マニフェストを読み解く――「働き方改革」は経済政策か、暮らし・働き方の政策か

(写真:ロイター/アフロ)

本来は選挙の大きな争点である「働き方改革」

 昨年来、安倍首相は繰り返し「働き方改革」を重要な政策として掲げ続けてきた。3月28日に官邸主導でとりまとめられた「働き方改革実行計画」では

日本経済再生に向けて、最大のチャレンジは働き方改革である

と位置付けられている。

 しかし国会の解散を語った9月25日の記者会見で、安倍首相は「働き方改革」については一言も語らなかった。かわりに語ったのは「生産性革命」と「人づくり革命」であり、「この2つの大改革はアベノミクス最大の勝負です」と語られた。

 なぜ「働き方改革」は語られなくなったのか。まだ法案は成立しておらず、「働き方改革」の実行には至っていないにもかかわらず。

 9月15日には法案要綱の答申を得ており、あとは閣議決定と国会への法案提出を待つばかりだった。しかし、9月28日の衆議院冒頭解散を決めた政権与党は、閣議決定を見送った。

 冒頭解散がなければ「働き方改革」一括法案は、臨時国会で与野党の「対決法案」となる予定だった。長時間労働を促進する恐れが強い「高度プロフェショナル制度の創設」と「裁量労働制の適用拡大」が、一括法案に含まれているからだ。

 10月8日の日本記者クラブ主催の党首討論会において、立憲民主党・枝野代表は安倍首相に対し、「働き方改革」一括法案を選挙後に成立させようとしているかを問うたが、そこでも安倍首相は話題をそらし、問いには答えなかった。おそらく、選挙の争点とされたくなかったのだろう。

長時間労働是正と抜け穴の拡大を同時に目指す「働き方改革」一括法案、枝野代表の問いに安倍首相は答えず(上西充子) - Y!ニュース (2017年10月8日)

 だが政権与党はほぼ間違いなく、遅くとも年明けの通常国会には「働き方改革」一括法案を提出してくるだろう。政権与党が争点化したくなくても、働き方のルールの変更が問われているこの法案は、選挙の大きな争点とみるべきだ。

 この「働き方改革」に関し、筆者は10月17日のTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」に出演し、各党のマニフェストを検討する機会を得た。

 当日は下記の4名がそれぞれ関連の深い4つのテーマについて15分ずつ語った。

●安倍政権の政治手法:神保哲生(ジャーナリスト)

●働き方改革:上西充子(法政大学教授)

●経済政策:松尾匡(立命館大学教授)

●社会保障:大西連(NPO法人もやい理事長)

 音声配信がされているので、ぜひお聞きいただきたい。

 以下ではこの番組で語れなかった部分も含めて、「働き方改革」にかかわる各党のマニフェストの読み解きを行ってみたい。次の4つの論点を取り上げる。

(1)「残業代ゼロ」(高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大)

(2)長時間労働の是正(時間外労働の上限規制、勤務間インターバル制度)

(3)非正規労働者の処遇改善(「同一労働同一賃金」)

(4)最低賃金

 各党のマニフェストは下記を参照した。

●自民党「政権公約2017

●公明党「衆院選 重点政策 Manifesto2017

●立憲民主党「国民との約束

●日本共産党「2017総選挙政策

●社民党「衆議院総選挙公約2017

●希望の党「政策パンフレット

●日本維新の会「2017維新八策

●日本のこころ「政策実例

 なお、「働き方改革」にかかわる各項目について、日本労働弁護団と「わたしの仕事8時間プロジェクト」がそれぞれ独自に政党アンケートを実施し、その結果を下記の通り公表している。その調査結果にも適宜触れていきたい。

●日本労働弁護団「《2017衆議院選挙》政党・候補者アンケート」(10月18日公表)

●わたしの仕事8時間プロジェクト「総選挙における労働時間政策(プラス最低賃金)に関する質問《各党の回答》」(10月19日公表、20日更新)

 なお、10月16日の東京新聞の下記の記事によれば、希望の党の事務局は取材に対し、政府の働き方改革について「党としての統一見解はない」と説明したという。そのため、下記では一覧表には含めるが、分析の対象からは、はずすこととする。希望の党の各候補者については、それぞれの見解やこれまでの実績等を踏まえて判断いただきたい。

東京新聞:<比べてみよう公約点検>(5)働き方 長時間労働 どう是正:政治(TOKYO Web)(2016年10月16日)

「働き方改革」は、自民党・公明党にとっては「経済政策」。立憲民主党・日本共産党・社民党にとっては「暮らし」や「働き方」にかかわる政策

 まず、各論に入る前に、大まかな見取り図を示しておきたい。「働き方改革」、「残業代ゼロ」(高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大)、「長時間労働の是正」、「同一労働同一賃金」という4つのキーワードについて、各政党のマニフェストがどのような項目の中に位置づけているかを整理すると下記の通りだ。

筆者作成
筆者作成

 「経済政策」に関する項目を緑色に、「暮らし」や「働き方」に関する項目をオレンジ色に色付けしてみた。政権与党である自民党・公明党にとって、「働き方改革」とは経済政策であることがわかる。一方、立憲民主党・日本共産党・社民党にとっては、「暮らし」や「働き方」に関する政策として位置付けられている。希望の党と日本維新の会においては、経済政策と暮らしに関する政策に分かれて記載されており、「日本のこころ」においては暮らしに関する政策に位置づけられている。

「経済政策としての働き方改革」なのか、「一人一人の暮らし方・働き方の問題としての働き方改革」なのか。この違いは大きい。

安倍政権の「働き方改革」は経済政策

 安倍政権の「働き方改革」は、「長時間労働の是正」と「同一労働同一賃金」を前面に出していることから、働く人の願いに沿った方向での「働き方改革」であるという印象を与える。しかし実際の「働き方改革」は経済政策である。

 実は、安倍政権が進めようとしている経済政策としての「働き方改革」の2つの柱は、「長時間労働の是正」と「同一労働同一賃金」ではなく、「より多くの人に労働参加してもらうこと(労働力率の向上)」と、「労働生産性の向上」だ。

 そのことは「働き方改革」一括法案に含まれる雇用対策法の改正をめぐる9月1日の労働政策審議会で事務局(厚生労働省幹部)が次のように語っているところからも明らかである(下記記事を参照)。

少子高齢化が進む中で、様々な事情を抱えている方にも労働参加してもらうことと、労働生産性の向上は、「働き方改革実行計画」の2つの柱だ。

静かに行われようとしている雇用対策法の改正―「労働生産性の向上」と「多様な就業形態の普及」―(上西充子) - Y!ニュース (2017年9月7日)

 安倍政権の実際の「働き方改革」については、2種類の働き方(働かせ方)をイメージすると理解しやすい。

 1つは、様々な事情を抱えている人にも幅広く労働参加してもらうための働き方改革だ。長時間労働が是正されれば、育児や介護を担う必要がある人や、高齢者なども、より多様な仕事に就きやすくなる。ただし、それでも事情に応じて非正規で働く人もいるし、不本意ながらも非正規で働くことを余儀なくされている人もいる。そのため、低処遇の状態に置かれている人たちの処遇を引き上げてより意欲的に働いてもらうことも必要になる。「長時間労働の是正」や「同一労働同一賃金」は、このような目的に即した施策だ。

 もう一方で、様々な事情を抱えていない人には、より仕事に集中し、より生産性高く働いてもらいたい。それが、労働基準法の様々な規制をはずした働き方(働かせ方)を可能とする高度プロフェッショナル制度の創設や裁量労働制の拡大だ。

 そのため実際に法案要綱の段階まで準備されている「働き方改革」一括法案には、「時間外労働の上限規制」に関する法改正と、「同一労働同一賃金」に関する法改正の他に、いわゆる「残業代ゼロ法案」と言われている、高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大が含まれている。

 高度プロフェッショナル制度と裁量労働制は、残業をしてもその実態に即した残業代を払わずに済む働かせ方である。時間を気にせず自由に働けるイメージがあるが、業務量をコントロールする権限はないため、実際には長時間労働を助長する恐れが強い。特に裁量労働制については、法人営業職にまで対象を拡大することが見込まれているため、影響範囲が広い。これらの法改正については、これまで野党や労働団体の反対が強く、法案は用意されたものの国会審議に至らなかった。

 その「残業代ゼロ」法案が今回の「働き方改革」一括法案に「抱き合わせ」の形で組み込まれたことから、冒頭解散がなければ秋の臨時国会の「対決法案」となると見られていたのだ。

 そういう次第であるから、与野党のマニフェストでは、この「残業代ゼロ」法案の扱いに、もっとも違いが現れる。以下に見ていこう。

マニフェスト比較(その1):「残業代ゼロ」(高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大)

 上に見たように、この部分は政権与党にとっては、反発を招くため、できるだけ選挙では触れずにおきたい部分だ。そのため、自民党や公明党のマニフェストには、はっきりとした記載は見られない。

筆者作成
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 自民党・公明党のマニフェストでは、高度プロフェッショナル制度の導入や裁量労働制の拡大は、「多様な形で働き」「働き方改革」「・・・など多様なライフスタイルを実現する働き方改革」「・・・など、働き方改革の実現」などという言葉の中に隠されているように思える。有権者に対して、不誠実な示し方だ。

 なお、自民党の欄のうち、「イノベーションによる生産性の向上と働き方改革による潜在成長率の引上げ」「イノベーションが可能にする魅力的なビジネスを世界に先駆けて実現させるため、岩盤規制改革に徹底的に取り組みます」という記載は、実は高度プロフェッショナル制度の導入や裁量労働制の拡大のことを指しているのかもしれない。「岩盤規制」が何を指すかは明らかではないが、安倍政権にとっては労働法制もおそらく、「岩盤規制」の1つとみなされていると考えられるからだ。

 例えば「平成28 年9月21 日 ニューヨークでの金融・ビジネス関係者との対話における安倍総理講演」で、安倍首相は「働き方改革」について語っているのだが、その最後は次のように締めくくられており、ここに岩盤規制を打ち砕くための「ドリルの刃」が登場している。

 この問題は、社会問題である前に、経済問題です。我々は労働参加率を上昇させなければなりません。賃金を上昇させなければなりません。そして、労働生産性を向上させなければなりません。「働き方改革」が、生産性を改善するための最良の手段だと信じています。

 来週、日本に帰った後、私は腕まくりをして、この課題に取り組み始めます。「働き方改革」をミッションとする、民間アドバイザーを入れた会議体を立ち上げます。改革に必要な法律が何かを整理し、それを提案します。今後数か月以内に取りまとめます。

 日本は加速しています。アベノミクスも加速しています。私は私の、ドリルの刃を研ぎ澄まします日本経済の構造を変えるため、私のドリルの刃は、依然として高速回転中です

(出所:「第1回働き方改革実現会議」(2016年9月27日)資料3)

 政権与党である自民党と公明党が争点化を恐れてはっきりとした記載をしていないのに対し、日本維新の会は「既得権と戦う、維新流の経済・財政政策」という項目において、「労働時間規制を見直し、多様な働き方を導入」と記載している。労働時間規制によって守られていることは、「既得権」と位置付けられているようだ。

 さらに日本維新の会は、「労働時間ではなく仕事の成果で評価する働き方を可能とする労働基準法の改正」と明記している。これは高度プロフェッショナル制度の導入を意味していると考えられる。

 一方、日本共産党は、「残業代ゼロ法案」に断固反対する旨を記載している。社民党も同様であり、社民党はさらに、従来導入されている「裁量労働制の要件の厳格化」にも取り組むとしている。

 立憲民主党は該当する記載がない。ただし、立憲民主党は10月2日に結党会見を行いあわただしく選挙に向けて体制を整えたことを考えると、マニフェストの内容が簡素であるのも致し方ない。その後の枝野代表の演説では、残業代ゼロ法案に対し、次のようにはっきりと反対の意思を表明している。

立憲民主党 枝野幸男代表 演説全文(10月14日新宿)

 まず今の労働法制をしっかりと適用させろ。守らせろ。

 残業代ゼロ法案、このまま安倍政権が圧勝すれば、残業しても残業代払わないという、まったく無茶苦茶な法案、準備ができあがっているんです。やるべき方向は逆です。むしろ長時間労働をしっかりと規制する。そして派遣法を段階的に強化をしていく。働いたらちゃんと給料がもらえる。働くというのは、希望をすれば正社員で働くんだという、30年前には当たり前だった、まっとうな仕組みを取り戻そうではありませんか。

 なお、日本労働弁護団が行ったアンケート結果によれば、高度プロフェッショナル制度の創設と企画業務型裁量労働制の規制緩和について、各党の賛否は下記の通りとなっている。

筆者作成
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 いずれも賛否だけでなく、さらにコメントが付されているので、その内容は元のアンケート結果をご確認いただきたい。

マニフェスト比較(その2):長時間労働の是正(時間外労働の上限規制、勤務間インターバル制度)

 次に、長時間労働の是正について各党のマニフェストを比較してみよう。

 「働き方改革」一括法案では、時間外労働の上限規制は、現在の労働省告示の月45時間を罰則つきで法制化すると共に、従来は青天井であった特別条項の限度時間を、「特例」にかえて最大で単月「100時間未満」、2~6か月平均で「80時間以内」とするものであり、まがりなりにも上限が設定されることを評価する声がある一方、過労死ラインの上限設定はかえって各企業における三六協定の上限設定に悪影響を及ぼし、労災認定や裁判にも悪影響を及ぼすという反対の声もある。

 また、月あたりの時間外労働の上限規制だけでなく、本来であれば毎日の退社時から翌日の勤務開始時までの間に一定の休息時間を設ける「勤務間インターバル制度」もあわせて導入することが望ましい。数日でも徹夜が続けば心身の健康は損なわれてしまうからだ。「働き方改革」一括法案では「勤務間インターバル制度」は一応は盛り込まれたものの、「努力義務」という位置づけになっている。これについてもマニフェストの記載を調べた。

 主な記載は下記の通りである。一部の記載は簡略化して示した。

筆者作成
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 自民党と公明党の記載は法案要綱に沿っているのでほぼ同じである。建設業や自動車運送業、医師など個別の問題に触れているのは詳しく政策があるように見えるが、それらについて特別に記載がされているのは、法案要綱において、これらの業種が当面は時間外労働の上限規制の適用対象外になっているからである。特に手厚い対策を打とうとしているわけではなく、むしろ、すぐに対策を打てないがゆえに補足的に記載があるものと理解すべきだ。

 自民党・公明党には記載がない「インターバル規制」(休息時間)が、日本共産党と社民党には記されていることが注目される。日本維新の会にも「インターバル規制」の記載があるが、「シニア向け」と書かれてあり、趣旨が判然としない。「眠りたい以外の感情を失った」との言葉を残して過労自死に追い込まれた電通の高橋まつりさんの事例にみられるように、若手社員にとっても当然、日々の十分な睡眠は必要である。

 なお、日本労働弁護団によるアンケートの結果は下記の通りである。いずれも賛否などについて、さらにコメントが付されているので、その内容は元のアンケート結果をご確認いただきたい。

筆者作成
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 また、「わたしの仕事8時間プロジェクト」は、労働時間政策について、細かに質問を分けて各党に尋ねており、その結果は下記の通りである。

筆者作成
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 こちらも別途、各党からコメントが付されているものがあるので、その内容は元のアンケート結果をご確認いただきたい。

 また、昨年11月15日には、当時の野党四党(民進党、日本共産党、社民党、自由党)が、与党案への対案としての「長時間労働規制法案」を国会に提出している。

長時間労働規制法案を罰則強化し再提出(民進党ニュース 2016年11月15日)

 具体的な内容は上の記事からのリンクにあるが、(1)労働時間の延長の上限規制(2)インターバル規制の導入(3)週休制の確保(4)事業場外みなし労働時間の明確化(5)裁量労働制の要件の厳格化(6)労働時間管理簿の義務付け(7)違反事例の公表(8)罰則の強化等を規定したものである。

 このため、立憲民主党も、これらの政策は引き継ぐものと考えられる。

 このうち(6)の「労働時間管理簿の義務付け」は、目立たないが大事な政策だ。現行の労働基準法には労働時間の客観的な管理と記録を義務づける明確な規定がなく、労働基準監督官が是正勧告を行う際にも、また労働弁護士が時間外労働の違法性を争う場合にも、大きく支障となってきた。今後、時間外労働の上限規制を行うに際しても、労働時間の客観的な管理は一層重要となる。

 さらに、「労働時間を正確に把握すること」は、「残業時間の減少」「年休取得日数の増加」「メンタルヘルスの状態の良好化」に資することが厚生労働省の調査により明らかになっている。

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出所:平成28年度「過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業報告書」(概要版)

 労働時間の客観的な把握については、法案要綱にも盛り込まれているが、労働安全衛生法の施行規則の改正という形が予定されており、すべての労働者の労働時間を客観的に把握することを規定しているのかどうか、曖昧な部分を残している。

マニフェスト比較(その3):非正規労働者の処遇改善(同一労働同一賃金)

 次に、非正規労働者の処遇の改善に関わる「同一労働同一賃金」である。

筆者作成
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 「同一労働同一賃金」もしくは「同一価値労働同一賃金」という言葉はすべての党に見られるが、その内容は実は異なっている。

 自民党と公明党は、「働き方改革」の法案要綱を基本的に踏襲しているだろう。ただし公明党は「正社員の処遇を下げて対応しないよう取り組みます」と明記している点が注目される。

 「働き方改革」の法案要綱における「同一労働同一賃金」とは、同じ使用者のもとに雇用されている非正規労働者と正規労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指すものであり、いかなる待遇差が不合理であり、いかなる待遇差は不合理ではないかを示す「同一労働同一賃金ガイドライン案」も既に作られている。

 ただし、そのガイドラインに従うとしても、賃金体系が全く異なる正社員と非正規労働者を同じ物差しで比較することは容易ではない。また、同じ業務に従事していても「責任の程度」や「配置の変更の範囲」などが異なれば基本給の額が異なっていても不合理な待遇差ではないと判断されているなど、非正規労働者の処遇の改善につながる効果はかなり限定的であると見られている。

 そのため、この法案要綱に含まれている「同一労働同一賃金」に限定して賛否を問うた日本労働弁護団のアンケートでは、下記の通り、立憲民主党と日本共産党が反対を表明している。格差の正当化や固定化につながりかねない、というのがその主な理由だ(詳しくは元のアンケート結果のコメントを参照されたい)。

 

筆者作成
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 ではどのような「同一労働同一賃金」であれば望ましいと考えられるのか。

 社民党はマニフェストに「ILOが示す同一価値労働・同一賃金の原則」と記している。これは法案要綱のガイドラインとは異なり、異なる使用者と契約関係にある労働者間においても、また、異なる仕事に従事している労働者間においても、客観的な基準に照らして同一価値の仕事であれば同一賃金を受け取るべきであるという考え方である。「知識・技能」「負担」「責任」「労働条件」といった、どの職務にも適用可能な普遍的な指標で職務評価を行うことによって、男性が就くことが多い仕事と女性が就くことが多い仕事の価値を比較し、しばしば低賃金になりがちな女性の仕事の状況に改善の道を開くものでもある。

 このILOの考え方については、詳しくは下記を参照されたい。

●ILO「同一賃金 同一価値労働 同一報酬のためのガイドブック」(日本語版2016年)

 このように、同じように「同一労働同一賃金」や「同一価値労働同一賃金」と記されていても、その含意は大きく異なるのだ。

マニフェスト比較(その4):最低賃金

 さらに最低賃金についてもマニフェストの比較を行っておきたい。

 安倍政権は全国加重平均で時給1,000円を目指しているが、下記のグラフの通り、地域間格差は大きく、また、拡大している。一方で、生活にかかる費用は地域によってほとんど変わらないという調査もある。

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出所:全労連ホームページ

 このため日本共産党と社民党は、全国一律での最低賃金1,000円を求めており、さらに、生活できる賃金として最低賃金の1,500円への引き上げを求めている。

 また、立憲民主党における保育士・幼稚園教諭、介護職員等の待遇改善・給与引き上げ、日本共産党における公契約法(条令)、社民党における非正規公務員の待遇改善など、公的に介入が可能な分野において処遇の改善を行う提言も見られる。

 なお、「わたしの仕事8時間プロジェクト」による最低賃金に関する各党の結果は下記の通りである。

筆者作成
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「働き方改革」を支える理念

 以上、主に「働き方改革」に関して、各党のマニフェストの比較検討を行ってきた。「働き方改革」が経済政策であるのか、それとも「暮らし」や「働き方」に関わる政策であるのかということは、単にマニフェストの中の位置づけの問題ではない。どのような理念にその政策が裏打ちされているかも示すものと言えるだろう。

 立憲民主党の枝野代表は街頭演説の中で、「暮らしからの経済再生」を目指すことや、自由な競争は「公平・公正なルール」がしっかりと守られることが前提であることを語っている。

 日本共産党は、「本物の働き方の改革――8時間働けばふつうにくらせる社会に」をマニフェストに掲げている(p.9)。

 社民党はマニフェストで、

世界で一番企業が活躍しやすい国づくりのための「働き方改革」ではなく、ディーセント・ワーク(人間らしい尊厳のある働き方)とワークライフバランスの実現、雇用のセーフティネットの強化に取り組みます。

としている(p.3)。

 「働き方改革」というとき、それはどのような理念に支えられた言葉なのか、どのような観点での政策なのか、を見極める必要があろう。

最後に

 以上見てきたように、「働き方改革」の法改正には、大きく

●「残業代ゼロ」(高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大)

●「時間外労働の上限規制」

●「同一労働同一賃金」

の3つの内容が含まれ、特に「残業代ゼロ」については政権与党の自民党・公明党と、立憲民主党・日本共産党・社民党は真っ向から意見が対立している。時間外労働の上限規制についても、罰則つきで月45時間の上限を設けることには立憲民主党・共産党・社民党も賛成であるが、特例の水準については各党で意見が異なっている。

 そのため、一括法案化はすべきではない。無理やり通したいために政権与党としては一括法案としたいのだろうが、それは国会を軽視する行為であることは明らかだ。

 日本労働弁護団のアンケート調査では、一括法案提出について賛成を表明しているのは自民党のみである。

筆者作成
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 それでも選挙後に数の力で押し切ろうとするのだろうか。その見通しも含めて、皆さんには熟慮していただきたい。

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【修正(2017年10月20日11:00)】

 誤字のほか、下記の2点を修正しました。失礼しました。

(1)「マニフェスト比較(その2)」で一括法案の内容について説明した箇所で2~6か月平均で「80時間」としていたところを「80時間以内」に修正。

(2)同じく「マニフェスト比較(その2)」で「わたしの仕事8時間プロジェクト」によるアンケート結果について「維新」の欄のQ6が〇、Q7が×となっていたのは転記ミスであったため、Q6を×、Q7を〇に修正。

【追記(2017年10月20日17:15)】

「わたしの仕事8時間プロジェクト」のアンケート調査に新たに立憲民主党の結果が追加されたため、表の内容を更新した。