指示したという。

安倍晋三首相(自民党総裁)は27日、首相官邸で萩生田光一幹事長代行と会い、国会での野党の質疑時間を与党よりも大幅に多くする慣例について、見直すよう指示した。衆院選での自民党圧勝を踏まえ「我々の発言内容にも国民が注目している。そういう機会はきちんと確保していく努力を党にやってほしい」と語った。萩生田氏が明らかにした。

出典:日本経済新聞2017年10月27日

 同記事には次の記載もある。

自民党の若手議員は27日、質問に立つ機会が限られるとして、党国会対策委員会に与党の持ち時間を拡大するように要望した。

出典:日本経済新聞2017年10月27日

 同じ27日の2つの動きの前後関係は不明だが、若手議員の声を安倍首相が受けて対応したというよりは、安倍首相の意向を受けて若手議員が行動に出たと考える方が自然だろう。

 同日27日の菅官房長官の記者会見で冒頭質問を行った朝日新聞の記者によれば、若手議員らは予算委員会を特にあげて、「与党2(割) 対 野党8(割)」という時間配分についての見直しを求めたという。

 しかしこれは、予算委員会だけの問題にとどまらない可能性がある(予算委員会だけでも大問題だが)。

 上に示した通り、安倍首相の指示は、特に予算委員会に限った話ではない。また、菅官房長官も記者会見で上記の朝日新聞の記者に見解を問われ、

「議席数に応じた質問時間の配分を行うべきだという主張は国民からすればもっともな意見だ」

出典:朝日新聞デジタル2017年10月27日

という趣旨の回答を行っている。

 もし衆議院の議席数に応じた質問時間の配分が行われれば、自民・公明で3分の2の議席を占めているため、現在は与党2割・野党8割である質疑時間が、与党7割・野党3割と逆転しかねない。

 立憲民主党の長妻昭議員(代表代行 兼 政務調査会長)によれば、今の時間配分は、自民党が野党時代、強力に要請をした結果だという。

 

 それを今、数の力で逆転させようとしている。おごりというほかない。

 この動きに対し、野党各党からは当然のことながら、強い反発が示されている。

立憲民主党の福山哲郎幹事長(55)は、旧民主党政権時代に、当時野党だった自民党の要求で、与野党の質問時間の配分が「2対8」となったと説明。「安倍首相が国民への説明責任を果たすことになっていない」と強調した。共産党の穀田恵二国対委員長(70)は「ひきょうな手段。言論の府をおとしめるつもりなのか」と非難し、希望の党幹部も「事実上の質問封じだ」。与党寄りの立場を示すケースが多い日本維新の会幹部も「とんでもない暴挙だ」と憤った。

出典:スポーツ報知2017年10月29日

 逢坂誠二議員も下記の通り安倍総理の指示を強く批判している。

政府が出す法案は既に自民党の検討と了承を経ている

 野党の質疑時間の短縮は、予算の審議や政権運営に関する質疑を損なうと共に、法案審議の意義をおおいに損なう。以下では法案審議の場面に限定して、問題を指摘したい。

 議院内閣制の下で、与党は政府提出法案については、国会提出前に既にその内容の検討を終え、了承を行っている。従って、国会の法案審議において、与党と野党の果たすべき役割は大きく異なる。

 具体的な役割の違いについては、第二次安倍内閣(2012年12月26日~)で厚生労働大臣を務めた田村憲久衆議院議員が、かつて、自身のブログでわかりやすく解説している。

田村のりひさ●かわら版●「部会と委員会1」(2005年9月23日)より(抜粋)

 自民党の部会は党の政務調査会の中にあります。政調会長の下に基本的に各省庁に対応したかたちで部会が作られています。昨日もお話ししましたように、この中の厚生労働部会の責任者(部会長)を私はおおせつかっています。

 この機関は党においての政策の責任機関で法案を国会に提出するときには、かならずここで了承を得なければなりません。また、その時々の関心のある事柄もここで報告を受けます。

 部会員は原則自由で自民党の議員ならだれでも好きなときに参加できます。党内の多様な意見の調整、まとめをしなければならないので、結構大変です。(時には罵声も飛び交います。)

 さて、ここで了承を得た法案は次に自民党の政策審議会と総務会を通過後、閣議決定を経て国会へと提出されます。その後与野党の国会対策委員会や議員運営委員会で調整され、いよいよ、国会の各委員会へ付託されます。ここからが委員会の出番です。

田村のりひさ●かわら版●「部会と委員会2」(2005年9月24日)より(抜粋)

 委員会では法案を可決するために、参考人招致から委員会審議また、法案の修正、付帯決議などいろいろな話し合いが行われますが、基本的には与党は法案を成立させるために活動をします。その為に時間の都合で与党は自らの質問時間を犠牲にすることも希ではありません。(もっとも、先日も申し上げたよう与党は既に部会で十分議論していますが。)このようにして、部会から委員会に法案が移っていき成立をしていくのです。違いが解って頂いたでしょうか。

 最後に一言で違いを言えば、「与党にとって部会は政策を議論するところ、委員会は議論を尽くした法律案を成立するための作業をするところ」でしょうか。

 与党の部会が十分議論した内容が法案として国会の委員会に出てくるのだから、国会の質疑時間が野党に厚く配分されているのは理にかなっている。自信をもって国会に提出された法案であれば、野党の追及に対しても的確に答弁によって反論し、理解を得ることが可能なはずだ。

 にもかかわらず、野党の質疑時間の圧縮をねらうのは、野党の追及に耐えられないことを恐れているからではないか。

 たとえば安全保障関連法案や共謀罪法案をめぐる国会審議においては、野党が核心を突く質疑を行ったのに対し、政府側がまともな答弁を行うことができず、法案におおいに問題があることが明らかになった。にもかかわらず懸念点が払拭されないまま強行採決を行ったことは、国会前の抗議行動としてあらわれたように、世論の強い反発を招いた。

 強行採決は政権運営の安定に尾を引き続ける。数の力だけで政権運営ができるわけではない。

 この秋に臨時国会があれば与野党の対決法案となる予定だった「働き方改革」一括法案の要綱には、かつて2015年に国会に提出された「残業代ゼロ法案」の内容(高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大)が抱き合わせで含まれているが、この「残業代ゼロ法案」が2015年の国会で審議できなかったのも、審議すれば野党の追及から長時間労働を助長するという問題点があらわになり、数の力で成立させることが困難だと判断したからだろう。

 数の力だけで政府が国会を乗り切ることができないのは、充実した野党の質疑時間が確保されていてこそだ。野党の質疑は、政権の暴走を食い止める大事な役割を担っているのだ。もし野党の質疑時間が短縮されれば、法案の問題点が明らかになることもないままに、粛々と法案が成立していくことになりかねない。

法律の施行に関わる省令・指針の内容は国会審議を通じて形作られていく

 また法案をめぐる国会審議は、法案が成立するか否か、法案に修正がかけられるか否かだけに帰結するわけではない。

 法案が実際に成立して運用されるにあたっては、その具体的な詳細を定める省令・指針が成立後に策定され、施行されるのだが、それらの内容は法案要綱が示された段階では大まかにしか決まっていない。

 そのため、野党にとっては、法案の廃案や修正が国会情勢や会議日程から不可能である場合であっても、国会審議によって省令・指針に要求を盛り込むことが可能になる。労働法制関係であれば、国会審議の内容を踏まえて、法案の成立後にはじめて省令・指針の案の要綱が労働政策審議会の担当部会に諮問されることになる(その答申を経て省令・指針を策定し、施行に至る)。また、附帯決議によって後の法改正に向けた布石が打たれることもある。

 筆者は今年の3月に審議された職業安定法の改正案に衆議院厚生労働委員会における参考人意見陳述の形でかかわり、その後もこのヤフー個人ニュースの場を通じて国会審議の論点整理を随時行うことによって議論の方向性に影響を与えようと試みたが、そのことは省令・指針の内容に一定の影響を及ぼすことにつながったと考えている(※1)。

 労働契約の直前であっても説明さえすれば労働条件の変更を行ってもよいと取られかねない法案の内容には、国会審議を通じて一定の歯止めがかけられ、その歯止めは省令・指針に反映された。

 変更時の説明よりも募集時の的確な労働条件の明示こそが重要であるという野党側の指摘には政府も反論ができず、募集時の的確な労働条件明示を保障するための内容が省令・指針に盛り込まれた。

 特にその中でも、裁量労働制が適用される場合に募集時の労働条件にその旨を明示することが指針に盛り込まれたことは注目に値する(※2)。これは労働政策審議会の検討段階では盛り込まれていなかったものであり、筆者が参考人意見陳述で明示の必要性を指摘し、その指摘を衆議院厚生労働委員会で井坂信彦議員が取り上げ、参議院厚生労働委員会で石橋通宏議員が省令・指針に反映させることを念押しして実現したものだ。

 募集時の労働条件明示こそが重要であるという観点からの井坂議員と石橋議員の質疑は、塩崎厚生労働大臣(当時)に対し、論点ずらしを許さず、はっきりとした答弁を引き出す、とても緻密に計算されたものだった。そのような質疑によって明確な大臣答弁を引き出し、議事録が残される国会の場で言質を得ることが、法案成立後の省令・指針の内容につながっていくのだ。

 3月15日の衆議院厚生労働委員会における井坂信彦議員の質疑時間は30分。3月30日の参議院厚生労働委員会における石橋通宏議員の質疑時間も30分。その時間の大半をこの問題の質疑に集中させて、ようやく勝ち取れた成果である。(※1)に示した筆者の記事でもそのやりとりの一部を紹介しているが、ぜひ実際の質疑の様子を、インターネット審議中継(録画)や議事録によって確認していただきたい。

衆議院インターネット審議中継(録画)3月15日厚生労働委員会(井坂信彦)

参議院インターネット審議中継(録画)3月30日厚生労働委員会(石橋通宏)(44分過ぎより)

衆議院会議録「第193回国会 厚生労働委員会 第6号(平成29年3月15日(水曜日))」(井坂信彦)

参議院会議録 (第193回国会 厚生労働委員会)(石橋通宏)

 テレビでは国会審議のほんの一部しか中継されず、ニュースで取り上げられるのもほんの数秒の断片だけだが、こうした理詰めの緻密な質疑が行われて初めて、法案の施行段階での実質的な内実をより妥当なものに近づけていくことが可能になる。そのため、野党に十分な質疑の時間が確保されることは、充実した国会審議には欠かせない。

おわりに

 ネットには、国会における与党の質疑は不要だとの意見もある。しかし野党が追及しない論点について与党が質疑をおこない、法案のねらいを政府側が答弁する機会も確かに必要だろう。また、小林史明議員(総務大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官)が指摘しているように、国会の質疑で大臣答弁を議事録に残すことの意味は、与党にとってもあるだろう。

 しかし立憲民主党の枝野代表が10月14日の新宿の街頭演説で語ったように、民主主義とは単純な多数決ではなく、議論を尽くす過程を欠かすことはできない。

今多数を持っているからといって、説明をせず、反対の意見を無理やり押し切って、ろくな議論もしないで進めていくのは、民主主義じゃありません。

出典:立憲民主党 枝野幸男代表 演説全文(10月9日新宿)

 「議席数に応じた質問時間の配分を行うべきだという主張は国民からすればもっともな意見だ」という菅官房長官の記者会見における発言(趣旨)は、詭弁にすぎない。野党の国会質疑の短縮を画策することは、野党の質疑に耐えない国会審議が続くことを見越した上での、与党の弱さの表れであろう。

 国会審議の形骸化をもたらす安倍総理の指示は、認めることはできない。

***

(※1)筆者の参考人意見陳述後の、井坂議員と石橋議員による労働条件明示にかかわる質疑については、それぞれ、下記の記事を参照されたい。

求人トラブル防止のための労働条件明示。しかし「募集時」とは労働契約締結の直前までの時期を指す??(上西充子) - Y!ニュース(2017年3月17日)

求人トラブル対策:改正職業安定法成立後の省令等は国会審議を踏まえて制定を(上西充子) - Y!ニュース(2017年4月4日)

(※2)募集時の労働条件明示において固定残業代制をとる場合にはその詳細を、また裁量労働制をとる場合にはその詳細を、明示することが指針で求められた(2018年1月1日施行)。10月になって公開された厚生労働省のリーフレットに、その旨が下記の通り記載されている。

リーフレット「求職者の皆さまへ」
リーフレット「求職者の皆さまへ」

*****

【追記(2017年10月30日 22:25)】

上記の記事公開後に、立憲民主党・枝野代表、日本共産党・志位委員長、社民党・福島みずほ議員より、それぞれツイッター上で意見表明があった。掲載しておきたい。