長時間労働是正と抜け穴の拡大を同時に目指す「働き方改革」一括法案、枝野代表の問いに安倍首相は答えず

日本記者クラブ主催の党首討論会(2017年10月8日開催)(写真:ロイター/アフロ)

選挙の隠された争点としての「働き方改革」

 「働き方改革」一括法案は、突然の冒頭解散がなければ、秋の臨時国会で与野党の対決法案となる予定だった。

 なぜ「対決法案」となる予定だったかと言えば、かつて「残業代ゼロ法案」と呼ばれていた2015年法案に含まれていた高度プロフェッショナル制度の導入と裁量労働制の拡大が、「働き方改革」一括法案の中に盛り込まれる予定だったからだ。

 既に法案要綱は作成され、労働政策審議会からの答申も9月15日に得て、あとは閣議決定を経て国会に提出するだけだったが、解散総選挙が決まり、閣議決定が行われないままとなっている。

 「働き方改革」一括法案は、本来は選挙の大きな争点となってしかるべきなのだが、安倍政権としては争点化を徹底して避けたいようだ。解散の意思を表明した9月25日の記者会見で安倍首相は、「生産性革命」と「人づくり革命」、「この2つの大改革はアベノミクス最大の勝負です」と語ったが、「働き方改革」については一言も触れなかった。

 また自由民主党が10月2日に発表した「政策BANK2017」には「働き方改革」の項はあるが、「長時間労働の是正」や「同一労働同一賃金」、「柔軟で多様な働き方」への言及はあるものの、高度プロフェッショナル制度の導入や裁量労働制の拡大への言及はない。

 朝日新聞は本日10月8日の社説で、過労死や過労自殺の根絶に向けた長時間労働の是正に対する各党の考えと本気度を問うている。

(社説)衆院選 過労死根絶 各党の本気度を問う:朝日新聞デジタル 2017年10月8日

 安倍政権は「働く人の立場に立った改革」を強調していたが、一部の人を労働時間規制から外し、残業や深夜・休日労働をしても割増賃金を支払わない「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の導入も進めようとした。野党が「残業代ゼロ法案」と批判し、2年間国会でたなざらしになってきた案だ。

 自民、公明両党は、選挙公約に長時間労働の是正を盛り込む一方で、高プロの導入には言及していない。残業代をなくせば長時間労働が助長されるのではないか。まず残業時間規制を優先するべきではないのか。こうした疑問に答えるべきだ。

(同社説より)

党首討論会で立憲民主党・枝野代表が安倍首相に法案成立の意思を問う

 その中で本日(10月8日)、日本記者クラブ主催の党首討論会が行われ、立憲民主党の枝野幸男代表が安倍首相に対し、「働き方改革」一括法案を選挙後に成立させようとしているかを問うた(こちらの映像の36:30過ぎより)。

●立憲民主党・枝野幸男代表

 安倍(晋三)首相におうかがいする。先ほどのおたずねには都合のいい数字だけ並べて私の聞いた、内需と外需、原因がどちらにあるのかとか、消費性向の問題についてはなんらお答えにならなかったが、同じことを聞いても一緒なので、今度は労働法制についてうかがいたいと思います。この解散の直前まで、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプション(高度プロフェッショナル制度)や裁量労働制の拡大など、私どもはいわゆる『残業代ゼロ制度』と呼んでいるが、こうした法案を準備していた。この選挙に勝ったら、再びこれを成立させようとするのかどうか。そしてこれは、過労死や過労自死などが相次いでいるという、こうした社会状況のなかでは、まったく時代に逆行したことではないのかと私どもは思っていますが、こうしたブラック企業、長時間労働についての考え方をお聞かせください

産経ニュース【党首討論会詳報(3)】(2017年10月8日)より

 この討論会では、質問は1分、回答も1分とあらかじめ司会者が告げていた。

この選挙に勝ったら、再びこれを成立させようとするのかどうか」が枝野代表の質問の核心であったのだが、安倍首相は、その前に枝野代表が質問し、安倍首相が長々とした説明によって答えなかった部分に答えることによって、その質問に答えないための時間稼ぎをしている。

 そのうえでさらに、時間外労働の上限規制やブラック企業対策などに言及することによって、あたかも質問に答えているかのように装っているが、「この選挙に勝ったら、再びこれを成立させようとするのかどうか」という問いに対しては、結局、答えていない。

●安倍晋三首相(自民党総裁)

 はい。まずひとつは先ほど答弁し残したところとしてですね、消費性向についてお話があった。だからこそ私たちは、子供たちへの投資をしっかりしていく、子育ての不安、家族の介護の不安、これに対して私たちはしっかり支援していくことを示す。

 同時に、借金返しもしていくことによって、財政大丈夫か、この2つの不安にこたえることによって、消費を進めていきたいと考えています。もう1点。われわれはまず、すでに連合とも合意をいたしました。時間外の長労働(ママ)の上限を決めました。こうやって働き過ぎを変えていく、そしてまたブラック企業等に関しては、罰するものは罰する、取り締まることは当然のことではないかと思います。同時に、多様な働き方になっていくことで、女性も高齢者も仕事を持つことができる、持ち続けることができるのではないか、このように考えております

産経ニュース【党首討論会詳報(3)】(2017年10月8日)より

 問われても答えない、これは明らかな争点隠しである。これからの選挙において、「働き方改革」一括法案が問われないままになれば、選挙後になって「民意を得た」として法案が提出され、国会審議もそこそこに成立が狙われることも十分に考えられる。各党は選挙の中で「働き方改革」一括法案の是非を、その個々の内容にわたって問うていただきたい。

 なお、上記の枝野代表の質問は、曖昧な回答を許す問い方になっている印象を受ける。同じ党首討論会における別の論点に関する日本共産党・志位委員長の問い方(この記事の【補足】に掲載)は、質問を1点に絞り、その質問を問う意味を語った上で、端的に質問の内容を明示し、端的な回答を求めるという、とてもわかりやすく、かつ、逃げを許さないものだった。結局、安倍首相はその問いには答えなかったのだが、「答えていない」ということがよくわかる問い方だった。

 筆者はその志位委員長の問い方を参考に、先の枝野代表の質問を次のように書き換えてみた。今後の討論では、枝野代表をはじめとして立憲民主党の方々には、改めて「働き方改革」一括法案について、とりわけ高度プロフェッショナル制度の導入と裁量労働制の拡大について、選挙の争点として提示すると共に、各党に問うていただきたい。

■筆者作成の模擬質問

 安倍(晋三)首相におうかがいする。

 過労死・過労自死の根絶は、早急に取り組むべき課題だ。政府は「働き方改革」で長時間労働の是正をうたい、時間外労働の罰則つき上限規制を法制化しようとしているが、同時に、その上限規制の抜け穴となる高度プロフェッショナル制度、これまでホワイトカラー・エグゼンプションと呼ばれてきたものを導入しようとしている。また、同じく長時間労働の助長につながる恐れが強い裁量労働制の拡大も行おうとしている。

 しかも、時間外労働の罰則つき上限規制と高度プロフェッショナル制度の導入、裁量労働制の拡大を、同一労働同一賃金に関する法改正など共に抱き合わせで、働き方改革関連の一括法案として、この解散の直前まで国会に提出しようとしていた。

 端的にうかがいたい。この選挙に勝ったら、再びこの一括法案を成立させようとするのかどうか。イエス、ノーで、端的にお答えいただきたい。

***

【補足】

 筆者が参考にした、党首討論会における日本共産党・志位委員長の質問は下記の通り。

●日本共産党・志位和夫委員長

 安倍さんに質問いたします。北朝鮮による核・ミサイル開発は断じて容認できません。国連安保理(安全保障理事会)決議の厳格な、全面的な実行が必要です。同時に、破滅をもたらす戦争は、絶対に起こしてはなりません。この点で私が大変危惧しているのは、安倍さんが、すべての選択肢はテーブルの上にある、という米国の立場を一貫して支持すると繰り返していることです。ここでいう選択肢の中には、軍事的選択肢、すなわち先制的な軍事力行使も含まれます。実際、1994年の核危機の際には、米国は北朝鮮の核施設を(巡航ミサイル)『トマホーク』で破壊する、敵地先制攻撃一歩手前までいきました。このときは、韓国の当時の金泳三大統領が直談判までして止めました。首相に端的に問いたい。北朝鮮の軍事挑発は絶対に容認できませんが、それに対して先制的な軍事力行使で対応したら破滅をもたらす戦争になります。先制的な軍事力行使は絶対やるべきでないと米国に求めるべきではありませんか。端的にお答えください

産経ニュース【党首討論会詳報(3)】(2017年10月8日)より

***

【追記(2017年10月8日23:35】

 上記の枝野代表の質問に対し、安倍首相は「われわれはまず、すでに連合とも合意をいたしました」と答えている。しかしこれは、誤解を招く答え方だ。高度プロフェッショナル制度の導入や裁量労働制の拡大については、連合との合意は成立していない。連合は現在も、これらを法案に盛り込むべきではないという姿勢を維持している。9月27日の記者会見でも連合の神津会長は

どう考えても趣旨が違うので入れるべきではないと言っていた高度プロフェッショナル制度あるいは裁量労働制の拡大、それらが混在せざるを得ない形で法案要綱というものが確定をしたということです。これはしかるべく国会の中で清々と、その意味合いを丁寧にその要素ごとに議論がされて、質疑がされて、私との立場からすればしかるべく必要でないものは取り除くという修正が図られるということを望んでいたわけですが、そもそもの法案審議がこれですっ飛んでしまって

 と発言している。

 確かに時間外労働の上限規制については3月13日に「時間外労働の上限規制等に関する労使合意」が結ばれ、その内容が3月28日の「働き方改革実行計画」に盛り込まれ、その後の労働政策審議会の検討を経て法案要綱に反映されている。

 しかし、枝野代表が問うているのは、高度プロフェッショナル制度の導入と裁量労働制の拡大を盛り込んだ法案の成立についてであり、これらについては連合との合意は成立していない。連合が最低限の是正を求めて申し入れを行った事実はあるが、その是正申し入れに関して政労使合意は結ばれなかった。この点については下記を参照されたい。

労働基準法等改正法案の修正等に関する取り組みについて(事務局長談話)(2017年7月27日)

 高度プロフェッショナル制度の導入と裁量労働制の拡大を含む法案を成立させようとするのかという枝野代表の問いに「われわれはまず、すでに連合とも合意をいたしました」と安倍首相が答えているのは、著しく正確性を欠き、誤解を与える答え方だと言わざるをえない。

***

【追記2(2017年10月8日23:50】

 高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の内容と問題点、法改正に向けた動きについては、下記がわかりやすい。

(政策を問う 2017衆院選)労働時間規制、揺らぐ枠組み:朝日新聞デジタル 2017年10月4日